第59話 モモコの両親と、クニミツの友

「モジャモジャは、逃げてもいいよ。アイツの攻撃だと、あんたに届きそう」

「いいモジャ。最後まで見届けるモジャ!」


 ウニボーは、逃げようとしない。


「隠れてて。アイツは、精霊相手でも攻撃を当ててくるかも」


 モモコがウニボーを、アイテムボックスにしまう。


「いつでも、かかってこい。相手になってやろう。実力の差を思い知るがよい」

「そうさせてもらう!」


 オレは、ビッグ・フォース・キャノンをためらいなく撃ち込む。


「なんと!?」


 さしもの鬼龍でも、オレのキャノンには防御せざるを得なかったらしい。直撃し、壁際まで吹き飛んだ。


「な、なるほど。ヴリトラが手こずるわけだ。ここまでの強さだとは」


 鬼龍が、砂を吐く。


 そこへすかさず、モモコが斬りかかった。


 オレも、ブロードソードで飛び込む。グレートソードは当たらない。かと言ってショートソードと盾では力不足だ。中間を取って、防御無視の攻撃特化型武器に切り替える。


 対する鬼龍は、モモコと同じ逆手持ちだ。剣と徒手空拳を使い分け、オレたちの攻撃を流す。


「避けられる?」


 足を踏んで、モモコはマシンガンを乱射した。


 しかし、鬼龍は映画のごとき動きで身体をのけぞらせる。手足を払いのけ、モモコの手からマシンガンを弾き飛ばした。


「ゼロ距離に飛び込んだ己を呪うがいい!」


 鬼龍が、モモコに殴りかかる。


 モモコも、負けていない。手から手裏剣を出し、鬼龍のノドを狙った。


 かろうじてかわしたが、鬼龍の頬に赤いラインが走る。


「ニンジャは、イヤだったんじゃなかったか?」

「イヤだとは言ってない。私のスタイルじゃないって言った」


 強がっているが、モモコの目は真剣だ。強敵を前に、彼女もなりふりかまっていない。


「ワタシの顔に、傷をつけたか。ここまで成長するとは。なぜそこまでの力が、生前のお前には開眼しなかったのか」


 自らの血をなめて、鬼龍がうれしそうに笑った。


「モモコ、コイツが悪魔祓いだって知ってたのか?」

「知らない。なんの訓練も受けてない」


 モモコが首を振ると、鬼龍もうなずく。


「それはそうだ。落ちこぼれのうちから鍛えては、死んでしまうからな。それでもよかったが」


 鬼龍は、モモコを高校卒業するまで待っていた。その時期くらいなら、訓練してもいいだろうと。


「だが、見込み違いだった。モモコは異界との接点は皆無だった。異界となんらかのつながりがあれば、訓練させてもよかった。が、モモコは最期までただの人間にすぎなかった。もっと、魔物と接触させておけばよかったが。吉備きびの娘だから、期待していたのだが」


 攻撃の手をやめ、モモコは話に聞き入る。


「どういうこと? 私は、龍洞院の子ではない?」

「ああ。お前は、吉備の子だ。龍洞院のような裏稼業でなく、祈祷師の家系だよ」


 モモコは、異世界と接点があったようだ。力までは開眼しなかったが。


「子どもに恵まれなかったワタシは、吉備から娘を奪った。その際に、相手を自殺に見せかけた」


 話している途中で、モモコは再度剣を振るう。


「奴には妻もいたが、同じようにしてやった。無理心中というやつだ。いくらでも理由なんてでっち上げられる」


 鬼龍は話しを続けながら、モモコの剣を蹴り飛ばす。

 動揺している相手は、御しやすいか。


「その後モモコは、部下に育てさせた。モモコには、本当の両親と思わせて」


 なるほど。モモコが親の愛情を受けられなかったわけだ。事務的に育てられていたんだから。


 モモコの怒りが頂点に達するのを、オレは見逃さない。


 いや、それよりも。


「吉備だと? それじゃあ、下の名は……桃矢とうやか?」

「ふむ。よく知っているじゃないか。知り合いか」


 なんて、数奇なめぐり合わせだろう。


 この件に、オレは無関係だと思っていたのに。


「オレは以前、モモコにダチが自殺した話をしたよな。すぐにやめたが」


 鬼龍からの質問を無視して、オレはモモコに語りかける。


「うん」

「そのダチの名前が、吉備 桃矢だ」


 どうやら、オレにもコイツを殺す理由ができたらしい。

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