EP.13 最初のミッションを決めよう
「俺の部屋、 ちょっとよっていかね?」
りょうがかっこつけて、びしっと家を指差してそういったのが、 数十分前。
すっかり調子に乗ったのかなんなのか、さっそくチーム活動をしようと言い出したんだけど、こちらもこちらですっかりテンションが上がっていたのですぐ首を縦に振ったんだけど……。
「全然情報がないじゃんかあああああああああああ!!!」
紺色のシーツがかかったベッドにもたれかかるようにうなだれる。
だってだって! ネットで 「妖精界」 とか 「願いをかなえてくれる女王」とか調べてもいっこうにでてこないんだもん!!
「図書館とかにはないのかな?」
「どうだろうな。もう閉まってそうだけど」
三つグラスがのった木製のお盆を片手にもちながら、部屋に戻ってきたりょうが口を挟む。
チクタクと音を鳴らす壁がけ時計に視線をずらしてみると、針はすっかり下に傾き、 六時三十分になろうとしている。
受け取ったオレンジジュースに口をつけながら、今度は二人の方に視線をずらした。
「学校の図書室にはなかったけど、町の図書館にはもしかしたらあるかも!」
ネットよりか、図書館の方がファンタジーっぽいし、古びた手記とか出てきそう!
「それは美野里の妄想の中でだろ。」
う、うるさいな!いいじゃん、妄想くらい。
「まあ、妄想っていうか想像っていうか、それにしか頼れないような感じもするんだよね。」
中野くんは机の上に散らばった紙に目を向けた。
「ま、まあね〜。あははは。」
わたしが書いた女王様のイラスト眺めながら言われると、ちょっと悲しくなってくるからやめてくださいませ……絵心ないのは自分でもわかってるんです……。
「まあ、正直いうと作り話って言った方が当てはまるしな。神話とかから関連性を探るとか?いや、それだと地域によって諸説異なるし……。」
ぶつぶつと言いながら下を向く。
あちゃあ。こうなるとりょう、なかなか戻ってこないんだよねぇ。
「でも、本当にどうしたらいいんだろう。出だしから行き詰まっちゃったよおおおおおおおおおおお!!!!」
布団に埋もれて項垂れる。
撃沈すぎる。張り切ったはいいものの、結局情報不足で何も進まないよ……。
「ねえ、りょうたちは女王様に恩返しするために調べてるんだよね?」
死にかけた空気の中で、ふと口を開いたのは中野くん。
「具体的に何か目標とかはあるの?恩返しだけだと、多分調査が進みにくくなっちゃうかなって思って。」
た、確かにそれは考えてなかったかも……。
急いで起き上がって中野くんの方へ向き直る。りょうも中野くんの方を向き、わたしと同じことを思っていたのか、首を横に振った。
「今まで情報を集めることだけに精一杯だったから、決まってないんだ。決めた方がいいよな。」
手を後ろに回して、天井と睨めっこする。そんなりょうに視線をずらせば、その三角眼がきらりと光った。
「美野里は、どうしたい?」
「え、わたし!?」
すっとんきょうな声を漏らして大きく目を見開く。
「リーダーの美野里が決めるべきだ。」
大真面目な顔をしてそう告げるものだから、腕を組んで考える体制を整える。
女王様に恩返しをするために、まず何をするべきか。
女王様についてもっと深く知りたいし、妖精界についても知りたい。でも、今のままじゃ情報が圧倒的に足りないんだよねぇ。
って考えると、やっぱり今ある手がかりを見つけたあの場所に行くしかない。
「あの村に行きたい。そこに行って、女王様が伝えたかった妖精界の危機が何なのかを明らかにする!」
勢いよく立ち上がって宣言すると、二人とも大きく頷いていた。
「そうだな。調査チームの記念すべき最初のミッション、頑張って達成しようぜ!」
「僕も、二人の力になれるように、頑張って思い出してみるよ。」
立ち上がってくれた二人に「ありがとう」と声にする。じんわりと、心が暖かくなった。
「じゃあ、まず、あの村へのいき方を考えないとな。」
すとん、とあぐらで座り直したりょうは、グラスに注がれたコーラを飲み干す。
行き方……。わたしは、手紙の地図でいけたけど。
「でも、信太は不思議な蝶を追いかけていつのまにかついていた。もしかすると、信太のは、女王が意図的に誘い出したのとは少しちがうものなのかもしれない。」
淡々と伝えていく。その三角眼の中の瞳が向けられた瞬間、声が出た。
「た、たしかに!わたしのが必然に村にいけたのなら、中野くんは偶然村にいけたのかも。」
「それもあるし、純粋に呼び出した相手が違った可能性もある。」
うわああああああっ。可能性がたくさんありすぎるよぉ。
「まあ可能性があっても実行できるものには限りがある。美野里の手紙に入ってた地図は見ての通り白紙になってるし、信太の不思議な蝶は見つけるのに時間がかかるしな。」
あ、可能性が見事に全て潰された。
そうなると、わたしや中野くんの記憶に任せていくしかできないけど……。
「僕はちょっと自信ないかも。中学の頃の話だし。」
「美野里は論外だな。」
はぁ!?論外とはなんだ論外とは!
「言葉通りの意味だよ。美野里の記憶力はダチョウと比べても大差ない。」
うわ、ひどい。ダチョウって脳みそ小さすぎるってこと知ってるんだからね!
「まあまあ。今日は一旦帰って、各自情報を整理するっていうのはどう?まとめて発表形式にした方がお互い冷静に意見出せるし。ね?」
間に割って入った中野くんは、困り眉になって伝える。
「確かに!今日だけでも、結構わかったことはあったもんね!」
「そうだな。じゃあ、今日はここまでにしとくか。」
お盆に空になったコップをまとめながら話すりょうに、頷いて荷物をまとめる。ベランダからの光はもうすでに消えていて、遠くに見える空にはお月様が登り始めていた。
何だか今日は1日すぎるのがあっという間だったな。
なんて思いながらりょうの家を出て、中野くんともすぐに別れ、隣の何の変哲もない我が家の扉を開ける。
「ただいまー」
あれ?お母さん、まだ帰ってきてないんだ。玄関に靴が全くない。
「ラッキ〜」
つい口元が緩んじゃうけど、それもそのはず!だって、お風呂入る時間も自由だし?お菓子食べ放題だし?何と言っても、勉強しなさいの声ひとつしない!なんて開放的なのでしょう!
「ふんふ〜ん!ひっとりぐらしはいいな〜!」
るんるんカバンを揺らしながら、階段を登る。
「ま、情報整理は夜にやるとして〜」
何しようかなぁ〜。こないだ買った漫画読むのもありだし、リビングでサブスク見漁るのもありだな〜!
なんて思いながら無事自分の部屋の前に到着。木製の扉についた銀の取手を掴み、勢いよく開け放つ。
「たっだいまー!愛しのマイルー……ム!?」
開け放ったものの、部屋の中に入る前にフリーズしてしまった。
電気もついていない暗がりの中、窓だけが空いている。梅雨の水分を含んだ風が、部屋の中に通り抜けた。
「おかえりなさいませ。秋川美野里様。」
暗がりの部屋の中で、薄く笑ったその人に、一気に体温を奪われた瞬間だった。
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