第268話 東の反乱(???視点)

 面白くない。


「ある程度公爵領範囲は調べつくしたのよね?」


「はっ!その通りでございます」


 部下が報告するに、ベアトリスはすでに公爵領付近にはいないらしい。


 ベアトリスを探し始めて早二年。収穫はゼロ。


 だが、いまだに私は上・から怒られていない。


 悪魔は気が長い生き物だ。事故死、戦死しない限り死ぬことはない。つまりは、寿命がなく、永遠に生き続けることも可能なのだ。


 悪魔には何種類か存在するが、大きく分けると二種類の分類がある。


 それは、『高祖系』と『新来系』だ。


 高祖はその名の通り、太古の昔より存在する悪魔の祖に近しい血統を持つという意味だ。


 高祖は原初の悪魔と比較をすればそこまで大したことのない存在かもしれない。しかし、悪魔界……そして、下界……すなわち、ベアトリスが暮らす世界においては、敵なしだ。


 下界において、高祖の悪魔は災害級に認定されており、それを更に細分化した『厄災級』以上に無条件で認定される。


 神災


 厄災


 戦災


 人災


 この四つに分かれ、原初の悪魔は神災級に認定されている。


 そして、新来系はといえば、高祖の悪魔に呼び出された下位悪魔……もしくは、誤って悪魔界に入ってしまった何らかの生物の末路を指す。


 人間が悪魔界に立ち入ろうものなら、汚染された空気に肺を壊され、地面がなく、重力も下界とは違う、そしてとんでもなく熱い熱地獄に閉じ込められ、そのまま体を蝕まれて、堕ちる。


 その『成れ果ての悪魔』は下位悪魔とは違い、命令に従うだけの傀儡ではなく、自由に動き回る分、『高祖の悪魔』にとっては邪魔でしかないため、殺されることがほとんだだが。


 そして、私は『高祖の悪魔』の家系に生まれた娘だ。


 発言権は絶大であり、人間界を歩き回ることも許されている。


「このまま捜索範囲を再び拡大いたしますか?」


 目の前にいる部下が、そう問うてくる。


「いえ、それはしないわ」


「なぜでしょうか?」


 このままベアトリスを探すために、公爵領を中心に範囲を広げていては、捜索網をかいくぐられてしまう可能性は高い。


 なぜなら、悪魔たちは人間界では存在しない生物とされているからだ。


 もし仮に、存在がバレれば、人間の国が組織だって動き出す。そうなれば、再び戦争が起こるだろう。


 問題になるのは、手駒が減ること。私が集めた手駒たちが勇者や『二つ名持ち』に殺されては、面倒だ。


 よって、バレないためには大っぴらな捜索活動は控えなくてはならない。


 じゃあ、どうすればいいのか?


「世界の端から捜索しなさい」


「どういうことでしょうか?」


 世界は球体であり、端っこなど存在しない。そう言いたいであろう部下だったが、その質問の答えを知る前に、


「一度で理解できない無能はいらないわ」


 その時には、すでに首が消え去っていた。


「後ろの奴、次はあなたが隊長よ」


「はい、謹んで拝命します」


 後ろから、先ほどの悪魔の部下が姿を現し、新たに捜索隊長となる。


「勿論、あなたは理解しているのでしょうね?」


「はい、公爵領から見た世界の裏側……つまり、捜索の範囲を狭めていくのですね?」


「よかったわ、あなたも無能なら貴重な人材がまた減るところだったわ」


 捜索範囲を狭めていくと、当然ベアトリスの行動範囲を狭めることにもつながる。


 そして、反対側にある国々を悪魔たちが掌握するのだ。


 悪魔たちによる政権乗っ取り。


 政権を排除して、国を滅亡させるわけではないため、公爵領にある王国や勇者を保有する帝国がこの存在に気づくのはかなり後になるだろう。


 人間というのは集団意識が強い生き物らしい。


 例えば、世界の全人口が百万人だったとしよう。


 そして、その中に一人強い戦士がいたとする。


 一般人は、その強い戦士一名が死亡したという情報よりも、全人口の半分が死滅したと言われたときのほうがより絶望するらしい。


 数がすべてと考えるからこうなるのだ。


「わかったら、とっとと行きなさい」


「了解しました」


 さっ、と暗闇に姿を消していく部下を見送る。


「そういえば、黒薔薇だったかしら?ボスは私の部下では倒せないわねー」


 彼は私とタイマンを張れるほど強靭だったなと思い出す。今のベアトリスよりも強い。


 が、伸びしろはない。


 その一文だけで、私は興味を失くした対象だった。


「あいつの部下たちもそれなりに厄介ね。このまま嫌がらせが続けば面倒くさいわ」


 黒薔薇と悪魔は対立関係になっており、お互いにベアトリスを取り合う形になっている。


「『邪仙』と『真獣』はそういえば何か計画していたわね」


 正直、これ以上面倒なことをしないでほしいというのが本音なのだが、それを伝えても言うことを聞かないような奴らだったので、何をしても無駄だろう。


 そして、タイミング完璧にか、さっきとは別の部隊長がやってきた。


「報告いたします。東の島国にて、反乱が起こりました」


「『邪仙』は頭も切れる分、ほんと嫌だわ」


 たった今入った報告はほぼ間違いなく『邪仙』によるものだ。


「『邪仙』め……どうせ、私への牽制のつもりなのでしょうね」


 何かしら地上で起これば、たとえどんなことだろうと私は確認のため兵を動かすしかないのだ。


 それほどまでにベアトリスが見つからない。生きているのは確かなだけに腹立たしい。


「東の島国は『邪仙』の出身地だったかしら」


 邪に堕ちた仙人か……


『八光御顕邪払真人』とも呼ばれていた仙人は、その名前の通り邪や闇を葬ってきた仙人である。


 その実力は他の仙人と比べても突出しており、ありえない程の仙気と怪力を持った存在だった。


 そして、神よりもらいし八つの奇跡を操ることで、東の島国の住民の誰しもが崇拝する存在だ。


「自国の民を手にかけるなんて、見ものねぇ」


 最近退屈してきたのだ。


 気晴らしに見学に行くとしようじゃないか――。

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