第77話 アーシュがくれたアドバイスです
「ああもう無理! やっぱロベリーにお願いしよう!」
ギルドへの通勤路、ピノはいつもカルアの家の前を通っている。
そしていつも、誰もいないカルアの家に目をやり、そのまま視線を落とし通り過ぎていく。
そんな毎日。
今日もいつものルートでいつもの通り家に帰り、家族とのひとときを過ごし、そして諸々済ませて自室のベッドに倒れ込む。
だがピノにとって、今日という日はまだ終わらなかった。
今日、カルアはセカンケイブダンジョンに行き、そしてダンジョンに入ったはず。
カルアの、そして同行するメンバーの実力は、セカンケイブダンジョンの踏破に必要なそれを遥かに凌駕している。
そんな彼らであれば、まず間違いが起こる事などあり得ない。
それは当然ピノにも分かっている。
だが・・・だがカルアには、フィラストダンジョンでそれまで誰にも発見される事の無かったトラップを引き当て、そして死にかけたという経歴がある。
その時の事を思い出す度、ピノの心はひどくざわつくのだ。
そのざわつきは、今日はいつもよりも大きく・・・
そしてピノはベッドの上で声を上げ、通信機を手に取り親友のロベリーに連絡した。
カルアからもらったアクセサリーに、ある機能を付けられないかと。
そしてこの行動が、後のカルアの運命を左右する事となる・・・
今日はセカンケイブダンジョン攻略の2日め。
まあ攻略って言っても、昨日普通に・・・って言うか、かなり余裕で踏破出来ちゃったから、今日からはスティールを進化させるための、まあ言ってみれば「作業」になる訳なんだけどね。
「おはようカルア! 今日も良い天気ね」
朝の空気を吸いに宿の外を散歩していると、途中でアーシュと偶然バッタリ。
「アーシュおはよう。ほんとに良い天気だね。何だかダンジョンに入るのがもったいなく感じるくらいだよ」
「ふふん、あんたのスキルの進化が目的なんだから、そんな事言うんじゃないわよ。まああんたは別として、あたし達はひとりかふたり同行すれば済んじゃう気がするけどね」
「あはははは、昨日の感じだと、それで十分な気もするよね」
「でしょ? 何なら今日はあたしとふたりで行ってみる?」
「うーん、それはさすがにみんなに悪いんじゃないかな」
「あっ当たり前でしょ! 冗談にまじめに返すんじゃないわよ! まあ2週間あるんだから、そのうち慣れたらそんな事もあるかもって思っただけよ・・・・・・バカ」
まあ確かに2週間あるんだから、そのうちそんな訓練もあるかも。
やっぱアーシュは先の事もちゃんと考えてるんだなあ・・・
「でもだからって気を抜きすぎちゃダメよ? それとカルア、あんた昨日モリスさんの『空間ずらし』使ってたでしょ? アレ、使うのやめたほうがいいわよ?」
「えっ、どうして? モリスさんは普通に使ってたよ?」
「あんたとは立場が違うでしょ? あの人は冒険者ギルド本部の幹部で『空間ずらし』の開発者なの。無名の一冒険者が同じ魔法を使えるなんて知れたら、
「うっ嘘ぉ?」
「嘘じゃないわよ! それにベルマリア家とあんたの関係は秘密だから、そうなった時に庇いきれないし。でも一番の問題はそこじゃないわ! あの魔法は使い勝手が悪すぎるの!」
「え? そうかな・・・結構簡単だと思うけど?」
「あんたにとってはそうかもしれないけど・・・って問題は難易度じゃないわ。あの魔法って『手加減』が出来ないの。あれじゃあ『即死魔法』と一緒じゃない!」
即死魔法って、物語とかに出てくるあの・・・
「例えば昨日のギルドでのテンプレ、もし戦うのがあんただったら『空間ずらし』使った? 使わなかったわよね? だって使ったらあいつ死んじゃうもの」
「・・・」
「それにもし敵味方入り乱れた乱戦になったら? 当然使えないでしょ? 危なすぎて牽制にだって使えないし。これが『手加減できない』って事よ」
ああ、そっか・・・
「それとあともうひとつ。あれって多分だけど、もっと強い魔物が出てきたら通用しなくなる気がする」
「え? それってどういう・・・」
「最近あたし、何となく魔法の前兆みたいなのが感じられるようになってきたの。あんたも感じたこと無い? あ、転移が来る・・・みたいなの?」
ある・・・
それに気配察知でも・・・
「あれと同じ感覚が『空間ずらし』でも感じられるの。それで、その感覚から発動までのタイムラグも分かったわ。あれって他の魔法より『溜め』が大きいでしょう?」
「・・・うん」
「感知出来れば避けるのは簡単よ! 私に出来るんだから、同じ事が強い魔物に出来ても不思議じゃないわ! この間のゴブラオ・・・多分使っても通用しなかったんじゃない?」
ああ、確かにそうかもしれない・・・
「あんたには『土魔法』があるんだから、少なくともノルトと同じ戦い方は出来るでしょ? それに『身体強化』だってあるし、ワルツの戦い方だってあんたの魔法を参考にしたものよね? 自覚してないかもしれないけど、あんたが持ってる手札は結構多いんだから! 私の次ぐらいにねっ!」
アーシュ・・・
「そっか・・・うん、そうだね! ありがとうアーシュ、僕やってみるよ!」
「頑張んなさいよカルア! 何たってあんたはあたしの大切、な・・・ららライバルなんだからねっ!!」
走ってっちゃった・・・
顔が真っ赤になるくらい力一杯の激励! うん、アーシュらしいや。
何だかすっごく元気出た! よし、今日も頑張ろうっ!!
そして今日もやって来ましたセカンケイブダンジョン入口!
「今日はカルアのカードで入るわよ。昨日何事も無かったんだからもう気が済んだでしょ? 大体、もしカードの持ち主を選んで発動する罠なんてあったら、それってギルドが設置した罠って事になっちゃうわよ?」
ああ、言われてみればその通りかも!
「そうですよね。・・・よし、じゃあみんな行くよ!」
「「「「おー!」」」」
カードをかざして、ダンジョン突入!
そしてクーラ先生の言った通り、今日も普通に入れたよ。
よかった、気にし過ぎだったみたい・・・
「スティール」
ゴブリンとゴブラットは何の問題も無くスティール出来た。
まあ森のゴブリンにも出来たしね。
あ、パーティ戦だから魔石は共有ボックスに収納しなきゃ。
「カルア・・・」
「これがカルア君のスティールかぁ。何て言うか・・・」
「カル師、実は死神?」
「カルアあんた・・・魔法だけじゃなくってスキルまでインチキ臭いわね!」
これが今回初めてスティールを見たみんなの感想。
ワルツ、死神って不吉すぎじゃないかな!
それに、またアーシュに「インチキ臭い」って言われた・・・
「フィラストダンジョンでのカルアはもっと凄かったぞ。部屋中に溢れた千匹以上の魔物を一度に全滅させてたからな」
「千匹以上!?」
「ああ、すべてのバットが一瞬で死に絶えて、その魔石が全部まとめてカルアの目の前に現れるんだ。あれは凄かった」
「うわぁ・・・」
「激☆ヤバ師・・・」
「ふーん、なら第3階層まではあたしたちの出番は無さそうね。じゃ、サクサク行くわよ」
ひとり平常運行のアーシュに引っ張られ、みんな再始動。
ホント心強いよ・・・
そして第3階層まで踏破、いよいよ次はゴブリーダーが出てくる第4階層。
「じゃあ僕たちはゴブリーダーの魔力を消耗させればいいんだね。ところでゴブリーダーってどうやったら魔力を消耗するの?」
あれ? そう言えば・・・
教えて! クーラ先生!
「そうね、テイムに魔力を使うわけだから、いつも少しずつ魔力は消耗していっているはず。戦闘になると細かく指示を出し続けるから、普段よりも消耗が激しくなると思う。一緒にいる魔物を出来るだけ倒さずに戦闘を続ければ、消耗していくと思うわよ」
「テイムしてる魔物に『回復』を使う事は?」
「個体によるかもしれないけど、確かあったはず。戦術に組み込む価値はあると思うわ」
「じゃあカルアはゴブリーダーにひたすらスティールを連打。他のみんなはゴブリーダーには牽制程度、ゴブラットへは倒しきらない程度まで攻撃よ」
「「「「了解!」」」」
そして僕たちは下層への階段に到達。それでここまでの戦闘で分かった事だけど・・・
まず、ゴブリーダーの多くは自分やゴブラットがある程度ダメージを受けると「回復」を使ってくる。
どんどん回復させれば戦闘時間を短縮できるって事かな。
そして、大体「回復」を3回から7回くらい使うとスティールできるようになる。
やっぱり個体によって魔力量が違うって事かな? それとも気性が荒いとか力の強いゴブラットのテイムにはたくさん魔力を使うとか? うーん、どっちもありそう。
最後に、まったく「回復」を使わないゴブリーダーでも、10分くらい戦闘を続ければスティールできる。
このゴブリーダーって「回復」が使えなかったのかな? それとも使おうか迷っているうちに全滅しちゃった、とか?
「さて、じゃあ
そして戦闘。
「ちょ・・・この剣斬れすぎ!」
「軽く当てただけだったのに・・・」
「手加減、激☆ムズ」
「俺は身体強化無しの素手でやるか」
「ならネッガー以外は次から魔法に切り替えるわよ!」
なんて事が最初にあったけど、その後は上の階と同じ要領でいけた。
うーん、手加減出来る打撃用の武器もあったほうがいいかな。
当たった瞬間にベクトル付加、速度を落とさず気持ちよく振り切れる
うん、何かいいかも!
「さあ、いよいよ最下層ね。って言っても、ゴブリンマジシャンはほっとけばどんどん魔力を使ってくから、程々に攻撃してくくらいでいいと思うわ! ゴブリンマジシャンとゴブリーダーとゴブリカオンが一緒に出てきた場合は、乱戦に魔法が加わるから注意するのよ!」
そして最下層の戦い!
アーシュが指示した通り、ゴブリンマジシャンだけの群れは対処が簡単。
だって何もしないで避けてればどんどん魔法を撃ってくるから。
スティールは最初から連打してるから、魔力が減った相手から魔石に変わってく。
ゴブリカオンは出来るだけ乱戦を避けるため、近寄ってくる前に魔法を当ててく。
ゴブリーダーは「回復」で消耗してくから放置で。
うーん、あとどれくらいで進化するんだろう。
ゴールが見えないって、何だか不安になるよね。
さあ、いよいよボスのゴブリンソーサラー。
正直こいつが一番怖くない。
だっていろんな属性が使えるってだけだから。
でも・・・
「みんな、こいつはスティールを使わないで普通に倒しなさい」
クーラ先生からそんな指示が。
何で?
「ボスの間はギルドで映像監視してるの。ここの様子は映像データとして暫くの間記録に残るから、スティールを見せないよう念のためね。監視の範囲からあいつを引きずり出す事が出来れば別だけど、ボスってボス部屋から出ないから」
という事で前回と同じように剣で倒して、はい終了!
「そろそろお昼かしら。このまま出口に向かって、今日は外で食べましょ」
そして外でお昼ご飯。
今日は、朝お弁当を買ってボックスに入れてきたんだ。
固定ボックスのお陰で出来立てほかほか。
いっただっきまーーすっ!!
「そう言えばクーラ先生、フィラストダンジョンってダンジョンコアを結界で囲んでからボスの金属バットが出現しなくなった、って聞いてたんですけど、ここは普通に出てくるんですね」
「そうなのよね。これまで研究者とかが調べたんだけど、理由は分かってないみたい。一応『ダンジョンが保有する魔力の量が多いから』なんて言われてるけど、その『魔力量』の測定方法だって分かってないから確認しようがないし。このあたりって授業でやってない?」
やってなかったよね・・・?
まだ2年だから、この先出てくるのかな?
あ、でも編入の勉強でも出てこなかったから、学校じゃ習わないところなのかな・・・
「クーラ先生の頃は授業で出てきたんですか?」
「私? 私はちょっと経歴が特殊でね、学校には行かなかったのよ。だから学校の授業の内容って細かくは知らないの。でもまあ、学校でやる事って私の知ってる範囲内くらいだと思うから、分からないところとかあったら質問してくれていいわよ」
特殊な経歴・・・すっごく気になる!
でもきっと触れない方がいいんだろうなあ・・・
「それにしても、やっぱりアーシュの指示って的確だよね。もうアーシュがリーダーでいいんじゃない? 僕よりずっとリーダーっぽいよ」
「そんなの当たり前じゃない。だって小さな頃から家でそういう教育を受けてきたんだもの。でもこんなのは所詮技術なのよ。だからカルア、もし出来ないって言うんだったら、あたしのを見て覚えればいいの!」
技術・・・か
「そうね。アーシュのリーダーっぷりは中々だったわ。でもね、カルアだってリーダーとして負けてないのよ?」
「え? 僕が?」
「そうよ。リーダーって言うのはね、その特徴によって大きく3種類のタイプに分けられるの。まずは『仲間を引っ張る』リーダー。アーシュがこのタイプよね。次に『仲間を押し上げる』リーダー。あなた達の知ってる例だと・・・カバチョッチョがそのタイプね。仲間にやる気と勇気を与えるタイプ。物語ではそうじゃなかった?」
「あ、そうかも」
「それで最後が『仲間を引き寄せる』リーダー。そこにいるだけで自然と仲間が寄ってくる。リーダーのために一丸となる。そんなタイプね。私が見たところ、カルアはこのタイプよ」
僕が・・・みんなを引き寄せる・・・?
「ああ、確かにそうかもしれないわね。あたし達だってそんな感じだったし、お祖母様や他の大人達だって、何だか自然とカルアの周りに集まってきたんじゃない? それって、あんたの人柄っていうか適性っていうか、そんな星のもとに生まれた、みたいな感じ?」
「そう・・・なのかな?」
「もちろんそれだけじゃないと思うわよ? 頑張るあんたの姿を見てたから、みんな『助けてやろう』って思ったんだろうし。だからカルア、あんたはあんたらしく頑張っていけばいいのよ。足りないところは覚えてけばいいし、困った時は『助けて』って言えばいいの!」
「そっか・・・そっか! ありがとうアーシュ!」
「ふふん、これくらいどうって事無いわよ!」
「それにしても・・・こういうところもやっぱりリーダーっぽい!」
「それはもういいでしょ! あたしはカッコいい『陰の』リーダーなんだからね!!」
お昼の後はもう一度ダンジョンアタック。
僕もみんなも午前中より効率よく動けるようになって、夕方になる前に踏破しちゃった。
という事で、余裕があるうちに今日は終了。
街に帰ってちょっと早めの晩ごはんをみんなで食べて、今日はもう解散!
みんなお疲れー。
さて、僕はこれから錬成の時間。
みんなの
あ、せっかくだからクーラ先生にもあげようっと。
これだったら訓練とかにも使えると思うんだ。
それにしても二日続けて錬成するとは思わなかったなあ。
昨日作ったアレは・・・使わずに済めばいいんだけど・・・
王都の某魔道具店奥。
「当初の予定より随分状況が変わったもんだねえ」
マリアベルの言葉に全員頷く。
「ああ。当初は同年代の子達が魔法の習得に苦労する様子を見せて、自身の特異性を自覚させるのが目的だったのだが・・・」
これは最初にカルアに学校を勧めたブラック。
「まさか、逆に周りの子達がカルア君みたいになっちゃうなんてねえ。あはははは。まあそれが出来るだけの才能を持った子達がいたって事も驚きだけどさ」
モリスもまたカルアの入学を望んだが、むしろその事を面白がっていた節がある。
「昔からあそこには、飛び抜けた才能を持つ者が現れる事がありましたからね。もしかしたらあのパーティメンバー以外にも、カルア君に触発された子供達がいるかもしれませんよ?」
オートカには、自分もその「飛び抜けた才能を持つ」ひとりであるという自覚はない。
マリアベルはオートカの言葉にふむ、と考え、
「そのあたり、どうなんだいラーバル?」
「そうですね、実は彼らの初めての狩りに同行した同学年の子達のパーティがいまして。彼らはカルア君達のパーティに大いに刺激を受けたようですよ。暫く何か考え込んでいたようですが、その後に特別授業を申し出て来ました」
「ほほう、それでどうしたんだい?」
「ええ、彼らのパーティは身体強化の前衛2名と回復役1名の3人パーティなんですが、カルア君たちが座学に集中していた期間、時間が空いていたクーラ先生の特別指導を受けさせていたんです。今は私が『回復魔法』と『障壁』の指導を行っていますが、その後はヒトツメギルドでの課外授業として、ブラックさんにお預けしようかと思ってます」
「ほう、私にか」
「ええ。あなたと・・・それと出来ればピノさんにも是非彼らの指導をお願いしたい。彼らの目標は『カルア君達パーティに並び立つ』事だそうです」
「ほほう、その彼らの名前は?」
「パーティリーダーのアイ、それにルビーとバックです」
▽▽▽▽▽▽
「生涯現役冒険者 カバチョッチョの冒険」第2話を公開しました。
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