第13話 焦燥と思惑
自室の中を落ち着かない様子で歩き回る男の姿がある。
「クソ……どういうことだっ」
苛立った様子で爪を噛むのはノバンだ。
ずっと望んでいたハーディスとの婚約を解消することが出来たノバンはすぐにでもアマーリアとの婚約を済ませて結婚式の予定を立てられると思っていた。
しかし、伯爵とアマーリアは『そんなに急ぐ必要はない』と婚約を受け入れてはくれなかった。
しかもファンコット家のメイドから今日、アマーリアにあの山のような贈り物をした匿名の貴人が屋敷を訪問すると聞き、ノバンは青ざめた。
もしかしたら、伯爵はその男とアマーリアを結婚させる気なのかもしれない。
そうと思うと落ち着いていられない。
仮にこのままアマーリアとの婚姻が叶わなかったら?
それは困る。
ノバンは侯爵家ではあるが次男だ。
家長の兄に無断で当主印を持ち出し、神殿で婚約解消する書類を申請したことだけでも大事なのに勝手にハーディスとの婚約を解消して代わりにアマーリアとの婚約が出来なかったとあれば身分と地位の保証はない。
ノバンは婿養子としてファンコット家に入る予定だった。
故にヘンビスタ侯爵家の仕事や家門の事業には一切関わっておらず、当然役職や席もない。
重要な役職は親族で固められていて確立しているため、余所の家門に入る予定のノバンが割って入ることなどできない。
このままアマーリアとの婚約できなければ自分の立場はどうなる?
アマーリアとの未来、伯爵としての優雅で贅沢な生活は夢で終わる。
「そんなっ……!」
自分の取った行動が自分の首を絞めている。
まさか、アマーリアと伯爵が自分との婚約を渋ると思わなかったからだ。
不安と焦燥感がノバンの胸を埋め尽くす。
落ち着け、まだアマーリアは誰との婚約もしていない。
一番近くにいるのは自分ではないか。
それに、アマーリアの婚姻が叶わなくてもいざという時の手段はある。
ハーディスをファンコット家に戻すように進言すればいい。
伯爵よりも今ではハーディスの方が仕事をしていたぐらいだ。
家門に尽くすことを誓わせて家に戻し、形だけの夫婦となれば自分の地位と身分は保証される。
今まで冷たく接してきた分、自分だけは味方であると優しさを見せればすぐに戻って来てくれるはずだ。
あの誰もが冷たい家の中でノバンだけは味方でいてあげるのだ。
アマーリアとの結婚が叶わなくてもきっと自分達は大丈夫だ。
心はアマーリアのものだと示し続ければアマーリアも自分を受け入れるだろう。
アマーリアも一番は自分だと言ってくれている。
例え、望まぬ結婚を強いられてもお互いの想いが通じ合っていれば問題ないのだ。
それが真実の愛というものだ。
俺は必ず身分も地位も女も手に入れる。
ノバンは自分の計画に口元に笑みを浮かべた。
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