第62話 そして僕はある事を決心しました
「パーティをやるわよ!」
突然そんな事を言い出したアーシュ。
えっと・・・どういう事?
「パーティだったらもう組んでるよね?」
「そのパーティじゃないわよ! ああええっとそのパーティではあるんだけど・・・そのパーティのパーティって言うかパーティになったパーティって言うか・・・」
「「「「??」」」」
「だ・か・らっ! パーティ結成記念パーティよっ!! もうっ紛らわしいわねっ!!」
おおなるほど、そっちの「パーティ」か・・・ってパーティ?
「あのさアーシュ、僕パーティって出た事も無いし、どういうのかもよく知らないんだけど、パーティってどんな事をするの?」
「ああそっか・・・そうねえ、普通のパーティなんかだと、ホストの挨拶があって、食事しながら歓談して、ダンスがあって、ちょっとした余興みたいなのがあって、あとはご自由にどうぞって感じかしら」
うわあ、なんだか大変そう。
「でもね、それって頭の悪いマンネリ貴族の連中が好きそうな定番パーティなわけ。そんなつまらないパーティなんか参加したくもないわ。だから私達がやるのは、『食べて飲んで騒ぐ』、そんな冒険者らしさ爆発のパーティよ!!」
それがパーティ!? だったらヒトツメのみんなが毎晩やってたアレだって・・・
ああ、それが「冒険者らしさ爆発」って事か。
うん、何だかすごく楽しそうだよっ!
「いい! それ、すっごくいいと思うよアーシュ! どう、みんなっ!?」
「ああ、是非俺も参加させてもらおう」
「僕もだよ。とても楽しそうだ」
「わたしも、参加、希望」
みんなの参加に、アーシュはとびっきりの笑顔で、
「じゃあ決定ね。やる日が決まったら伝えるわ! みんな楽しみに待っててちょうだい!」
「パーティをやるそうだ」
マリアベルの発した緊急集合に応じ、彼女の店に駆け付けてきた「チームカルア」の面々。彼らに対し、マリアベルはそう伝えた。
「パーティ? ああ、そうすると冒険者登録記念とかパーティ結成記念とか、そんな感じのパーティなのかな? いやあ、楽しそうで何よりだねえ」
脳天気なモリスに対し、マリアベルの表情は沈んだままだ。
「まあそういう事らしいんだけどね。この間アーシュに魔法の話を聞いた時にさ、あの子、まるでカルアみたいな事を言い始めたんだよ。それで心配になって調べてみたんだけど、パーティの子らはみんなカルアの影響を強く受けちまってるらしいんだ。・・・うううっ、アーシュぅ・・・」
「ええっと校長? ちなみに『影響』ってどんな感じに?」
恐る恐るそう質問したのは、オートカ。
「うう・・・アーシュは属性の違う魔法を組み合わせちまうし、土属性だった子はオリジナルの錬成なんて始めちまうし、氷魔法の子は自由に温度を制御出来るようになっちまうし、身体強化の子は強化の制御がとんでもないそうだよ。それに、パーティ全員にカルアから『壊れない魔剣』をプレゼントされたそうだ」
徐々に表情に差す影が濃くなってゆくマリアベル、そしてその様子に理解の色を浮かべたオートカ。
「それはまた・・・では今日我々が招集されたのは、以前に校長が懸念されていた例の件をいよいよ、という事ですか」
顔を上げたマリアベルは面々を見渡し、
「ああそうだよ。周りがカルアの能力を中途半端に知っちまう事で、カルアが怖がられて孤立しちまうかもしれない。そうなる前に、パーティの子達にはカルアの秘密を伝えておくべきじゃないのかい? とうとうそれに答えを出す時期が来ちまった、って事さ」
そう答えた。
そしてその後に発せられた、
「ただひとつ大きな誤算は、パーティの子達自身もまずい事になりつつあるって事だ。まあつまり簡単に言っちまえば、カルアが5人になっちまった、って事になるんだろうね」
という言葉には、もう誰も答える者は無かった。
「という事でパーティな訳なのさ。あの子達と話をするんだったらちょうど良い機会だと思うんだけど、あんた達はどう思うか、各自の意見を聞かせてもらおうじゃないか」
「ちなみにそのパーティ、いつどちらで開催されるんですか?」
そう訊いたのはオートカ。
「ああ、近々うちのホールでやるそうだよ。あの子達が使うにはちょっとばっかり広すぎるんじゃないかって思うんだがねえ」
「あそこかあ。あそこって確か100人以上入るくらいの広さがあったよねえ。そこを5人で貸し切りとかって・・・ぷくくく・・・。でもまあ場所はともかくとして、カルア君の事を彼らに伝えるっていうのはいいんじゃないかな。僕は賛成だよ。それかいっその事、僕たちもパーティに参加しちゃう?」
「そんな訳にはいかんじゃろ。話すのはええと思うが、最後の方でちょろっと時間を作る感じじゃろうな」
「ラーバルはどうだい?自分とこの生徒の話なんだから、思うところはあるんだろう?」
「生徒を守る事に繋がる話なのですから、もちろん私は賛成です」
「私もさんせーー。その子たちがどんないい感じになっちゃってるのかも見てみたいし」
「オートカとブラックは?」
そう問うマリアベルに向かって頷く2人。当然賛成の意である。
「じゃあみんなそれで構わないね。って事だから・・・」
「あの、ちょっといいですか?」
そこで声を上げたのはピノ。
「なんだい、もしかしてあんたは反対なのかい?」
「いえ、私もいい考えだと思うんですけど、ただ・・・」
そこで言葉を止めて全員の顔を見渡し、
「最後はカルア君に決めさせてあげてもらえませんか? やっぱり自分とその友達との事ですから、カルア君自身に決断させてあげたいんです。多分カルア君も伝えたいって言うとは思うんですけど、それでもやっぱり・・・」
ピノのその真摯な眼差しを受け、軽く息を呑む一同。そして、
「ああ、そりゃあ確かにピノの言う通りだ。あたしらで勝手に決めて進めていい話じゃあ無かったね。カルアの奴ももう少ししたら授業が終わるだろうから、そうしたら呼びつけてそこで決めさせるとしようか。それにしてもあのピノがねえ。いやあ、これも愛の力ってやつなのかねえ・・・くっくっくっ」
「ううう、ベルベルさん意地悪です・・・」
「それじゃあみなさぁーーん、寮の人もそうでない人もー、みんな気を付けてお家に帰ってくださいねーー-っ」
「「「「「はーーーいっ」」」」」
ホームルームが終わった僕の目の前に、一通の手紙が。
◇◇◇◇◇◇
カルアへ
あたしだよ。終わったら来な。
◇◇◇◇◇◇
ああ、今日の呼び出しはベルベルさんか・・・
あれ? でもベルベルさんって「転送」出来たっけ?
「ゴメンみんな、今日はちょっと知り合いに呼ばれちゃったから、放課後の訓練は不参加にさせて」
「そういう事なら仕方ないわね。ところで呼び出しって誰から? ももっ、もしかしてピノ様、とか?」
「ううん、アーシュのとこのお師匠様から」
「ほっ・・・。そう、お祖母様から・・・今日はカルア、何を怒られるのかしら」
そんなアーシュの不吉な声を背に、ベルベルさんの店に。
転移するほどの距離じゃないし、周りの目もあるからもちろん歩いてね。
言われた事はちゃんと守ってますからね、ベルベルさん!
怒られるような事なんて・・・して、ません、よ? たぶん。
「こんにちはーーっ」
ベルベルさんの店に到着。入り口で声を掛けると、
「カルアかい、奥に来な」
そんなぶっきらぼうな声。うう、やっぱり何か怒られるのかなあ?
「お待たせしました。今日はどうし・・・ってあれ?」
チームカルア全員集合? これってまさか、全員から怒られる流れ?
「ええっと・・・ひょっとして僕、何かやっちゃいました?」
「いいや、今回は何も・・・っていや、やっちまったねえ。確かにあんたがやっちまったのが事の始まりだったよ。あたしの可愛いアーシュによくも・・・」
「ああカルア殿? 別に何かがあったわけじゃあないですから安心して下さい。今日のはただの相談事です。とりあえずこちらへどうぞ」
そう言ってピノさんの横に僕の席を用意してくれるオートカさん。ほっと一安心。
「こんにちはカルア君。パーティ、大活躍だったんですってね」
「ありがとうございますピノさん。でもあれって、成り行きで害獣駆除しただけなんですよ?」
「ふふふ、カルア君らしいですね。でもその『成り行き』のお陰で王都の人たちの生活が守られたんですから、やっぱりカルア君達のした事は素晴らしい事だと思いますよ。もっと胸を張っていいと思います」
「はい・・・」
どうしよう、ピノさんの優しい笑顔が、それにその言葉が、ものすごく嬉しい。
でも周りのみんなの目が・・・特に師匠と姉弟子の目が・・・
「さて、そろそろ本題に入っていいかねえ。それともあたしらはもう少し待ったほうがいいかい? 胸を張るところも見てたほうがいいかい?」
「ししょーー、『若いふたり』を邪魔しちゃあ駄目ですよ-。いつでもどこでもふたりきりの世界に入れるのは、『若いふたり』の特権なんですからっ。ねぇぇオートカ先輩っ?」
「うぐっ・・・」
「おやおやぁ、なんだかこっちは怪しげな雰囲気だねえ・・・。ひょっとしてもしかしたら、君たちついに?」
「いやぁだあモリス先輩ったらーーー。私たちまだそんなお付き合いなんてしてませんよぉーーー。二日しか」
「なっ、何だってぇぇーー-っ!? あっあたしゃ何にも聞いてないよミレアっ!?」
「そうかあ、って事はやっぱりミレア君、昨日あの後ついにって事かあ。いやあこれはめでたいねえ。ねえオートカ、君もそう思うだろう?」
「何故それを私に訊くのですかモリス・・・」
そうか、あの後オートカさん達・・・
「いいなあ、ハッキリ言ってもらえるなんて、ミレアさんいいなあ・・・」
「ピノさん・・・」
分かってます。分かってますから、もうちょっと待って下さい・・・
「ああもう! ほら、そろそろ本題に入るよ! ミレア、あんたその件は報告書に纏めて提出しな! あんたへの聞き取りの後はオートカにダブルチェックするからね!」
「はーーーーい!」
「勘弁して下さい・・・」
そうしてようやく本題に。って、そもそも本題って何なの?
「さてカルア。あんた、パーティのメンバーに色々魔法の指導とかしてるそうじゃないか」
ん? 魔法の指導? ・・・した事あったっけ? あ、加熱とかの事?
「ええっと、一緒に授業受けたりとか、気づいた事をお互い話したりとかはしましたけど、指導なんて・・・加熱の説明をしたくらいかなあ?」
「そうかい。じゃあ訊き方を変えようか。あんたのパーティメンバー、みんな随分と優秀みたいじゃあないか。あの子らを見て、あんたはどう思ったんだい?」
やっぱりベルベルさんもみんなの事優秀だって思ってるんだ。うんうん僕もそう思うよ。
「アーシュはどんな魔法もあっという間に出来るようになっちゃうし、それに魔力の使い方とかがもの凄く上手で。ノルトは小さな頃から土魔法で家の手伝いをしてた土のプロで、錬成もすぐ出来るようになって、今じゃあ僕よりもずっと凄いし」
アーシュは魔法の天才、ノルトは土プロで錬成の天才。
「ワルツはすっごく器用だから、きっとすぐに他の物質操作も覚えるんじゃないかな。それにネッガーは強すぎて、模擬戦とかでも絶対僕には勝ち目ないし」
ふたりとも、得意分野は絶対僕よりもずっと凄い。
「皆さん僕の事を『凄い凄い』って言ってくれてたから、もしかして僕って凄いのかなってちょっと自信を持ったりもしたけど、あれを見ちゃうと僕ってやっぱり『人並み』だったんだなあって」
まあでも人並みに魔法が使えるだけでも「凄い」って事なんだよね、きっと。
「「「「「・・・」」」」」
あれ? みんなどうしたの? そんなところで集まっちゃって・・・
「ほらご覧よブラック。だからあたしゃ言ったんだ、学校は『逆効果』になるかもって。カルアのやつ完全に勘違いしちまってるじゃないか。どうすんだいコレ! これじゃあカルアの奴、あの子たちがああなっちまったのは自分のせいだなんて、絶対認めやしないよ!?」
「くっ、これが『類友』というやつか・・・」
「はいギルマス、『くっ友』ですね」
「ピノ・・・あんたも他人事じゃないんだよ?」
「しょうがないなあ。じゃあここは僕の出番ってことかな」
「やれるのかいモリス?」
「まあ僕にとってカルア君は、手の掛かる可愛い弟みたいなものだからねえ。たまにはいいとこ見せて『尊敬されるお兄ちゃん』ってポジションをキープしておかなきゃ。という事で、ちょっと僕から言ってみるよ」
なんて声がぜんぶ丸聞こえ。
でもモリスさん、僕に何か大事な事を伝えようとしてるって事だよね。
だったら、ちゃんと聞かなくっちゃ!
「ねえカルア君。君この間さ、仲間とゴブラットを駆除した時に『スティール』を使わなかったって言ったよね。『ひとりじゃなかったから』って」
「はい、そうです」
「その事について、君自身はどう感じているんだい?」
どう感じてる?
「ええっと、ちゃんと約束を守らなきゃって思って」
約束、守れたよね?
「そうだね。君は僕たちとの約束をちゃんと守ったよ。じゃあさ、パーティの行動として考えた時、君は今回、彼らに胸を張って『全力を尽くした』って言えるかい?」
「それは・・・」
言えない、よね?
「もちろん僕たちとの約束があったし、今回は彼ら育成の場だったしね。君の行動は正しいし、非難なんかしようものなら僕のほうが悪者だろうって思うよ。たださ、考えて欲しいんだ。君はこれからずっと、その胸のモヤモヤを抱えたまま、彼らと一緒にパーティが組めるかい? 彼らと対等だって思う事が出来るかい?」
きっと出来ない、気がする。
「ゴブラットを駆除した後に、凄く強い魔物と遭遇したんだってね。同行した先生が対処してくれたらしいけど、君や友達も結構大変だったそうじゃないか。でもカルア君、『全力を出せば倒せる』とかチラッとでも思わなかったかい?」
・・・・・・思った。
「同じような事は、きっとこれからも起こると思うよ。だって君達は冒険者なんだから。そして毎回必ず無事に終われるとは限らないよね、もちろん。僕はね、その時カルア君に後悔なんてして欲しくないんだ。『自分が全力を出さなかったばっかりに仲間が』なんてさ」
「モリスさん・・・、じゃあ僕は一体どうすれば・・・」
「だからさ」
そう言ったモリスさんは、とびっきりの笑顔で、
「そろそろみんなに打ち明けちゃったらどうかな。君がこれまで僕たちと一緒にやってきた事を、さ」
これまで僕がやってきた事って・・・
魔物部屋に転送・・・これは、みんなもう知ってる。
スティールスキル・・・これは知らないはず。
錬成・・・はノルトの方がずっと凄い。
転移・・・は、もうバレちゃった。
ゲートスキル・・・は、まだだよね?
魔力量・・・もまだ。あと
あとは・・・「空間ずらし」と魔剣? でも固い魔剣はみんなにあげたし。
あれ? これなら教えても大丈夫、なのかな・・・?
「教えちゃっても・・・いいんですか?」
モリスさんはニッコリと笑って、
「僕たちは構わないと思ってるよ。それに君の仲間たちの力もあまり大っぴらにはしたくないしね。だからさ、これからは君だけじゃなくって、君のパーティそのものを守っていこうかって、そうみんなで話してたんだよ」
だったら・・・それだったら!
「僕、話していいならみんなに話したい! そうしてこれからも一緒に冒険したい! きっと・・・きっと、秘密にしている間は、本当の仲間になれていない気がするから!」
こうして、僕はすべての秘密をみんなに打ち明ける事にしたんだ。
打ち明けるのは今度のパーティの時。
僕がひとりでみんなに話そうと思ったんだけど・・・
「いいかいカルア君、人っていうのはさ、本能的に他の人を怖がるものなんだ。だからね、この話を打ち明けるのはすごく慎重にやらなければいけないんだよ。言い方ひとつ間違えただけで、君は彼らからの信頼を失い、怖がられ、この先ずっと孤立する事だってあり得るんだ。だからさ、今回は僕たち大人に任せてくれないか? まずは僕たちから君の仲間たちに伝えてお願いする、そうしたら君はその後でゆっくり仲間たちと話せばいいんだよ」
「はい・・・はいっ! みなさん、・・・よろしくお願いします!」
みんな次々と僕の肩を叩き、抱き寄せ、頭を撫でてくれて・・・
それで僕はもう涙が止まらなくって・・・
そして最後に、
「ピノさん・・・」
「カルア君、ちゃんと考えて決心したのね。それってすっごく立派だって思う。だから今度は私たちの番。あとの事はまかせて。みんなでちゃんとフォローするからね。それでも、それでももし何かあったら、その時はすぐ私に言って。力一杯ごにょごにょすれば、だいたいは解決できちゃうから! ねっ」
その涙が引っ込んだんだ。
▽▽▽▽▽▽
【問】
ピノの気持ちになって、「ごにょごにょ」に入る正しい言葉を答えよ。
① 説得
② 抱擁
③ エイって
④ その他(自由回答)
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