第273話 新たな出会い
↓ユーリ視点↓
「むむむ……むむむむむ……」
近頃、ボクの居場所がなくなってきている気がする!
「大問題だ……どうにかしないと!」
「なにがだい?」
「なんでもない!」
そう、このラウルというやつである。
ラウルという人物に心当たりなんて全くないが、それもそのはず。会ったことはなく、ベアトリスの婚約者という話だった。
「婚約者なんてけしからん!」
「そういわれてもね。一応僕らは結婚できる年齢なんだよ」
「ボクもだよ!」
「まあまあ、落ち着いてよ。家族なんだから」
そういうと、撫でようと手を伸ばしてくる。
(僕を撫でていいのは、ご主人様!……と、ついでにレオだけだぞ!)
ボンッと音を立てて、人間の姿へと戻る。それを驚いた様子で見つめるラウル。
ラウルがここに来たのはつい先日。今日初めて人間の姿に変身した。
ここには今、ベアトリスはいない。つまり、多少暴れても怒られない!
へ?
後でこってりしぼられるだろって?
バレなきゃ犯罪じゃないのだよ!
「ふふん!見たか!」
「すごい……こんなにかわいいなんて!」
「え?」
予想と違った反応に少し困惑する。そして、素早い動きで頭を掴まれた。
「獣人とはこんなにかわいい生き物だったのか!オスには荒くれ者が多いと聞いていたが……」
「ぎゃ!?」
頭に生えている大きな耳は、無論神経が通っている。そして、獣人にとって尻尾や耳は重要機関であると同時に、敏感な場所でもあるのだ。
「やめろぉ!?」
「ははは、良いじゃないか少しくらい」
周りの猫たちはユーリのことを心配するそぶりも見せずに、いつも通りマイペースに過ごすのだった。
♦♢♦♢♦↓ベアトリス視点↓
「どういう状況!?」
ドアを開けて用事を済ませようとした時、すでに先客がいた。
が、
「ボーイズラブ……(ボソッ」
羽交い絞めにされているユーリと耳をさすりながら笑っているラウルがいた。
後ろから抱き着いているせいか、ユーリの顔が真っ赤なのに気づかないラウル。それは怒りからくるものなのか……果たして。
「ベア!来たんだね!」
「あ、はい」
私に気づいたラウルはまるで子犬のように私にすり寄ってきた。獣耳を幻視してしまったのは言うまでもない。
「ご主人様!」
何事もなかったかのようにユーリもすり寄ってくる。なんだろう、主人の帰りを喜ぶ子犬二匹に見えてきた。
「会いたかったよ!」
「昨日も会ったじゃない」
「いいや、二年間分まだ足りない!」
私の知らない間に、随分と素直になったものだ。前世の性格がまるで嘘のよう。
「ご主人様、今日もクラブ?」
最近は毎日のようにクラブに通い詰めている。まあ、顧問なのだから当然の話なのかもしれないが、そのせいで仕事がたんまり溜まって処理するのが大変である。
そのたんびに疲れるので、明日もクラブへ行って猫たちに癒してもらおうという負の連鎖が続いてしまっている。
だから!
「クラブはあるけど、私は出ないわ」
「そっか、じゃあ何できたの?」
本命の用事を行う前に少し、猫たちと戯れるという最も大切な『用事』を済ませようとしていたわけだが、先ほどの二人を見てもう満足してしまったのでそれを言うのはやめておこう。
(腐の道には入らないようにしないと!)
前世でその類の趣味を持つ人と知り合いだったことがある。男子が触れ合っているとそりゃあもう狂ったように喜んでいたのを覚えている。
私はそうならないように気を付けよう……。
「いえ、たまたま通りがかったから立ち寄っただけよ」
「ベア、その手に持ってるものは?」
ベアと呼ばれる違和感にもだいぶ慣れてきた私は手に持ったバケットバッグを見た。
「理事長にお使いを頼まれたのよ……」
バッグに入った小さな紙を取り出して見せる。
「僕も一緒に行っていいかい?」
「いいけど……」
ユーリがこちらを見ている。「ボクも!」という視線だ。
「悪いけど、二人はお留守番しててもらおうかな」
「「えー」」
それにはちゃんとした理由があった。
「まあ、少し『危険なお使い』だから!じゃあ、私はもう行くね!」
♦♢♦♢♦
「一つ目ね」
手に持っているのは、リッチという骸骨魔術師の魔石。
「転移しまくって探したかいがあったってものね」
お使いのリストはまだまだ残っている。
サイクロプスの目玉
大蛇の皮
精霊の鱗粉
龍の牙と龍の逆鱗
どれもこれも通常では何億としそうな代物だ。そんなものを私に集めてこいなどと……理事長もいい性格をしている。
「リッチの魔石は完了ね。次はサイクロプスかな?」
何のために使うのか不明なアイテムを手に入れるために再び探し始める。ちなみに、リッチは学院からだいぶ離れた秘境の森にて発見した。
そのあたりの少し湿ってそうなところに行くと、すぐにサイクロプスも見つかった。
「見っけ」
そう言って、こっそりとその一つ目のサイクロプスに近づこうとした時だった。
なにかが羽ばたいたような……いや、何かを切り裂くような音が聞こえた。それと同時に、サイクロプスの体が刻まれた。
鋭い何かによって何度も切り付けられたと思われるその体のそばには一人の男性が立っている。
その男性は私のほうを向いた。
隠れていたはずなのだが、いとも簡単に見つかってしまったことに驚いている間に、男は接近し、
「大丈夫だったか?」
穏やかな声でそう聞かれた。
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