ステージなんて①

「では、私たちのクラスでは、『謎解き輪投げカフェ』を行うことに決定しました」

 などという奇怪な企画が成立したのは、夏休みに入る前、期末試験が始まる前の時期だった。比較的ローカロリーな割に、よくわからない企画が決定されたと思う。

 元々、それぞれの「喫茶店をやろう」や「お化け屋敷をやろう」という意見が出ていたものの、教員が「そんなのではつまらない、何事も『掛け算が重要だ!』」だなんて言うもんだから、よくわからんコンセプトカフェが爆誕してしまった。

 まったく、どこかで仕入れた意識の高い知識を押し付けるのはやめて欲しい。そういったものを使って、過ぎ去ってしまった青春の中で、出来なかったことの埋め合わせを自分なりに行っているのだろうか。お疲れ、青春ゾンビ。

 掛け算して何になるんだろう…?なに?同じ理屈で「かき氷に醤油をかけましょう」みたいなことも許容されるけど、いいのかな…。

 元々、うちの学校は『部活動が盛んな進学校』だから、逆にそこまでクラスのまとまりは無い。そこまで無理してクラスの出し物なんてしなくても良いと思うのに、どうしてもこの習慣はずっと残っている。学校全体がそんな感じだから、クラスの出し物はやはりそれぞれの部活動や有志団体が企画するものよりも、見た目としては劣ったものとなる。

「では、『謎解き輪投げカフェ』」の企画会議を始めます」

 そんなことを、委員長の相川の掛け声を聞きながら思い出した。

「本当にやるんだよね…輪投げカフェ」

「『謎解き輪投げカフェ』ね。大丈夫大丈夫。輪投げと飲み物の手配は済んでいるから、あとはそんなにエネルギーも使わないわよ」

 相川はつとめて明るく振る舞っている。メガネをかけたポニーテールという「いかにも」な感じだが、特別真面目な雰囲気は感じさせない。無論、今回の輪投げ、いや、『謎解き輪投げカフェ』に対しても、並々ならぬ熱意を抱いている感じでも無さそうだ。

「僕も思ってた…本当にやるんだね…ごめんね…夏休みサボっちゃって…」

 運営メンバーの1人、高畑君がヌメヌメ言葉を発している。この「運営メンバー」と言っても、関わっているのは私を含めてこの3人だけだ。他のクラスの人たちは、各々の有志の企画や、部活道で忙しいから、関わるメンバーが本当に一握りとなってしまう。クラスから、シンプルに外れてしまったやつら。私たち。

「え、全然大丈夫よ?ていうか、私も何もしてなかったし」

「あ、そうなんだ…てっきりすっごく相川さんの方で何でも進めてるんだと僕思ってた…」

「まぁ、なんか一応この企画の代表をやらされているから、色々機材とかの申請はしておいたわよ。だけど、私がやったことってそれくらい…?ていうか、それくらい出来ていればまぁ大丈夫なんじゃないかしら…?」

「あっ、そうなんだ…ありがとう…全然知らなかった…」

 この高畑という男は、シンプルに陰キャだ。おい、顔を上げて話せよ。いつもは文庫本を常に読んでいるようなタイプで、クラスの人たちと仲良く会話しているところも見たことが無い。放課後も、すぐに教室を出て行っているイメージだから、部活にも所属していないのかもしれない。もしくは、もっと文化系の部活に所属しているかも‥?まぁ…興味は、無いな…。

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