第392話 宿屋アンケート
「ネルネ!急にいなくなったと思ったらこんなところにいたの!?」
吸血鬼の国、そのお城でなんやかんややっている間にいつの間にかネルネがいなくなっていた……経営していた明星宿からもいなくなっていて、一体どうしたんだと思っていたけど。
「お久しぶりですぅ!」
「うわ、ちょっとくっつかないでよみんな見てるから……」
感動の再会っていうのはいいんだけど、それは少なくとも酒場でやることじゃないと思うのは私だけだろうか?
「店長、ちょっと借りていいですか?」
と、横にいるバーテンダーに話しかける。
「あ、この人店長だったの?」
「そうなんですよ、雰囲気ないでしょ!」
「お前ら本人の前で言うかそれ?まあいい、一部屋開けてやる」
「ありがとうございます!」
そうして、私は奥の部屋に誘拐されていく。
「横にいるのは……」
「ユーリだよ」
「そうですよね。ささ、こちらへどうぞ」
用意された部屋の中で私は押し込まれるように座らされ、手に持っていたお酒をテーブルに置く。
「改めてお久しぶりです、ベアちゃん」
「久しぶりだねー、どう?元気にやってる?」
「元気ですよー、いい人ばかりですし……家畜もたくさんいるので『ご飯』にも困りません!」
「あ、あはは……」
苦笑いするしかないわ。
「今はここの宿で店員やってんだ」
「はい、こっちに移住した時に私ができることと言ったら宿仕事しかなかったので」
まあ、生き生きしているっぽいのでよかった。
「それにしても、そっちこそどうしてこんなところに来たの?」
「私?」
「旅でもしてるの?」
「ああいや、そういうわけじゃないけど……」
ちょっくら国を救うために奔走していますとか言っても信じてもらえないだろうなぁ……。
それがなくてもついこの間まで死んでたとか言っても、そっちの方が信じてもらえなさそう。なんなら、女神名乗ってるやつにも直接会ったし。
あの女神の顔面白かったなぁ、本気で私のこと殺そうとしてる顔だった。まあ、喧嘩売ったのはまずかったかもだけど……。
《かなり不味いです》
えー、でもいいじゃんムカついたし。
《不本意ながらこの世界はあの糞女神の管理下にあります。よって、これから送り込まれた天使の刺客などが現れる可能性があります》
え、マジ?っていうか、ツムちゃん女神に当たりつよ……。
天使ってもっと優しいもんじゃないの?ミハエルも天使っぽい見た目になってたけど、襲ってくるわけじゃないし……
《天使も十人十色、女神に従う愚かな天使も居れば、前任の神に忠誠を誓い続ける天使もいます》
へー。
「んー、まあ吸血鬼の国でやってたことと一緒かな」
「ってことは?」
「政治状況が良くないって話を聞いたからちょっくら改善しようかなって」
「やっぱり壮大なことしようとしてたんだね……」
「何それ、やっぱりって」
心外な。
「じゃあ、私にも何かできることが?」
目を輝かせるネルネ。
「なんか噂とかなかったりしない?幕府の政治に関しての噂ならなんでも歓迎だよ」
「噂?」
うーむ、と考え込むと思いついたように顔を上げた。
「色々噂はありますけど、一番大きいのはやっぱり課税ですかね」
「課税?」
「この国、税があり得ないほど重いんですよね。で、私が勝手ながら国の予算の方を計算してみたんですけど、家臣の給料含めて全然余裕で足りる量でした」
「つまり、無駄な税金と?」
「なのにも関わらず反乱軍が暴れているのに、基本放置というのが、かなり民衆の間で意見が分かれているところですね」
幕府軍と戦っているところを見たことはあるけど、今思えば確かに不自然ではある。反乱軍が舐め腐って数百人単位でしか行動してなかったのはまだ分かる。
ど田舎に戦闘のプロがいるわけないと思うだろうからね。本気で反乱軍を止めたいと思うなら同数の数ではなく倍の数を寄越すはずだ。
「民衆の安全は都の民さえ守れていれば、外交官がきても平気だし、田舎にお金をかける必要はない……反乱軍が暴れようと都に入ってこない限り幕府はそこまでの被害を受けないからこそ、見立て状だけの幕府軍だけを派遣して印象を上げようとしているんだと私は思います」
「なるほど……いいことを聞けたけど、あくまでも憶測を出ないって感じだね」
結局は噂に過ぎない、確たる証拠的なのはなさそう。
「こりゃあ幕府に乗り込むしかないよねぇ?」
「いいんじゃないですか?正直言って幕府の人たち全然強くないですし」
「あ、ネルネがそれ言っちゃう?」
「私、戦闘は得意じゃないか弱い吸血鬼ですけど、そんな私でも勝てそうな感じでした!」
「へー」
残ったお酒をガブっと飲み干してから、私は立ち上がる。
「今日中に侵入できそうだったらやってみるよ。情報ありがとうね」
そう言って、部屋を出ようとしたが、
「あ、待って!」
「どうしたの?」
「ベアちゃんに会ってほしい人がいるの!」
「会ってほしい人?……まさか!?恋人?」
「違う!」
「いてっ!」
ネルネにベシベシと叩かれる。会ってほしい人って聞かれたらなんとなくそう思っちゃったんだって!
「誰なの?」
「よく知ってる人だよ」
「え?」
「あ、ちょうど来たみたいです!」
その声とともに、ドアが開き女の人が入ってきた。
「ちわーっす」
「あー!」
「あ、珍しいやつがいるな。久しぶり」
「あんた……誰だっけ?」
「「はっ?」」
……その後、かなり強めにお叱りを受けました。
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