第313話 手合わせ(ナナ視点)
ステータス
異世界人と一部の者が知る個人の実力の詳細。このステータスというものを見るだけで、相手がどれほどの強さなのか、そして自分が魔術師に向いているのか剣士に向いているのかなどがわかる。
そして、このステータスの伸び率はほぼ一定。『レベル』を上げてもほとんど伸びずに他人と差をつけずらい。
そう思われがちだ。
だが、ステータスの高さがそこまで重要じゃないわけがない。敵を倒すと入ってくる経験値……これを多く手に入れることでレベルが上がる。
だが、これ以外にもレベルを上げる手段はあるのだ。しかも、魔物を倒すよりも効率的な。
それが、『経験』である。強敵と戦っていく最中、成長していく漫画の主人公などよくあるやつだ。
この世界にもその設定は反映されていた。どういうことかといえば、強敵と戦うだけでステータスが勝手に上がるのだ。
もちろんレベルが上がるわけではない。だが、これによってレベル10がレベル100より強いということも起こりうるのだ。
そして、初期ステータスが高ければ高いほど伸び率も高い。レベル1の状態で、強敵と戦いを繰り返し、初期ステータスが頭おかしいほどに上昇していれば、1レベル上がるごとに手に入る力もより増える。
ベアトリス先生がいい例だろう。
ミサリーと言う専属メイドの女性から話を聞いてみれば、三歳で体を鍛え始めて、誘拐やら暗殺事件やらを乗り越えてきたと言うではないか。
十分すぎる危機に瀕してきたわけだ。あ、ちなみに体を鍛えてもステータスには反映されないが、肉体がステータスよりも丈夫になったり、魔力が多かったりする。
異世界人である我々からすれば、子供の頃から魔力を空にしてから全快すると、魔力が大幅に伸び、将来無双する……なんて小説は珍しくない。
だが、実際にそれをやってのけたベアトリス先生が異常なのは間違いない。
そんなベアトリス先生を護衛する役割を担っていたメイド、ミサリーも相当な実力者だろう。
「と言うわけで、お相手する許可が下ったので早速始めてしまいましょうか」
「その前にステータスを見せていただいてもいいですか?」
もちろん、と答えるミサリー。
解析鑑定ができるリョウヘイくんに見てもらった結果は……
「ステータス10000か……」
それはあまりにも高すぎる数値だった。
上位ランクのステータスを数値化すると、
Aランク5000〜10000
Sランク10000〜
という感じ。下の方のステータスは今はどうでもいいか。
一般人のステータスなんて100もない程度なのに、これを見ると頭がおかしくなりそうだ。訓練を始める前のステータスは300ほど。これでも十分すごいことなのだが、やはり道は遠かった。
だが、今は違う。
レオ先生やユーリ先生のスパルタ特訓をしたことにより、ステータスは大きく上昇しもうすぐ5000に届きそうになっていた。
訓練の内容はというと、ユーリ先生が召喚魔法で召喚した龍を相手取るというもの。死にそうになりながら耐えた結果がこれだ。
訓練前は完璧な連携をしながら、効率よく攻撃ができるようになって初めてAランク下位を相手に戦える程度だったのが、今では全員個人でAランク近い強さを手に入れている。
かなり成長した。
が、それでもSランクの道は遠い。10000のステータスは次元が違うのだ。
「初手はもらいますね」
そういうと、ミサリーは目の前から消える。が、目で追い切ることができる。
「みんな、いくよ!」
初手でミサりーが狙ってきたのは私。レイピアを抜くと同時にミサりーの拳が当たる。それは衝撃波となって私に襲いかかってくるが、それをいなす技は訓練中に会得済みである。
「ほう?」
感心したような声をあげるミサリー。その後ろからヤンキーの攻撃がやってくる。
相変わらずこのメンバーの中で一番ステータスが高いのが彼。
そんな彼から繰り出される攻撃はかなり素早い。
それでもミサリーには届かず、背後からの攻撃は避けられてしまった。だが、そんなに簡単そうに避けてられるのも今のうちだ。
「左!」
リョウヘイくんは司令塔として、機能している。ミサリーさんは戦っている最中にも最善手を考える頭脳派だったのが功を奏し、次の行動が読めたようだ。
それに従って、左に向かってレイピアを突き出すと、ミサリーは一瞬体が硬直したようだが、すぐに体勢を立て直す。
「させるか!」
足払いによって、高く飛び上がることを強要されるが、それでも表情に焦りの色は見えない。
「クラさん!」
「『炎嵐ファイアーストーム』」
呪文の詠唱が終わると同時に風魔法と火魔法を混ぜ合わせた混合魔法が放たれる。かなりレベルの高い技だが、効いてくれるか?
炎の渦の中に包まれたミサリーだったが、中から強い風圧によってファイアーストームは消え去ってしまった。
「魔法が使えるのはこちらも同じです!」
かなり厄介な相手なのは間違いない。近接戦闘では二人係で五分五分。魔法も使える。やはり、決め手となるのはリョウヘイくんのスキルだろう。
「だったら、そのスキルを共有するまでよ!お願いクラさん!」
「『共鳴レゾナンス』」
その言葉とともに、私たち全員の耳にミサリーの発する心の声が聞こえてくる。クラさんのスキルは自由にスキルを付与できる。
とても強力なものだ。これによって形勢は変わりだす。
「どういうこと?」
攻撃をしても、まるで知っていたかのように避けられることに疑問を抱いたのだろう。しかし、それを知る術は彼女にはない。
「終わりよ!」
レイピアを突き出すと、それに合わせたように後ろへと下がるミサリー。だが、私の攻撃はそれで終わりではない。
持ち方を変えて少し指で弾いてあげれば、レイピアはかなりのスピードで飛来する。
「わ!?」
それをギリギリで回避するミサリー。さすがとしかいえない。
「もう一丁だ!」
空中に飛んでいくはずのレイピアをキャッチし、ヤンキーがそれをまた投げつける。それと同時に、リョウヘイくんは片手剣を投げると『加速ヘイスト』が付与され更に投擲速度が上がる。
「『火球ファイアーボール』」
その反対側からはクラさんの火球が飛んでくる。
これは避けようがないと感じたのか、全て迎え撃つ構えをとるミサリー。
(ここからがラストスパート!)
と思っていたところに、
「そこまで!」
レイピアと片手剣が何かに弾かれ、火球は風に吹かれたかの如く消え去った。みればそこにはミサリーの主人、ベアトリス先生が立っていた。
「そろそろご飯にしましょうか」
これは、私たちの勝ち……なのか?
そう思うと内心飛び跳ねている私なのだった。
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