第393話 ネルネの能力
「吸血鬼、七大罪の一人『憤怒』……そういえばそんなのもいたわね……」
「そんなのだと?」
「ゴメンナサイ」
「分かればいいさ」
入った来た女の人は確かに私の知っている人だった。だけど、そこ二人何で一緒にいるのよ!
「あと、私名前を付けたんだ」
「名前?」
「そう、憤怒って名前は不便だろ?だから自分でつけた。今日からラグと呼べ」
名前を教えてもらい、私も土下座の体勢から切り替えることを許される。
「わかったけど……なんでラグもここにいるの?」
「あ?そこのお子ちゃまについてきただけだけど?」
「お、お子ちゃまじゃないですぅー!」
案外ラグって優しいのかな……要は心配でついてきたんでしょ?
「悪くないコンビかも」
「なんか言ったか?」
「とりあえず、話は聞けたから今日のところはお暇させてもらうよ」
「なんだ?なんか話してたのか?」
ことの経緯を簡単にラグに話す。
「なるほどな。それなら、そこにいるネルネの能力が役に立つんじゃないか?」
「ネルネの能力?」
ネルネの方を見ると恥ずかしそうに頭をかいている。
「私のお母さんから受け継いだ能力らしくて、ラグ姐が見つけてくれたんです」
ラグ姐……何その呼び方羨ましい。
「その能力が役に立つと?」
「立つかもです!」
「じゃあ、ネルネも一緒に行くかお城に」
「はい!」
♦️
ラグは店員が一人抜けた穴埋めで大忙しになっていると思うが、私はネルネと二人で悠々街を歩いていく。あ、もちろんユーリは首元で寝ている。
つまらない話で飽きちゃったのだろう。
でもまあフサフサな毛に覆われている私は幸せなんですけどね……。今でこそ落ち着いたけど、私は獣人が大好きなのだ!
もう見ているだけで幸せって感じ。なんであんなに可愛いのだろうか?女性獣人の可愛さ&色気はもの凄いし、男性獣人はゴツい人が多いのにも関わらず耳と尻尾がポツンとついていてギャップ萌えだよね。
「……なんだかすごい顔にやけてるけど……」
「な、なんでもないわ!」
いけないいけない、ニヤニヤしながら歩くて引かれてしまう。ユーリとレオ君に囲まれて生活したから少しは慣れてきたはずなんだけどね。
「このでかい城に役人も住んでるの?」
「さあ、知らないです。けど将軍様はこのお城の近くの別邸に住んでいますよ」
お城が建設された近くに別邸があるらしく、将軍はそこに住んでいるらしいが、そうなってくると役人たちはまた違う場所なんだろうな。
「ひとまず入り口は見えてきたけど……」
まあまあ高い塀で城が囲まれており、その目の前には門番と思われる兵士が二人立っていた。
「今こそ私の能力の出番です!」
「行っちゃって!」
何するか知らんけど。
意気揚々と門番の方へと歩いていくネルネ。大丈夫かな?殴られたりしないかな?
もしネルネを殴るような不届き者だったら逆に私が殴り飛ばすけど。分身体でも門番一人殴り○ろすくらい容易なのだ!
ネルネの存在に気づいた門番二人が槍を地面に突き音を鳴らして威嚇する。
「ここより先は将軍様の膝下なり、なんぴとも通らせん」
一人が代表してそんなことを言ったが、ネルネはその問いに優しく答える。
“お二人とも、疲れたでしょう?少し休んだらどうですか?”
その声が私の耳に入った時、少しだけどっと疲れが増した気がする。それを至近距離で聞いていた二人は、目が虚になった。
「あ……あぁ、確かに疲れたな。少し休もう」
“私たち、将軍様に用があるんです。入ってもいいですよね?”
「ああ、構わない。通ってくれ」
そう言って門を開けてくれる門番。私は驚きながらもネルネについて行って中に入った。
「すごい!どうやったの?」
「これは私の母、七大罪の『怠惰』が持つ能力の一つだそうです。私の母はこれを駆使して『戦わずして勝つ』がモットーの人だったらしいですよ」
「へー、ネルネの母ってすごい人だったんだね」
「はい……私が旅に出た理由は母が原因だったんですけど……もうほとんど割り切ってます。それに、便利な能力が遺伝してくれてたまに助かったりしますしね!」
旅に出た原因って母親だったのか。
あんまり触れてほしいところではなかったろうに……
「ネルネ、実は私にもねすごい母親がいたのよ」
「すごい母親?」
「私の家族には母様が二人いるの」
「ええ!?どういうことなんですか!?」
「私を産んでくれた母はね、誰も勝てないような……最強の聖騎士だったの」
なんとなく、気づいたら話していた。
「それはすごいですね、だから娘もそんなに強く……」
「私を育ててくれた母様はね……」
私が殺したヘレナ母様。現実に向き合いたくなかったけど、もうそろそろ私も腹を括らないとね。
「育ての母様は、誰よりも優しい母様だったよ」
「……いい人だったんですね」
「ええ、最後まで私の心配をしてくれた……私の自慢の母様なの」
話し込んでいると、お城の内部に入るための入り口まで到達する。
「さっ、早く行きましょ」
「はい」
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