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その後、ミオ先輩は真面目に授業を受けているのかと思いきや。グラウンドから先輩が思い切り蹴り上げた、ジュリエットへの愛を込めたボールとやらが飛んで来て、それは見事オレの頭部へと直撃した。
あんな風に急に飛び込んで来た物を易々と受け止められる人間なんて滅多にいるものか、と。いや、それ以前に先輩はサッカーのルールを知っているのだろうか、と。
そんなことを考えながら頭に受けた衝撃によって机にうつ伏せになっていると、前の席のアッキーが飛び込んで来たサッカーボールを窓からグラウンドへと投げ返した。そして、くるりとオレの方を振り向いて、
「ジュリ、大丈夫かー?」
「ううん、大丈夫じゃない……」
オレの虫の息の呟きをアッキーは聞き取ってくれたのか。タンコブのできたところをなでながら、「痛いの、痛いの、飛んでいけー」と気休めとばかりのおまじないをかけてくれた。
「もう嫌だ……。オレは普通の生活を送りたいだけなんだっ……!」
どうにか頭を上げると、オレは机に拳を叩きつける。
そうだ。あの変態先輩につきまとわれていたせいで、すっかり忘れていたけど。オレは適当に生きて、適当に死にたいんだ。他にはなにも望まない。ただ、それだけなんだ。
それなのに世の中は、なんて理不尽なんだろう。
アッキーは、そうだなあ、と能天気な声を出した。
「先輩は、今はロミオを演じてる訳だろう。だからジュリエット役であるジュリに付きまとってる。ということは、公演さえ終わってジュリエット役から解放されれば、ジュリが振り回されることもなくなるんじゃないかなあ」
「え……。それって本当!?」
「うん。先輩は、極度の演劇体質だから。次の役が決まれば、今度はその役になりきるよ」
ちらりと顔を上げると、アッキーは真顔でうなずいていた。
本当かは分からないけど、今はアッキーの言葉を信じるしかない。いや、信じないと、希望がないと、やっていけないんだよっ……!
キーンコーンと終礼を告げるチャイムが鳴り響く中。もうすぐやって来るだろう次の先輩の襲来に備え、オレは悲しくも自然と身構えていた。
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