第32話 待人!?
「暗雲立ち篭る俺、まさに三日天下だなぁ」
「貴方何を言ってるの?まだ言い訳聞き終わってないんだけど?」
「いやこっちの話ね」
「???」
俺は完璧にセイ(たいっちゃん)と女王様のデートをサポートしたはずだ。間違いない、神に誓ってもいい。
確かに俺は女王様が遊園地から出たのを見た。勿論、たいっちゃんと一緒に歩いて出ていた。
そこまで見届けた後、俺は控え室に預けてある荷物と着替えの為に中央塔へ向かった。別にもう任務は達成していたので周囲を無駄に確認する必要もなく、完全に緊張を解いていた。
その時のテンションは
まさか、女王様が戻ってくるとは思わずに。
「で?なんで加賀美大晴じゃなくて清水憲明がいるの?あの男は今何処で道草を喰っているの?」
「そ、そいつは言えねぇな......俺もプロだ。依頼主を売るような真似は出来ねぇ」
「もう依頼主って言ってる時点で詰みと気づきなさいよ。まったく......」
「あっ......しまった!」
流石は歴戦闊歩の女王様。完璧な誘導尋問だ。これは俺でも抗えねえ......いやそれよりも!
「なんで戻ってきたんだ!?女王様はたいっ......セイっていう男と一緒に遊園地を出ていったんじゃないのか?」
「貴方の言う通り遊園地を出る前までは『今日は夕食まで』と彼には言っていたわ。だけど、出た後に訂正したの『今日はここまでで大丈夫よ』とね」
「な!?どういうことだ?俺は夕食を取るって聞いていたぞ?」
「ふふっ貴方って簡単ね本当に」
そう言うと女王様は突然笑い始めた。その笑みはまるで、麻姑掻痒というか、正に女王様というか、不気味だった。
「な、なんだよ」
「私は加賀美大晴に伝えた今日のデートの計画は遊園地まで、それ以上の計画について一切開示していないわ」
「っ!」
「そして貴方言ったわよね?『聞いた』と」
「つ........」
「ねぇ?貴方どうして私の計画を知っていたの?まるでデート中も誰かから情報を得ていたみたいに」
「い、いやそれは!たいっちゃんが時間的に夕食を取るって!」
「私とセイ君が別れた時間はだいたい5時半、ここから夕食を取るか否かは判断しにくいのではなくて?」
「それは感じ方の差じゃ......」
「それに......貴方は加賀美大晴『取る』と聞いていたのよね?断定ではなく目算なら『取るかもしれない』とか推量で答えるのが普通でしょう」
「っ!.......」
「もう一度聞くわ?貴方は誰からこの情報を得ていたの?」
「っ........」
まずい.......思っていた事態より
数段深く切り込んでくる。
確かにさっきの誘導尋問に対しては
やられたと思った。
だがこの程度で答える程
俺たちの友情は浅くはないぜ!
「................」
「そう.......シラを切るつもりなのね」
そう言うと女王様は何やらスマホを取り出し、何かを探し始めた。何を探しているのかはよくわからないが、その目線の移動がまるで名簿を見ているかのように上下に動いていた。
「ええと......清水憲明17歳、血液型はAB型で、身長は173.2cm、体重は推定63kg、趣味は動画鑑賞とドルオタ活動、筋トレ。最近、推しのVtuberがVRライブを開催すると聞いてチケット競走に参加するが撃沈。あとは.......」
「ストップ!!!ストォオオッッップ!!」
「何かしら?別に気に触るような事はしてないと思うけれど」
「お前その情報どっから手に入れてきた!?俺がドルオタなのはたいっちゃんしか知らねぇはずだぞ?それに俺が戦争負けたの何で知ってんだ!?」
「私には無限に情報を提供してくれる便利な
「それって結構コンプラ的に「分かったら今すぐ黙りなさい」......あっやっぱこれツッコんじゃいけないやつね。なるほど」
こういうのは深く掘り下げちゃいけねぇんだ。
広辞苑で教わったよな?
「ゴホン!.......貴方が情報を貰える人物はある程度、親密度が高い人間なことは確定しています。そして貴方の人間関係上それが可能なのは加賀美大晴ただ一人」
「........それは......まぁ」
「そして私が満足に情報を知り得ていないのは加賀美大晴と......
「........うっ..........」
そう言って女王様は何やら深く考え込んでいる。
やばい......だいたいピース揃ってるから、あと少しで辿り着いちまう!
たいっちゃん!俺今回やらかしたかもしれん
今度、謝りに行くから許してくれ......
と思ったけどこれ違くないか?
そもそもたいっちゃんが俺次第の作戦を吹っ掛けるから悪いのでは?
別に俺今日一日サボってたわけじゃないぞ?
「まさかセイ君は..........」
「あ........えっとそのぉ.......」
「さーせんで「はっくしょん!!!!」した......え?」
「あの......ちょっと名誉のために最初聞かないでおいたんだが......」
「な、なにか?.......はっくしょん!!!」
「何でそんな薄着なんだ?夏真っ盛りみたいな恰好ですけど?」
女王様の服装は半袖のT-シャツに何とも言えないスカート。お土産屋で買える一式セットみたいな、冒険者の初期装備みたいな恰好だった。
「し、仕方ないでしょ!!!私服ダメにしちゃったんだから!!!」
「あ、はい.......それはご愁傷さまってことで」
「だいたいなんであんなに足元に障害物が多いのよ!暗闇の中じゃ誰だって転ぶわよ!!間違いなくあれセットした人間はロクな性格じゃないわ!!」
「........ソウダナ」
それっぽい状況作るために、道中に障害物置きまくったの俺だとか言えねぇ......
「じゃあ早く帰った方がいいと思うんすけど、その恰好で歩いてたら風邪ひきますよ?」
「問題ないわよ!!この程度の寒さでやられているようじゃ.......はっくしょん!......九条家の娘として恥ずかしいですから」
「あ......フラグ.......」
「何か言ったかしら?」
「あ.......理不尽ってこういうことね」
「減らず口を叩ける元気がまだあったなんて......」
「俺、元気が取り柄なんで」
「はあ........もういいわ」
かくしてノリィは危機を乗り越えた.....のか?
総じて、九条架純とのデートが終わりを告げる。
九条架純は今後の状況を左右する
大きな一歩を踏み出した。
その一歩が吉と出るか凶と出るかは
彼女の選択次第。
その努力家な精神を良い方向へ
導いてほしいものだ。
「はっくしょん!!やっぱり病院行こうかしら.......明日までに治っているといいけど」
そして場面が移り変わり.......
「お母さん、花粉症の薬がもうないみたいです」
「あら.......それは大変ね!急いでもらいに行かなくちゃ。愛梨明日空いてる?」
「私は、大丈夫ですけど」
夕食を食べ終わり、夕食分の飲み薬を飲もうとした私は薬が切れていることに気がついた。私は年中花粉症で苦しめられる質なので、薬が切れると大変なことになる。出来れば明日にでも薬を貰いに行きたい。
「えっと......取りあえずいつもの病院を予約してって......え!?」
「どうしたのお母さん?」
いきなり大きな声を上げたお母さんは私の方を振り向くとその手に持つスマホの画面をこれでもかと見せてきた。
うん近い。近いよ?お母さん。
「ほらほら『明日、休業日です。ご迷惑おかけしますが今後も○○病院を宜しくお願い致します』だって!」
「ってことは.......明日いつもの病院やってないってこと?」
この病院が休みだなんてかなり珍しい。この病院は謎に調子が優れたお医者さんが多数在籍しているので定休日が少なく予定が組みやすくていつも重宝している。
「そうなのよ......でも今の時間予約受け付けてる病院なんてないし.......」
そう言ってお母さんは再度スマホで調べ始める。最近ネット検索にハマっていてテレビとかで知らない単語が出ると水を得た魚のように調べ始めるのでお父さんがため息をついて呆れていたのを思い出す。
「あっ!あったわ!神村医院さんだって!!!」
その画面に映るのは質素な見た目の病院。
場所は市外にあるので少し遠出になるかもしれない。
まぁ駅から行けば徒歩何分の距離らしいので全然許容範囲だ。
明日すぐにでも行って薬を貰いたい。
「神村医院.......分かった.....明日行ってみるね」
「はい!じゃあお金渡しとくわね~」
「ありがと、お母さん」
長かった土曜日が終わり、日曜日がやってくる。
この時の彼女たちはまだ想像もしていなかった。
この日曜日が彼女たちの運命を
大きく左右するものだったことに
今までの関係のままではいられない
決定的な一手を指されてしまうことに
そして今まで積み重ねてきた『違和感』の正体に
「あっそうだ明日『神村医院』で定期健診じゃん。バイト前にパパッといくか」
運命の
<あとがき>
次回、第一章最終話。
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