死臭漂う小鬼達

 ニース達が去ったのを見届けた僕は、ゴブリンの巣に戻り、念のためにロアをもう一度出した。森中に散らばった魔物達もこの巣に戻って来るように命令した。


「んー、じゃあみんなは巣の入り口でも見張っといて。あ、ロアは取り敢えず強そうな奴を一箇所に集めて欲しいんだ。場所は……キングがいた部屋でいいかな」


 強そうな奴を集めるのには理由がある。それは、範囲内で纏めてアンデッド化する死霊術のスキルは蘇生の確率が下がるからだ。だから、強そうな奴は一体ずつ死霊術をかけた方が良いということだ。


「まぁ、取り敢えずここら辺の死体を起こしながら行こうかな」


 ロアが巣の奥に進んでいったのを見た僕は、取り敢えず入り口の方にいる奴から起こしていくことにした。大体、一回の術の範囲は半径十メートルくらいだ。バンバンいこう。


「『円環の理に未だ導かれぬ者達よ、路傍の石にも劣る凡情にして陳腐な死体共よ。死を以って偽りの生を取り戻せ。蘇生擬きネクロマンス・ゾンビ』」


 範囲蘇生用の死霊術を使うと、通路に転がっていた無数のゴブリンの死体がよろよろと起き上がり始めた。中には、首のないものや顔がめちゃくちゃになっているものもある。残念ながら、頭が潰れてたり、そもそもなかったりするゾンビ達はあまり戦力にならない。耳も目も鼻も無いからだ。

 基本的にアンデッド達の脳みそや臓器は動いていないが、目や耳などの感覚器は生きているらしく、それが無ければいよいよ触覚と魔力の気配だけを頼りに動くことになる。


 まぁ、そういう子達には気配察知スキルを取得させる必要がある。というか必須だ。


「……三十体くらいかな?」


 取り敢えず、今回のでは三十体くらいは蘇らせることができたらしい。取り敢えず、ゾンビ化させたゴブリン達は壁際に並んでもらっておこう。


「じゃあ、みんな壁際に並んどいてね。立ってても座ってても良いけど。……あ、君。うん、そうそう。君ね。ちょっと頼みたいんだけど、僕が今から蘇生していくから、蘇った子達を壁に並ばせといてね。うん、よろしく」


 僕は適当に選んだゴブリン一匹に整列の役目を押し付けて自分は死霊術に専念することにした。




 十数分後、僕は漸く最下層に到達した。繁殖部屋(仮称)のゴブリン達をまとめて蘇生した僕は、キングのいた玉座の間的な部屋に入った。

 部屋の中にはうずたかくゴブリン達の死体が積まれている。その中には、キングや黒ゴブの姿もあった。まぁ、大体はホブゴブリンとかだが。


「やぁ、ロア。それで全部だよね?」


「グォ」


 ロアは頷いた。


「ざっと三十体かなぁ……はぁ、やらないとね」


 一体一体をゾンビ化していくのは中々面倒臭いが、しょうがない。


「……『円環の理に未だ導かれぬ者よ、死を以って偽りの生を取り戻せ。蘇生擬きネクロマンス・ゾンビ』」


 僕はため息を吐きながらも作業を始めることにした。




 ♢




 それから約一時間後、可能な限りゴブリンをゾンビ化した僕は、取り敢えずゴブリン全員に【光属性耐性】を取得させ、頭が無かったりするゴブリンには【気配察知】を取得させた。


「うーん、普通のゴブリン達は流石に名前を付けはしなかったけど……ホブゴブリンも別に良いかな。メイジとキングと黒ゴブは名前をつけようかな」


 僕は独り言を呟きながら虚ろな目をしている二匹のゴブリンメイジ達を見た。


「んー、君はオノフで君はイロクね」


 雑だが、もう疲れてるから許して欲しい。僕は心の中で言い訳をしながらキングを見た。


「えー、君はユグニカね」


 語感は良い感じじゃないだろうか。何となく王様っぽい感じもあるしね。


「で、最後は……黒ゴブかぁ……」


 黒ゴブ……ブラックゴブ……ブブ? なんか、汚い感じがして嫌だなぁ。僕には名付けのセンスが無いらしい。これはエトナに雑ネクロと罵られても仕方ないかも知れない。


「んー、どうしようかな……ロア、なんか無い?」


「グォ? ……グォオ、グォ。(私ですか? ……ネロ、とか)」


 なんかロアと似てる感じがするけど……まぁ良いや。ブブよりは百倍マシだろう。


「じゃあ、君はネロね」


 僕は次々と名前を設定していき、取り敢えず主要な四匹の分の名付けは完了した。


「次はスキルかな? 取り敢えず、メイジの君たちから」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Race:ゴブリンメイジ・ゾンビ Lv.31

Job:魔術士ウィザード

Name:オノフ

HP:81

MP:126

STR:37

VIT:38

INT:110

MND:39

AGI:53

SP:280


■スキル

□パッシブ

【HP自動回復:SLv.2】

【MP自動回復:SLv.3】

【光属性耐性:SLv.1】


□アクティブ

【火魔術:SLv.3】

【回復魔術:SLv.2】


■状態

【従魔:ネクロ】

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 さて、どうしようか。まぁ、分かってたけど結構弱いなぁ。ただ、MPとINTだけ見れば十分運用はできるレベルではある。


「……もう、火魔術全振りしようかな」


 僕はSPをブッパして火魔術をSLv.7まで上げたが、それでもSPは60余ってしまった。


「じゃあ、残りは回復魔術でいいかな」


 僕は60SPを注ぎ、回復魔術をSLv.3にした。さて、次はもう一匹の方だ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Race:ゴブリンメイジ・ゾンビ Lv.30

Job:魔術士ウィザード

Name:イロク

HP:79

MP:128

STR:38

VIT:37

INT:112

MND:39

AGI:51

SP:270


■スキル

□パッシブ

【HP自動回復:SLv.2】

【MP自動回復:SLv.2】

【光属性耐性:SLv.1】


□アクティブ

【火魔術:SLv.2】

【闇魔術:SLv.4】


■状態

【従魔:ネクロ】

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 うーん、あ。こっちは闇魔術があるね。

 まぁ、だったら闇魔術にブッパして……SLv.8と。でも、10SP余るから気配察知でも持たせておこう。意味があるかは知らないけど。


「良し、次はキング……じゃなくて、ユグニカはどんな感じかな」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Race:ゴブリンキング・ゾンビ Lv.42

Job:──

Name:ユグニカ

HP:208

MP:132

STR:104

VIT:84

INT:87

MND:78

AGI:95

SP:390


■スキル

□パッシブ

【HP自動回復:SLv.4】

【MP自動回復:SLv.3】

【統率:SLv.3】

【光属性耐性:SLv.1】


□アクティブ

【剣術:SLv.5】

【咆哮:SLv.3】

【投擲:SLv.2】

【体術:SLv.2】


□特殊スキル

小鬼の王ゴブリン・キング


■状態

【従魔:ネクロ】

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 いやぁ、思ったよりも弱いなぁ。まぁ、あんまり戦う上で強いタイプじゃないのかな? ゴブリンキングの種族スキルも飽くまで群れがいてこそのスキルらしいし。


「まぁでも、SPは結構あるからね……あ、そうだ。剣術主体なら面白いスキルがあるんだった」


 僕は言いながら、あるスキルを取得させた。それは【魔力剣】だ。このスキルは、名前の通り魔力によって剣を作り出すことができる。

 ……が、高い。50SPも必要である。その上、武器としての攻撃力はINTに依存する癖に、攻撃は普通にSTRで計算するので、INTとSTRのどちらもそこそこ無いと有効に使うことはできない。更に言えば、普通に強い剣を持っていればそれで良いし、なんなら他のスキルにも似たような効果のやつが一杯ある。


 だというのに、何故僕が魔力剣を取得させたかと言えば……この魔力剣は、普通の剣とは明確に差別化できている点がある。

 それは、ダメージを受ける側の計算にMNDが用いられるということだ。


 つまり、この魔力剣はINTで斬れ味が決まり、STRで実際の攻撃力が決まり、物理防御力のVITではなく、魔法防御力のMNDでダメージを計算する特殊なスキルなのだ。


 ……まぁ、魔法に強い相手には普通の剣を使って、物理に強い相手には魔力剣を使えばいい。一応、この剣は壊れたところで特に損失が無いという利点もあるよね。


「というわけで、魔力剣をSLv.2まで取って……後は適当に悪食と、自己強化(セルフブースト)をSLv.3まで取って、跳躍(ジャンプ)と瞬歩(ステップ)をSLv.2まで取得っと。残りは剣術を上げればいいかな」


 僕は最後に剣術をSLv.6にしてユグニカのステータスを閉じた。因みに、魔力剣をSLv.2にしたのは属性を付与できるようになるからだ。付与できるのは火とか水とか闇とかの基本属性だけだから、氷とかは付与できないけどね。


「さて、残るは黒ゴブこと……ネロだけかな」


 僕は、虚ろな目を浮かべながらもヘラヘラと笑みを浮かべているネロを見た。

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