ぼっち脱出。友達は大事。

「はわわわあ!」


 なんだなんだ?

 遠くで妙な叫び声が聞こえた。


 あれは……。

 前に食堂で転びそうになっていた女の子だ。なにやら、また転びそうになっている。

 今日は食べ物も持ってないしスルーしておこう。


 それにしても慌ただしいキャラだな。所謂ドジっ子なのだろうか。

 名前の無いキャラにも、濃いキャラがいるんだなあ。というか、あんなおいしいキャラがゲームに出てこなかったなんて勿体ない。


「おーい、ラグナ。何してんだ?」


 あ、ベジタボ。

 私は手を振る彼の方へと向かった。


 学園に入学して一か月。ついに私にも友達が出来たのだ。

 クラスのほとんどの男子は相変わらず私に冷たいが、ここ数日で声をかけてくれる人も増えてきた。


 ありがたいことだ。本当にありがたいことなのだが……。

 なぜかみんなガチムチキャラなのだ。最初は本当に怖かった。


「これからトレーニング行くけど、ラグナも来るか?」


 こんなキャラは、ゲームではまったく見たことない。そもそもキャラデザが全然違う。

 乙女ゲームの世界に存在する筋肉キャラ。中々にインパクトがある。


「私はそういうキャラじゃないから……、遠慮しておこうかな」

「素質あると思うんだけどなあ。勿体ない」


 ベジタボは、私とヴァンの戦いを見たことで声をかけてきたらしい。

 攻撃を受けてもピンピンしてたことから、体が丈夫だと思われたようだった。


「一緒にトレーニングしなくてもいいからさ。見るだけ見に来いよ」

「うん」


 私はベジタボに連れられて、訓練場に足を伸ばした。


「おう、ラグナ。やっと一緒にやる気になったのか?」


 訓練場に先に来ていたマッシュが、バーベルを持ち上げながら言った。

 奥には黙々と腹筋をするオシロの姿もある。


「いや。今日も見学」


 私は少し申し訳なさそうという感じで答えた。

 毎回誘ってもらっているのに、これまで色んな理由で断ってきたのを誤魔化すためだ。


 じゃあ、なぜ着いてくるのかって? それは、ぼっちが寂しいからだ。

 みんなマッスルしているとはいえ、初めてできた男友達。彼らと一緒にいるのは安心する。

 体の大きな人は、心も大きい人が多いのだろうか。


「ラグナ。これ見ろ。今いい具合にパンプしてる」


 マッシュはそう言って、自分の腕を自慢気に指さした。

 うん……。ちょっとよく分からない。


「そういえば、そろそろ実地訓練始まるな」

「ああ。来週からだっけ」


 一通りのトレーニングを終えて、話題は来週行われる実地訓練の話になった。


「まあ、俺たちならスライムぐらいなら握りつぶせるだろう」


 そうだな。確かにそれぐらい出来そうだ。

 ゲームで仲間にならないキャラでも、この世界には強そうな人はいっぱいいる。世界は、ゲームで見えてたことだけじゃないんだなあ。



* * * * *



「今日の実地訓練は、梟の森で行います」


 私たちはメアリージュ先生によって、森の近くへ集められた。

 今日はついに魔物退治の実地訓練だ。みんな初めての事にソワソワしている。


 はあ。今日の私は憂鬱だ。うまく力を隠さなければ。

 力を持つ者ゆえの悩み……。この悩みは、誰にも理解されまい。転生者はつらいぜ。


「この森は低級の魔族しか出ませんが、皆気を緩めないように。危なくなったらすぐに救援を」


 梟の森。修業を始めた頃は、ここにもけっこう通ったな。


 ここはぷにっとスライムがよく出るのだが、超低確率でその上位種である鋼スライムが現れる。

 それを探してスライムを狩りまくって、一時期スライムが姿を消した森って噂になったっけ。なにか大変な事が起こる前兆だとか騒ぎになってしまい、それから慌てて狩場を移したのだ。


 さすがに何年も前だから、もう元に戻っているだろう。


「それでは、各自四人でパーティーをつくって下さい」


 ボッチには残酷な指令が下った。

 そんな当然のことのように言われても、先生の普通はみんなの普通ではないのですよ。


 だが、そんなもの今の私には効かない。なぜなら、私には友達がいるからだ!


「おーい、ラグナ。組もうぜ」


 そら来た!

 向こうでベジタボたち三人が集まっている。こういう時、早めにパーティーが決まると安心する。残されるほどに精神がすり減っていくのを、私は十分に知っていた。


 私は足早に、彼らの元へ駆け寄った。

 この三人と一緒なら、私の魔法を使うまでもないだろう。


「おいお前。俺のパーティーに入れ」


 そんな私に、なんとあのヴァン様からの誘いが訪れた。

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