第25話 勉強会
「いやー、楽しみだねー」
「ああ。放課後が待ち遠しい」
蒼と大翔がいつにも増してテンションが高い。朝からこの調子だ。事あるごとに放課後の勉強会について話し始めるので、もう聞き飽きた。お前ら、勉強する気あるのか?
白雪から約束を取り付けてきたわけであるが、七海も承諾してくれて今日の放課後、勉強会をすることになっている。
報告した時の二人の喜びようは、それはもう凄まじかった。今にも踊り始めそうなほど。正直、友達を辞めるか一瞬悩んだ。
それだけ喜んだ二人なので、今日テンションが上がるのは仕方ない。仕方ないのだが……。
「えへへ、蓮、ありがとね」
「……しっかりアピールするんだぞ」
頑張って、いい機会を作ってあげたのだ。是非とも上手くいって欲しいところ。
「なあなあ、蓮。白雪さんが目の前に来るんだぞ。夢みたいだな」
「大翔は自重しろよ」
「ああ、もちろん。しっかり目に焼き付けるだけだとも」
「それは自重してるのか?」
真面目な顔で呟いても騙されません。大翔は白雪が関わると熱くなるので、なんとか抑えて欲しいところ。
いつになく絡んでくる二人に思わず肩を落とした。
♦︎♦︎♦︎
二人からすると待ちに待った放課後がやってきた。
図書館には大人数で囲める大きめの机が用意されている。その場所がちょうど良いということで、そこでやることになった。
俺たち3人が集まってるところに七海と白雪がやってくる。七海は相変わらずにこにこしながら手を振る。
「久しぶりー、一緒に勉強頑張ろうねー」
「は、華さん。きょ、今日はよろしくね」
「うん、蒼くん。よろしく」
以前は苗字で呼んでいたはず。さりげない名前呼び。いい感じに進んでいるらしい。噛みすぎだけど。
二人の呼び方が変わっていることに、白雪は僅かに眉を寄せる。
「ほら、早く始めますよ。今日は勉強をするんですから」
円形のテーブルに勉強道具を並べ始める。相変わらず真面目な奴め。
白雪の右隣に七海、その隣に蒼が座る。大翔は白雪の隣に座るかと思ったが、意外にも蒼の隣に座った。
白雪に聞こえないように大翔にこっそり囁く。
「いいのか? 白雪の隣じゃなくて」
「隣に座ったら盗み見しづらくなるではないか」
盗み見するのは前提なのかよ。本気で観察に徹するらしい。
「それに、隣の席はフラグが立っている者に譲るのがマナーというものよ」
くいっとメガネを持ちかける大翔。ちょっと、大翔さん。どこの国のマナーなんですかね?
なにやら期待をする視線向けてくるが、なにも起こす予定はない。勉強するだけだ。あえて大翔の視線は無視して、勉強道具をリュックから取り出す。
ノートを机に並べていると、ふわりと華やかな香りが左隣から鼻腔をくすぐった。
そっと横を見ると、白雪の横顔が見える。長いまつ毛。瑞々しい唇。意外と近い。
「……なんですか? はっ、まさか」
何かに気付いた表情。はいはい、いつものですね。
「違うぞ? 惚れてもないし、見惚れてもないからな?」
「……まだ何も言ってませんけど」
ちょっとだけ唇を尖らせる白雪。眉が僅かに寄る。
「何回振られたと思ってるんだ。流石に慣れたよ」
「私のおかげですね」
「なにが?」
ちょっと、白雪さん。得意そうに胸を張らないでください。意味が分かりませんよ?
ジト目で見つめるが、白雪は知らんぷり。「さて、勉強始めましょうか」と勝手にテスト勉強を始めた。自由でなによりです。
周りを見回すと、蒼と七海は仲良さそうに教え合っている。大翔は白雪をガン見中だ。慎みはどこにいった?
大翔は俺と白雪の会話を聞いていたようで、にやりと笑みを浮かべている。ふと、白雪が顔を上げた。
「成瀬さん、分からなかったらいつでも聞いてください。遠慮しなくて大丈夫ですから」
「え、わ、分かりました」
急に声をかけられて、大翔は大焦り中。なかなか良いファンサービスじゃないか。
内心でうんうん頷いていると、白雪がちらっとだけ上目遣いにこっちを見る。控えめな声が白雪の口から出た。
「……黒瀬さんも、困ったら聞いていいですよ?」
「え、いや、大丈夫」
ライバルから手解きを受けるなんて、俺のプライドが許さない。首を振れば、ぽすりと軽く殴られた。解せぬ。
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