第28話 港町の難関ダンジョン『クジラの歯』  

 ダンジョンについては、冒険者ギルドで聞いたほうが早いとのこと。なので、そちらへ向かうことにする。


 ピエラの両親と別れ、港町ワントープのギルドに。


 掲示板に、禍々しい形をしたダンジョンの絵が貼られていた。


 砂浜にある崖にできた、地上三階建てのダンジョンだという。


「あった。Aランクダンジョン『クジラの歯』だってよ」


 ダンジョン『クジラの歯』は、発見されてから一〇年近く、誰も攻略したことがないそうだ。奥へ進むとまだ先がありそうだが、不思議なモヤがかかっている上に強いモンスターに阻まれていて進めないとか。

 進めた冒険者もいたが、誰も帰ってきていない。


「完全に、【世界の裏側】の構造と一致するな」

「行くモジャ、クニミツ。こんな現象はさっさと取り除くに限るモジャ」


 ウニボーも、危機感を覚えているようだ。


「でもさ、入れるの?」


 盛り上がっているところで、モモコからツッコミが入る。


「この洞窟って、Aランクでしょ? 私たちのランクなんて、どうがんばってもDとCの間くらいだよ」


 言われてみれば。


 この手のテンプレでいうと、低ランクの冒険者は高レベルのダンジョンに潜れない。危険すぎるからと、制限がかかるのだ。


 ギルドで、ダンジョンに入場制限があるか尋ねる。


 ワントープのギルドにいる受付は、男性のカモメ鳥人族だ。


「ランクはありますが、ダンジョン潜入に個々の強さの制限はありません。難易度が高いというだけですので」


 受付の男性が、教えてくれた。


 入り口の時点で危険と判断すれば制限をかけるが、そこまでではない。また、危険エリアには目印がついているそうだ。


「クジラの歯は、もうトップクラスの冒険者が何人も行方不明になっています。物見遊山で入ろうとする者たちもいません」


 不思議なことに「弱いと判断された冒険者」は、吐き出されるのだとか。進んだと思ったら出口だったという報告が後をたたないという。


「どうやら適正レベルを決めるのは、我々ではなくダンジョンの方なのです」


 冒険者が弱ければ吐き出され、強ければ更に奥へ進める。この世界のダンジョンは、そういう仕組みらしいのだ。


「なら大丈夫だな。潜るぜ」

「お気をつけて」


 オレたちは、『クジラの歯』の入口へ向かう。


 切り立った岩山は、たしかにクジラの歯と言えた。


 虫歯のように、砂浜の中にダンジョンの入口がある。


 入り口には、船に乗った行商人がいた。薬草やポーションなど、ダンジョン攻略に必要そうなアイテムを売っている。


「繁盛しているのか?」

「ああ。この中はいい装備がドロップするから」


 だとしたら、銃のアップグレードにもなるだろう。


「ヤバいモンスターが外に出たってことは?」

「だとしたら、夜だな」


 行商人が帰る時間帯に、強めの怪物が外に出没するそうだ。街に降りて、獲物を求めるのだろう。その前に、冒険者の手で仕留められてしまうが。


「あんたらも旅のお供にお一つどうだ?」


 携帯食料の「酢こんぶ」と「あたりめ」だけを買った。他は、手持ちのアイテムで間に合っている。「貝ヒモ」があったら、なおよかったが。


 入り口まで上へ続く階段を登り、地上三階からスタートする。


 ダンジョンといっても、構造は人工物っぽかった。建造から随分と経っているようで、苔むし、壁などは潮で腐敗している。


 コウモリや半魚人など、モンスターはそんなに怖くない。銃一発で倒れる者たちがほとんどである。


「数が多いな」

「逃げてるモジャ」


 モンスターたちの動きが騒がしかった。いったい、なにから逃げているというのか?


「あいつでは?」


 ルイが、開けた場所を指差した。


「見てクニミツ、『世界の裏側』の入り口!」


 広場の隅で紫色に光るポータルを、モモコが見つけ出す。


 だがそれを守っているのは、でかいウミガメだった。

 他のモンスターを食ってやがる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る