第58話 魔将 鬼龍

「なあモモコ。お前のじいさまって、マスター・クワイガンみたいな見た目なんだな」

「なにそれ?」

「ええ……お前、エピソード・ワンを見たことがないのか? 『スター・ウォーズ』でリーアム・ニーソンが演じたキャラだよっ」


 鬼龍はなんというか、そのコスプレをした倉田保昭のようなビジュアルだ。


「いや。悪役だから同じリーアム・ニーソンで言うと、『バットマン・ビギンズ』の方かも?」

「どっちも知らない。クニミツはいちいち例えが古い」

 

 さいですか。


 オレがいいたいのは、「強敵感がハンパない」ってことである。


「ヤロウ、調子に乗るんじゃねえ!」


 スケルトンのアサシン・スケロクが、鬼龍に飛びかかった。


 だが、鬼龍もひるまない。死角を狙った動きにも対応し、スケロクを翻弄する。


 なんてやつだ。スケルトンを、素手で相手してやがる。


「ふむ。動きは見事だ。生前はかなりの使い手だったのだろう。しかし、アンデッド故に行動が読みやすい」


 いくらアンデッドと言えど、術士の指示されたとおりにしか動けない。


「つまり、弱くなっている」


 スケルトンとしてのレベルは上がっているが、本人の格闘術に関しては追いついてないと。


「だいぶ、不自由していたのではないか? 今、楽にしてやろう」


 モツ抜きの要領で、鬼龍はスケロクの心臓を貫く。


「ば、ばかな」


 スケロクが、消滅していく。それも成仏という形ではない。あれは、冥府に落とされた様子だ。


「あんた! 仇は討ちますえ!」


 全身火だるまの形状になって、スケチヨが突撃する。


「ムチャだ! やめろ!」

「これは理屈じゃ、ありんせん。復活させてくれて、ありがたく思っておりますえ! 夫の後を追いますえ!」


 炎の弾丸となったスケチヨが、鬼龍に着弾した。大爆発を起こし、フロア一帯を火の海にする。


 鬼龍は、倒せたのか?


「なんと。美しい夫婦愛か。共に冥府へと墜ちるとは」


 無傷、あれだけの攻撃を受けてもなお。


「あんたも転移か転生をして、チートスキルを?」

「いや。無理やりこの世界に来た。龍洞院りゅうどういんの秘術を使って」

「秘術だと?」

「我らは元々、悪魔祓いのプロだ。おそらく先祖が転移者か転生者だったのだろう。彼らは一度世界を救い、また日本に帰ってきた。そのときに使った異世界への道を【龍洞】。龍の洞窟と称した。ワタシはそこを通ってきたのだ。たしかキミらは、違う言い方をしていたな?」

「……【世界の裏側】か」


 世界を捻じ曲げた反動で、肉体が死霊に近い姿になってしまっているらしい。


「弱体化した?」

「いや。肉体から開放されて、より強くなったのさ。これで、鬼を祓う力が増した」


 龍洞院の家系はかつて、転生者としての力を利用して祈祷師きとうしとなった。しかし、裏の顔を持つ。


 鬼討師きとうし……つまり、異世界からの魔物を祓う一族としても活動していた。


「なるほど。異世界からのカギは、その過程で手に入れたと」

「ワタシは不老不死の欲望に負け、祈祷師の一族を裏切って破門された。その経緯で、暴力団の組織をおこした」 


 鬼退治のプロが、鬼になっちまったってわけか。


 異世界に趣き、魔王を復活させるために。


「あいつは私にも、同様の道を歩ませたかったみたい」

「そうはいくかっての」


 オレはピエラとルイに、地上へ戻るように告げる。


「これはオレたちの問題だ。行ってくれ」

「でも、ボクだってスケロクたちの仇を討ちたいわ」

「地上が襲われている可能性がある」


 反論してきたピエラが、押し黙る。


 黒幕が逃げも隠れもせずに、ここへ現れた。おそらく、オレたちをここへ引き付けておく必要があるのかもしれない。敵の本陣に乗り込んできたのだから、こちらの防御を手薄にはデキなかろう。しかし可能性がゼロじゃない以上、誰かが地上を守らないと。


「わかった。行くぞピエラ。残存するスケルトンを結集させるんだ。地上の防衛にあたるぞ」


 ルイがムリヤリに、ピエラを引っ張っていく。


「死なないでよ、二人共! スケルトンに復活させるなんて、ゴメンなんだからね!」


 二人は、地上へと戻っていった。


「ワタシに殺させないために、二人を行かせたか。ムダなことを」


 鬼龍が、ため息をつく。見た目は死霊のようなのに、生や破壊への執着が視認できる。これまで、どのような人生を歩んできたのか。


「モモコよ。お前はワタシの見込んだ通りには育たなかった。失敗作は、壊して作り直さなければならない。我が孫よ、お前は龍洞院としてふさわしくない」

「そう。よかった。あんたたちみたいなクソの力を、受け継がなくて」


 モモコが、剣を構えた。


「貴様は、逃げないのか? モモコの亭主ヅラをしているようだが」

「亭主なんでね。悪いが三世帯で住むのはお断りさせていただく」

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