第13話 ダンジョンの謎は更に深まります
「全員今すぐ転送装置より3歩後退! タチョ時報開始毎1分、ラキ周囲警戒! ウサダン魔力計測開始!」
「現時点の魔力波形及びスペクトル、記録完了」
「引き続き計測を続行、時間経過による変動を観測せよ」
「了解」
「現状魔物反応なし、転送トラップ起動認められず」
「警戒を続行、以降は状変時のみ報告せよ」
「了解」
な、な、なんか超カッコいい!!
なんていうか、こう、プロフェッショナル! って感じ。
「カルア殿はその場で待機を。体内の魔力や体調に変化はありますか?」
「ちょっと待ってください」
僕は自分の体の状態に集中する。
体調・・・は、変化なし。
魔力・・・も変化なさそうだ。
「体調・魔力ともに変化した感じはありません」
「感情面の変化は?」
「感情面・・・というと?」
「喜怒哀楽、感情の浮き沈み、不安感の増大とか」
「緊張はしてますけど、それ以外はいつも通りです」
「分かりました、ありがとうございます。精神面への攻撃も見られず、と」
「1分経過」
「全員、経過10分まで現体制を維持」
「「「了解!」」」
「カルア殿は状態が変化したり気付いたことがあったらすぐに報告してください」
「分かりました」
・
・
・
そして、そのまま何事もなく、
「10分経過」
「次フェーズに移行する。時報及び観測体制は維持」
「了解」
「ラキは障壁展開準備。私と10分交代で先行ラキ。転移と同時に展開せよ」
「了解」
「ウサダンは転移と同時に観測データにチェックポイント挿入」
「了解」
「それではカルア殿、前回と同じように転送装置にギルドカードを」
「分かりました。では行きます」
僕は転送装置の前に立ち、装置にギルドカードをかざす。
一瞬の浮遊感、そして見覚えのある壁に囲まれた部屋。
「転移確認!」
「全員部屋中央に移動! その場にてカルア殿を中心とし半径2メートル内に集結!」
オートカさんの指示に従い、全員僕の周りに集まってきた。
「ラキ障壁展開! タチョ時報開始毎10分! ウサダン魔力測定継続」
「魔力に揺らぎあり! 魔物出現のパターンと一致。3・2・1、来ます!」
これもまた、いつか見た光景。
周りの壁から魔物が次々と出現して、こちらに向かってくる。
「カルア殿、まずは安心してください。この障壁はこの程度の魔物には決して破ることは出来ません。この中にいる限り、我々は完全に安全です。今回タイミングが悪く上級冒険者の手配がつきませんでしたが、この障壁と我々が使える攻撃魔法を組み合わせることで、我々だけでも対応することができるのです」
へぇー、この障壁ってそんなにすごいものだったんだ。
・・・上級冒険者に会えなかったのは残念だけど。
「なのですが・・・、もし可能ならばカルア殿、魔物への対応をお願いできないでしょうか?」
いや、最初からそのつもりなんですけど。
「ここへは我々で殲滅する前提で来ましたが、できればデータ収集を優先したいのです。また、カルア殿の能力全般に関しては、ブラック殿からの提案でギルドと秘密保持契約を結んでいますので、たとえ王宮から命令があったとしても、決して口外することはありません」
おお、さすがギルマス。
「それから、今回倒した魔物は所有権をすべてカルア殿に移譲することになっています。これもギルドとの契約です」
おお、さすマス。
「この障壁は特別製で、内から外に向く力に対しては一切干渉しません。カルア殿の攻撃も
なんて至れり尽くせり。
こんなイージーモードでいいの!?
だったらもちろん答えはひとつ!
「任せてください。僕が殲滅します」
「助かりますカルア殿。ではお言葉に甘え、魔物はお任せします。攻撃はカルア殿のタイミングで始めてください」
その言葉とともにオートカさんはその場に腰を下ろす。それを見た他の3人もまた。
きっと僕の邪魔にならないよう配慮してくれんただろう。
じゃあ早速。
「始めます。『スティール』」
「え?」
「スティール」「スティール」「スティール」「スティール」「スティール」「スティール」「スティール」「スティール」「スティール」「スティール」
目の前に次から次へと現れる透明な魔石。
そしてその先の魔物が次々と地面に倒れ伏していく。
「スティール」「スティール」「スティール」「スティール」「スティール」「スティール」「スティール」「スティール」「スティール」「スティール」
バタバタバタバタ・・・
バラバラバラバラ・・・
「あの、すみませんカルア殿。今何をされてるんですか?」
オートカさんの声に、僕は一旦スティールを止めてオートカさんを見る。
オートカさんは頭の上からバラバラと降り注ぐ魔石を浴びながら、なんだか人に見せちゃいけない顔でこちらを見ている。あれ? 魂抜けかかってます?
「スティールです」
「スティール、ですか?」
「はい、スティールです」
「魔物からアイテムを盗む、あのスティールですか?」
「はい、そのスティールです」
「魔物が倒れるのは何故です?」
「魔石をスティールしたので」
「・・・・・・魔石ってスティールできましたっけ?」
「前にこの部屋に来た時にできるようになりました」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
どうしよう、全員人前でしちゃいけない顔になってる。
「あの、続けていいですか?」
「ああすみません。お願いします」
じゃあ行きますよっと。
「スティール」「スティール」「スティール」「スティール」「スティール」「スティール」「スティール」「スティール」「スティール」「スティール」「スティール」「スティール」「スティール」「スティール」「スティール」「スティール」「スティール」「スティール」「スティール」「スティール」
「はい、調査団集合」
「団長、なんだか我々、とんでもない人に同行してもらってる気がするんですけど」
「これ絶対秘密漏らしたらヤバい奴ですよ」
「ブラック殿が念を押した理由が良く分かりました。皆さんくれぐれも秘密厳守でお願いしますよ」
「まあ、もし言ったところで、誰も信用しないとは思いますけどね」
「それには同意しますが、そうは言っても絶対に口外しないように。普通に消されるレベルですからね」
「「「分かりました!!」」」
何だか足元で打ち合わせが始まったみたい。
「スティール」「スティール」「スティール」・・・
「団長、ちょっといいですか?」
「なんでしょうウサダンさん」
「さっきから周囲の魔力がとんでもないことになってるんですけど。こっち来て測定器の画面を見てください」
今度はウサダンさんの周りに移動して何かを見てる?
スティールスティールスティール・・・
「これがスティールの連打が始まってからの魔力波形の推移です」
「む、この一瞬だけ上がってるのはもしかして・・・」
「いいですか? 一見ノイズのように見えるこれ、こう拡大してみると・・・」
「この波形・・・、時空間魔法ですか!?」
「ええ、間違いないと思います」
「それにしてもあまりに発生時間が短い」
「現象としては物体の瞬間移動なので、おそらくこの超短時間で十分なんじゃないかと」
「ちょっと待ってください! この魔力の上昇量と発生時間から推測される必要魔力量って・・・」
「はい、おそらく100回スティールしても
「そうすると、今回我々の出る幕は・・・」
「おそらくありませんね。あとでのど飴でも差し入れましょうか」
あれ? 今度はみんなでため息吐いてる?
スティールスティールスティール・・・
「ウサダンさん、一応最後までデータは記録しておいてください。多分ギルドに戻ったところで、この部屋に入ってからのデータはすべて削除することになるとは思いますが」
「でしょうね。これは外には出せません」
「どうすべきか、ブラック殿と相談しましょう」
おや、打ち合わせは終わったのかな。
みんな元の位置に戻ったみたい。
スティールスティールスティール・・・
「えっと、カルア殿?」
「はい、なんでしょう?」
「のど飴舐めます?」
まだまだ湧いてきそうなので、ここで一旦休憩することに。
「カルア殿、一度魔石を片付けましょうか」
言われて足元を見ると、そこは一面魔石だらけになっていた。うわぁ。
「そうですね。魔法の鞄に入れちゃいますね」
どうやらこの部屋は魔法の鞄が使用できるようなので、ここまでの分をすべてその中へ。
「鞄を開けて下に置いておくといいですよ。近づいてくるものはある程度鞄が勝手に収納してくれるので」
なんとそんな便利技が。
生活の知恵だねっ。
「それと、カルア殿のスキルですが、どうやら時空間魔法と関係があるようですね。魔力計測で興味深いデータが取れましたので、それについてはギルドに帰ってから詳しくお話しします」
おお、それは楽しみ。
そしてオートカさんは、とてもにこやかな表情で、僕にこう言った。
「じゃあ、そろそろ残りの駆除もお願いしちゃっていいですか?」
もはやオートカさんの認識は、戦闘じゃなく駆除になってるようだ。
・
・
・
「終わり、かな?」
「どうでしょうか? ウサダンさん?」
「周囲に魔力の揺らぎはありません。終わりとみて間違いないでしょう」
そんなウサダンさんの意見を肯定するかのように、壁に扉が現れた。
そして・・・
「あれって階段?」
そう、部屋の奥には階下へ続くっぽい階段が。
前来たときには無かったよね。
「タチョ時報開始毎1分!」
オートカさんは素早く指示を出してから僕に話しかける。
「この間は階段は無かった、ということでいいんですよね」
「はい。魔物の死骸は散乱してましたが、階段があるのを見落としてはいないと思います」
「ではあの階段はおそらく一定時間で消えるタイプのものでしょう」
そういえばダンジョンにはそんなストラクチャーもあるって本に書いてあったっけ。
「あの先がどうなっているのか非常に興味はありますが、今日の所は出現時間を確認するだけとしましょう。体力やアイテムの消耗はありませんが、今の段階で先に進むのはリスクが高い。我々は調査団です。まずはこれまでのデータを持ち帰ることを優先します」
階段が消えるのを待つあいだ、調査団の皆さんは計測を続け、僕は魔物を鞄に収納。
そして階段は、出現からちょうど10分で消えた。
ろうそくの火が消えるようにふっと。
「さあ皆さん、今日はここまで。撤収準備に取り掛かりましょう。忘れ物などしないよう、お互いに声を掛け合いながら準備を進めてください。あとはゴミなど残さないように。『来た時よりも美しく』ですよ」
「「「はーい」」」
あれ? ちょっと皆さん、さっきまでの緊張感は?
「準備は出来ましたね? 周りにいない人はいませんね? じゃあ扉を出ましょう」
扉を出ると、これもまた前回と同じく、そこは入り口の間。
「ウサダンさん、念のため魔力計測を」
「了解・・・、平常値です」
「大丈夫そうですね。じゃあ出ましょうか。カルア殿、入退記録に差異が生じないよう、カルア殿のカードでお願いします」
だよね。
ここで他の人のカードを使ったら、僕はダンジョンに入ったままって事になっちゃうから。
カードをかざすと、今度はいつもどおり全員ダンジョンの外へと転移した。
「さあ、それじゃあ街に戻りましょう。皆さん、最後まで気を引き締めていきましょう。拠点に帰るまでが現地調査ですからね」
やっぱりユルい。
それともこれがプロのメリハリってやつなのかな・・・
「ただいま戻りましたー」
「皆さん、お疲れさまでした。カルア君、お帰りなさい」
「ピノさんただいまです。ギルマスはいますか?」
「はい。呼んできますから調査団の皆さんと部屋でお待ちくださいね」
部屋に入ると、程なくギルマスが登場。とピノさん。今回もやっぱり同席するようだ。
「皆さん、ご無事で何より。今日はいかがでしたかな」
「ありがとうございますブラック殿。カルア殿のおかげでようやく調査が進展しました」
「というと、もしかして?」
「はい、ついに転送トラップが発動しました」
「そうでしたか。転送先はやはり魔物部屋に?」
「ええ。調査依頼書の通りでした」
「出現した魔物については?」
「こちらも調査依頼書の通りでしたね。あのダンジョンに出現する魔物と同じ分布でした。バット、ランニングバット、ラビットバット、切り裂きバットの4種類です」
こいつらは、どれも胴体の大きさが小型犬くらいある蝙蝠だ。
バットはふつうの蝙蝠。ランニングバットは羽が退化して地面を走り回り、ラビットバットはウサギみたいにジャンプして移動する。
そして切り裂きバットはこの中で一番厄介。
バットのように空中を飛び回り、羽の先は鋭利な刃物みたいによく切れる。
フィラストダンジョンで大怪我する冒険者は、ほとんどこの切り裂きバットにやられてる。
素材としては、食料、薬、革、刃物といったところ。
買い取り額はどれもそれほど高くはない。
「出現数は?」
「正確には分かりませんが、数千といったところでしょうか。魔石で数えるのがよろしいかと」
「カルア君、今回はすべて持ち帰って来たかね」
「はい、この魔法の鞄に全て入ってます」
ギルマスは僕から鞄を受け取ると、
「ピノ君、これを解体に回してくれ。それと明日以降で構わないから魔石の数を報告するよう伝えてくれ」
「数えるのは業務量が少ない昼間の時間帯にみんなでやっちゃいましょう。彼らには解体を優先にやってもらいます」
「うむ、そうだな。それで頼む」
「トラップの発動条件については現時点では分かっていません。これからデータを見ながら我々で推論を行います」
「うむ」
「それと実は、魔物を殲滅したあとに階段が出現しました」
「ほう」
ギルマスの目がギラリと。
「出現したのは下り階段です。出現時間は10分、おそらく前回はカルア殿が気を失っている間に消えたのでしょう」
「なるほど」
「階段については、次回体制を整えてから調査を行うつもりです。つきましては、次回もカルア殿の同行を依頼したいのですが」
「ふむ、今日の所はカルア君も気を張っているだろうから、ゆっくり考えて明日の返答としよう」
「そうですね。それがよろしいかと」
「それでもう一点ご報告が」
「・・・何かな?」
「カルア殿のスキルについてです」
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