第一章 4.まずは情報収集

 大雑把に放置してきた娘が、ある日を境に喋りだした。


 だからといって、商売に忙しい家族が、突然末娘を構い始めることもなく。

 やっぱり放っておかれたアリスは、これ幸いと、情報収集に勤しんだ。


 アリスの家があるのは、「お屋敷町」と呼ばれる、少々お澄ましな住宅地の端っこ。しかしそこから三ブロックも離れると、かなり砕けた地区になる。

 裏手にある井戸端には、常日頃から喋り足りない女たちが集っている。

 まずは、そこに行ってみた。


 おままごとの延長のような顔をして、働く女の輪に頭を突っ込んで作業を眺めていると、「暇ならあんたも手伝いな」といって、野菜を渡される。

 嬉々として輪に加わり、アリスは女たちの話に耳を傾けた。


「去年の大雪が嘘みたいに、今年は平和だねぇ」

 宿屋の女将がいえば、

「平和が一番さ」

 じゃぶじゃぶ青菜を洗いながら、ハンナがいった。

「戦になったら、呑気に井戸端でお喋りなんてできない」


「ほんとだよ」

 バケツに水を汲みながら、ジーナが同意する。

「ロルムの侵攻で自分の娘時代が台無しだって、祖母ちゃんから何度聞かされたことか。平和ないまでよかったよ」


「いまは、隣の国は攻めてこないの?」

 無邪気にアリスがたずねると、

「できないのさ」

 ジーナがにんまり。

「この国には、〈ローズアリアの聖剣〉がいるからね」

「聖剣……?」

「王様の弟君のフィルオード様だよ。王国魔術師団の団長で、他の誰にも真似できない術が使えて、とってもお強いんだ」

「聖剣様はね、五年前に北のマルダンがうちの友好国のブレアに攻め込んだとき、単独で乗り込んでいってブレアに加勢して、お一人で敵を全部追っ払っちまったんだよ」


 全部というのは流石に盛っているだろうが、それでも。


「たった一人で?」

「そうさ。一騎当千どころか、お一人で何万人もの相手ができるんだ」

 凄いだろう、とジーナが我が事のように胸を張る。

「おかげでロルムの将軍がビビって、ロザリアにちょっかいを掛けてこなくなったんだよ」


 ブレアを救うついでに己の力を誇示して、ロルムも退ける。成程、一石二鳥の賢いやり方だ。


「だからいまロザリア王国は、近隣諸国の中で、一番安全な国といわれているのさ」

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