ミイラの王、グランジェス。
名乗りを上げてミイラ達の群れと対峙する。
ミイラの王ことグランジェスは【ミイラキング:Lv.48】で、取り巻きのミイラは【ミイラアサシン:Lv.43】らしい。
「マスター、ボスの相手は私に任せて下さい」
ボスのミイラ、グランジェスは魔法を使ってくる気配も無い。どうやら、メトと同じく拳で戦うタイプらしい。
「分かった。ボスは頼むよ!」
そう言った瞬間、取り巻きのミイラ達が見た目にそぐわぬ機敏な動きで飛びかかってきた。
「
ミイラ達の腕が僕を掴む寸前、金属よりも鋭い闇の刃が射出されてミイラ達に直撃した。
「キ、カヌ。ワレワレ、ニハ……キカン」
しかし、直撃したはずのミイラ達は吹き飛ばされただけで、切り傷が出来た程度のダメージしか無かった。
「へぇ、結構硬い……ていうか、君たちも喋れたんだね」
「私もボスしか喋れないのかと思ってました」
取り巻きのミイラ達は、片言だが言葉を喋り、意思の疎通ができる。それでも襲いかかってくるということは、やはり体を止めることはできないのだろう。
「シャベル、ダケナラバ、デキル。ダガ、ウゴキハ、トメラレンッ!」
「そっか、無理に喋らせてごめんね。
闇の雲が僕の元から溢れ出し、部屋中に充満した。
「ムダダ、ワレラハ、フカキヤミノナカモ、ヒカリノモトト、カワラズミエル」
「別に、視界を封じることが目的じゃないよ」
僕の目的は単に
「キヲツケロヨ……ワレワレノツメハ、スルドイゾ?」
「ッ!
ミイラの言葉と同時に、僕に向かってくる二体のミイラの爪が異常に伸びた。
「その鉤爪みたいなの、ミイラって全員できるの?」
僕の記憶が正しければ雑魚敵として出てきたミイラはそんな爪なんて使わなかったはずだ。
「ミイラダカラ、デキルワケデハ、ナイ。ワレワレガ、アサシン、ダカラダッ!」
あー、そういえばそんな種族だったね。
なんて呑気なことを考えている僕に二体のミイラが襲いかかってくる。さっきの取り巻きゾンビとは違って理性を保ってるせいか、動きが良い。なんていうか、戦闘慣れしてる動きだ。
「危なッ、
僕は自分の身を守る為に闇の棘を出現させ、壁のように目の前に張り巡らせた。
「
闇の刃が直撃し、ミイラは吹き飛んだ。更にその先に闇の腕を展開して拘束した。
「僕の攻撃力じゃ足りない……だったら、時間を稼げば良い」
僕じゃ殺せなくても、攻撃力の高いエトナならきっと殺せるはずだ。
「
吹き飛ばされた二体のミイラが僕に向かってくる。が、その間に僕は三体の
エトナの方をチラリと見ると、片方は倒せているようだった。あと少し、あと少し時間を稼げば良いはずだ。
「……ムダダ、
一体のミイラが長い鉤爪を掲げると、その爪は暗い赤のオーラに包まれ、ミイラはそれを思い切り振り下ろした。
「マズい、一体やられたッ!」
新しい
短剣を実際に戦闘に使ってみると、一切取り回しが分からない。
かといって、もう下手な魔法で隙を晒すことはできない。
今はただ、片方のミイラを
「クソッ、僕も短剣術を取得しとけば良かったッ!
僕は迷った結果、まだ見せていない最速の
「ここだッ!」
だが、怯ませた隙は見逃さない。
痛覚が無いのか悲鳴も上げないミイラだが、明らかに動きが鈍った。
「
動きが緩慢になった今ならこの拘束も意味を成す。目に刺さった
「これで、死んでくれよッ!」
僕は片手に残った
「グッ、ウゥ……ドウカ、タノンダ、ゾ……」
そう言ってミイラは消滅した。と同時に、
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『
【STR:36-stage:3-EXP:1321/3000】
血のように赤く染まった刀身は、血を求め、肉を喰らい、魂を砕く。
……しかし、その暴虐の刃はいつか所持者にすらも牙を剥くだろう。
[
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あぁ、そういえば
それと、
「……さて、それどころじゃないね」
ミイラと戦っていた
「……
放たれた闇の刃をミイラは飛び越えて回避した。あわよくば距離を取りたいという僕の願いを踏みにじったミイラは、鉤爪を赤く光らせて僕の方へと飛んでくる。
「マズいッ、
超至近距離、僕は空中のミイラに闇の槍を撃ち放ったが、鉤爪に掻き消された。
「……受け止めるしか、無いッ!」
避けられる余裕はもう無い。故に、この二本の短剣で受け止める他に道は無い。
「う、ぐぁッ! くッ、ナイフがッ!」
上から振り下ろされる鉤爪を受け止めた結果、僕のナイフは二本とも弾き飛ばされた。
「
一瞬、
「くッ、そッ! 痛いなぁ!!」
痛覚設定をオンにしている僕は現実程ではないが、体を引き裂かれる痛みを受けた。クソ、痛い。こんなことならオフにしとけば良かった。
だが、そんなことを考えている隙は無い。もう、今正に鉤爪が僕の頭を……ッ!
「────
瞬間、銀色の光が僕の視界を一瞬だけ支配した。僕の目が正常に戻った頃には、ミイラの首は地面に落ち、首筋から銀色の光を放ちながら消滅していくところだった。
「……すみません、ネクロさん。遅くなりました」
「ありがとう、エトナ。正直、死ぬかと思ったけど死んでも僕は大丈夫だからね」
僕がそう言うと、エトナは少し怒ったような顔をした。
「ダメです。嫌ですよ、ネクロさん。例え生き返るとしても、ネクロさんが死ぬところなんて見たくないです。第一、絶対に生き返れるなんて信じられません」
「いや、大丈夫だよ。僕を信じ────」
「信じられません。ネクロさんは信じられても、ネクロさんが信じていることは信じられません。もしかしたら、失敗してそのまま死ぬかもしれないんですよ? 何より、私たちが心配します。だから、ダメです。絶対、死んでいいなんて思っちゃダメです」
エトナは真剣な眼差しで僕を見ていた。表しようのない感情に、僕は口を開けたまま、言葉を探していた。結果、辿り着いたのはシンプルな言葉だった。
「……………うん、分かったよ。約束する」
思えば、僕たちの視点とこの世界に暮らす人々の視点は大きく違うんだろう。僕らは幾らここが大切でも、心のどこかでは仮想の空間だと思っているし、死ぬことなんてあんまり恐れていない。
だけど、この世界に暮らす人々は、エトナやメト達は、本気でここで生きているし、僕たちのように死を軽く見ていない。
本来、一回だけで終わりなのが死というものだ。そんな当たり前の倫理観を僕は、僕たちは忘れていたのかも知れない。
「分かってくれたら良いんです。じゃあ、メトさんのところに行きましょう。そこまで苦戦はしてないみたいですけど」
メトを見ると、ボスのグランジェスと激しい拳の打ち合いを繰り広げていたが、メトは一撃も拳を食らわず、グランジェスを何度も殴りつけていた。要するに、メトは割と圧倒していた。正直言って余裕そうではあったが、決定打が無さそうだ。
「…………漸く終わりか」
グランジェスは加勢に来た僕たちを見て呟いた。自由に動かせない体というのはかなりの苦痛なのだろう。グランジェスはどこか安心したように見えた。
「うん、終わらせに来たよ。じゃあ、エトナ。僕とメトで抑えるから……例のアレ、お願い」
「分かりました」
一つ返事で頷いたエトナは後ろにヒョイと飛びのき、手のひらを突き出した。
「
大技を放とうとするエトナを潰すために駆け出そうとしたグランジェスを、僕は何度も何度も
「……いきますっ!
瞬間、この部屋に満ちていた全ての闇と光がエトナに吸収され始めた。
光も闇も消え、暗黒がこの部屋を支配した瞬間、突き出されたエトナの手の平から形状が不安定な漆黒の球体が発射された。
そして、その球体が発する異常な重圧に僕たちは膝を突いた。
「…………我々と民を、どうか頼む」
黒い球がグランジェスに触れた瞬間、黒い球体は一瞬でグランジェスを包み込み、その直ぐ後に眩い光が溢れ出し、僕たちの視界を奪った。
「勿論だよ、グランジェス」
視界が正常に戻り、何とか目を開くと、例のごとくグランジェスが居たはずの場所には何一つ残っていなかった。ただ、寂しげに玉座があるだけだ。
「……終わりましたね、ネクロさん」
「ああ、終わったね」
全てが消え去った後、何故だか少しの間この部屋を静寂が支配していた。
「次は九階層です、マスター。後、二階層でクリアです」
「うん、そうだね。……良し、頑張ろう」
こうして僕たちは八階層を攻略し、次の階層へと続く階段を下り始めた。
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