第394話 吸い吸い
ここまで堂々と侵入できることがあるだろうか?正面入り口から堂々と中に入り、巡回中の兵士たちに挨拶を交わし、まるで友人と接するかのように兵士たちと話しながら道案内をしてもらう。
え?
今まで私が不可視化の魔法使ってたのなんだったの?ネルネさえいれば侵入できない場所なんてないというくらいに私何もしてないんだけど?
「どうしたんですか?」
「いや……ナンデモ?」
解せぬ。
「こっから先は立ち入り禁止区域らしいけど、どうする?」
「行くっしょ?」
「行きますか」
兵士たちは流石に入れないとのことなので持ち場に帰ってもらいました。目の前に階段が見えて、その先は明かりがなく暗かった。
魔法で明かりをつけてから階段を上る。
「うわぁ、誰もいないじゃん」
「今日は将軍様ずっと別邸にいるそうです」
直接将軍を目にすることはできなかったが、
「結構資料落ちまくってるね」
明らかにこの国を収めている将軍は整理整頓が苦手だ。流石に廊下にまで資料が広がっていることはないけど、廊下の横に固まって資料の山ができている。
「しかも、地味に魔法でトラップ仕掛けてるし」
「ひぇ!?」
触ろうとしていたネルネがその手をすぐさま引いた。
「『解除』っと」
ただし、私にとってはなんの弊害にもならないのが残念なところ。
「よっしゃ、全部持って帰るよ」
「ええ?こんなに持てないよ」
「大丈夫、こんな時の異納庫!」
空間からブラックホールのようなものが生まれ、その中にトラップを解除した資料全てを詰めていく。
「イッヒッヒ……いちいちなんの資料か確認するのは面倒くさいからねぇ?」
こんだけがさつな将軍なんだから全部無くなっても気づかないっしょ←絶対気づく。
「見える範囲にあるもの全部持ってこーい!」
たくさんある資料がどんどん私の収納に放り込まれていく。そして、まるで掃除をしているかのような達成感を感じた。
「めちゃくちゃ綺麗になったね」
「やっぱり広いですね」
「よし、そろそろ撤収しようか」
「はい!」
そして、また階段を降りていく。こんなに簡単に情報収集ができたことが今まであっただるか?私が侵入してスパイしていたらほぼ確実にバレてたというのに……。
「まだまだ日が落ちるまで時間があるな……」
この分だとミサリーにバレることなく帰宅できる。
「よし、急ごうか」
♦️
「じゃあ、お仕事頑張ってねぇ!」
「もちろん!泊まってってもいいんだよ?」
「うーん、それはまた今度にしようかな!」
そうして、私はユーリを連れて転移する。
そういえば、ずっとユーリいたんだった。結局あんた何もしてないじゃん!
とか言ったら怒られそうなのでやめておこう。
転移した先には寝ている自分の姿が見えた。
「あぁ……よかった。なんとかなったかな」
分身体を消して、私の視界が切り替わる。ベッドに横たわる私の視界には、消えた文体からポトンと落ちるユーリの姿と、
「ア……」
「お嬢様?」
額の青筋がうっすらと見えるミサリーが立っていた。
「今、お嬢様が二人いたように見えたんですけど?」
「き、キノセイダヨー」
「気のせい……ですか?」
「ちょ、ゆっくり近づかないで!」
やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい!
どうしようどうしようと考えた結果、咄嗟にユーリを拾ってミサリーに押し付ける。
「ほら!これでも吸って落ち着いて!」
「っん!?」
大丈夫、私は知っている。ミサリーも小動物が大好きであるということを!その間に私は言い訳を考えておこう。
「あぁ〜ユーリちゃんかわゆす!」
ミサリー、ご乱心。そうしている間にユーリが目覚めた。
「ふにゃ?なになになに?」
「あ、もう少し犠牲になってて」
「え?え?」
ユーリには最後の最後で役に立ってもらおう。
「って、ちがーう!お嬢様、ごまかさないでください!」
ご乱心中だったミサリーが己を取り戻し、私に問いただしてくる。
「お嬢様、あれって分身体でしたよね!一体何してたんですか?まだ動かせないというのに無駄に魔力を使わないでください!」
「い、いや違う違う!誤解だから!」
「じゃあ、なんだっていうんですか!」
「それはぁ……えっとね……そう!ユーリに訓練してもらってたの!」
「訓練?」
どうにか話を逸らそうとする私に、「そんなことしてないよ?」というように首を傾げるユーリ。
やめろ!話を合わせてくれ!
その必死の訴えが伝わってか、ユーリも今度は縦に頷いてくる。
「あの〜ほら、機能回復訓練だよ!早く治したいからさ」
「はあ……そうですか、そういうことならわかりました」
心なしか青筋がなくなった気がした。
「ただ、私にも一声かけてからしてくださいね?心配で心配でしょうがないんですから、私」
「ごめんごめん、明日も訓練したいんだけど……いいかな?」
「わかりました、ただ長時間はダメですよ?」
「はーい」
そう言って、ミサリーは部屋を出て行った。
「はぁ……あぶねー」
「ご主人様……なんかすごい吸われたんだけど……」
「いいじゃない、愛されてて」
「まあそうだけど」
ユーリは確かにいい匂いしそうだしなぁ〜。
「うわっ!?」
「うーん、いい匂い」
「ご主人様!?」
キツネの体を持ち上げてお腹を顔にくっつける。
(一度やってみたかったんだよね!)
「幸せ〜」
「もう!」
文句を言いながらも、ユーリは大人しく十分私に吸われ続けるのだった。
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