EP.17 聞き込み!中野信太!
と、いうわけで次の日。さっそく「仲直り大作戦」決行しなきゃいけないのですが⋯⋯。
とりあえず、中野くんの声をきこうと、普段よりか十五分前に家をでて、中野くんの家にきたの。中野くんの家は、わたしの家から十分、十五分くらいでいける場所で、学校からも相当近い場所。
複雑に入り組んだ住宅街の中、そこに馴染むように佇んだ石造りの神社の鳥居が目印で、その神社を横切った先の左手側に見える赤い屋根で白塗りの壁の洋風な建物。
うん。目の前の家と条件ばっちり!これでインターホンをおせば……。
「あれ?美野里ちゃん?」
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
黒いフェンスに取り付けられたインターホンを指で押そうとした瞬間、頭上から天のような声が聞こえたもんだから、見上げたらなんと生首の中野くんが!!
「ごめん、今降りるね!」
び、びっくりしたぁ⋯⋯。ベランダから顔を出してただけか……。
なんて胸を撫で下ろしていると、すぐに扉が開き、白いワイシャツに緩く赤いネクタイを締めた、爽やか好青年が現れる。
「ごめん、驚かせちゃったよね。ベランダの植物に水やってて、美野里ちゃんの姿見えたから声かけちゃったんだ。」
べ、ベランダの植物に水やり……。
「森林の紳士だ……」
「え?」
「い、いや!なんでもない!」
慌てて首を横に振るけど、それでも不思議そうにこちらを見ている。
い、言えないよ……美香がクラスの男子全員に異名つけてるとかそんなこと言えないよ美香ああああああ!!!
「どうしたの?なにか、ぼくに用事?」
白いワイシャツを風になびかせ、フェンスの扉を締める中野くんに、本題を思い出す。
「あ、ええっとね!ちょっと聞きたいことがあって。」
「聞きたいこと?」
歩き始めた中野くんを横目でみつめながら、静かに切り出した。
「りょうと中野くん、喧嘩しちゃったんだよね?」
隣を歩いていた中野くんが、ぴたっと一瞬動きを止めた。困り眉をしながら苦笑いをこぼす。
「うん。ごめんね、迷惑かけちゃって。」
「わたしは全然大丈夫だよ。大丈夫なんだけど、ただ……。」
昨日の雨の匂いが残る、木々に囲まれた石造りの神社の前で、歩みが止まった。隣の中野くんの歩みも止まる。
「なんで、いきなり村へ行くのを反対したの?」
「……それは。」
目じりをきゅっと下げて、いつもの笑顔は消え去っていく。
コンクリートの道にところどころ水溜りができてて、快晴に近い青空を水面に映し出している。空気もどことなくからっとしていて、すぐのどが乾いてしまう、そんな天気だ。
口をつぐんでいた中野くんは、わたしとは目を合わせず、神社の右側の道に体を向け足を進めだす。
「危険だから。」
背中しか見えない。どんな表情をしているのか、わからない。
水たまりに足を突っ込んで、その丸まった背中を追いかけた。
「なんで危険だって思うの?」
「それは、言えない。」
息を呑んだ。横からのぞいた顔が、あまりにも冷ややかだったから。いつもの微笑みも、どんぐりみたいな双眸から覗く瞳の暖かな光も、今はない。唇を痛々しく噛んで、目を伏せた中野くんが、そこにいる。
それでも、引くわけにはいかない。きっと、一人で抱え込んでるんだ。ここで引いたらおしまいだと、中野くんの腕を引っ張る。
「どうして言えないの?最初、わたしが村へいくって宣言した時は、中野くん一緒に頑張ろうって言ってたよね。」
電線の上で羽を休めていた雀が、遥か遠くへと飛び立っていく。薄汚れた電柱の前でまた立ち止まった。この角を曲がって坂を上がったらもう学校に着いてしまう。その前に聞き出さなきゃ。
「もし、私たちに迷惑がかかるとか、そういう理由だったら遠慮しなくていい。だから……」
「ありがとう、美野里ちゃん。」
ぽん、と頭に手をのせられる。中野くんの顔が、見えない。
「でも、言ったらきっと美野里ちゃんはガッカリしちゃうと思うんだ。」
ふと手を離され、見上げると優しい笑みを浮かべた中野くんが目尻を下げた。
「違う方法で、女王様に恩返しをする方法を見つけた方が、きっとハッピーエンドで済むだろうから。」
「ハッピー、エンド?」
聞き返しても、その穏やかな笑顔を浮かべたまま、坂を登り始める。その笑顔が、その背中が、もう聞くなと言っているような気がして、ただ後ろを着いていくことしかできなかった。
ハッピーエンド。
じゃあ、わたしたちが村へ行ったら、ハッピーエンドじゃないってこと?
なんでそんなことがわかるんだろう。まるで、未来を予知してるみたいに。
結局、何も話さず学校に着いた頃には、快晴だった空が、大きな雲によって朝日を隠されてしまっていた。
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