第159話 追跡

「なんだあのガキ!」


「追いかけっこだろ? 私から逃げ切れるかな!?」


 チッと舌打ちをする佐藤が樽を蹴飛ばして私の移動先を妨害してくるが...。


「このくらいならブーメランで全部壊せる!」


 ブーメランを投げて樽を全て壊して突き進む!


「ガキの癖にやるじゃねぇか!」


「伊達に兄ちゃんに使われてないよ!」


 毎日毎日馬車馬の様に扱われた私は大きく成長した。


 短い期間ではあるけど、兄ちゃんのお陰でこんなに強くなれたのは紛れもない事実だ。


 その恩義だけは感じている。


 この佐藤って奴が兄ちゃんに何をしたのかは知らないけど、捕まえたら褒められそうなのでそうしようと体が動いたのだ。


「素早いガキだがこの町の地理は知らないだろ!」


「あっ!」


 佐藤が住宅街に入り込んだせいで姿をくらませた。


 人が行き交う住宅街の住民達が邪魔で今度は進めない。


(まずいな...、逃がしそうだ)


 そう思った時だった。


『EXスキル【音感向上】を取得しました』


 いきなり耳の感覚が鋭くなり佐藤の足音が聞こえる様になった。


(...ここの角を曲がって)


 私はそのままゆっくりと奴の足音を聞き続ける...。


 しばらくすると足音が緩やかになったので勢いよく走り出した!


(この距離ならやれる!)


 そう思って猛ダッシュしたのですが...。


「えっ!?」


 そこは住宅街の行き止まりで、そこからは家に入ることしかできません。


(...弱ったな、どこの家なのかまでは分からないぞ?)


 そう思いつつも最後まで聞いていた足音を思い出して大体の目測をつけて部屋の中を覗いてみる。


 すると佐藤の奴を見つけた。


(野郎...油断しているな! よしよし兄ちゃんから貰った【痺れ草のナイフ】で痺れさせてから連れて行ってやろう!)


 そう思ってチャンスを伺っていると...。


「えっ?」


 思わず私は小さな声を出した。


 何故ならそこにはギルドに貼られていた誘拐された筈の姫様の似顔絵と瓜二つな少女が佐藤の腕に抱きついていたからだ。

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