第256話 入学試験
「アネットことは私から報告しておくとして、二人はアネットを連れて移動して頂戴」
目撃者は最小限に収め、迅速に捕まえる……というよりも匿う……我ながら完璧な事運びだ。
「レイは……まあ研究室に帰っていいよ」
「はーい!」
ここで、特にいる意味なかったな……と、呟かなかった私を褒めてほしい。ぶっちゃけいる意味があったかは不明であるが、久しぶりの再会も果たせたわけだし結果オーライというやつ、なのか?
二人はアネットを連れて、学院へと移動する。アネットはもはや抵抗する気はなさそうだったし、あの二人だったら大丈夫だろう。
でもレオ君は腕をケガしたっぽいし少し心配だ。いつもは、あんな簡単にケガするような子じゃないんだけどね……。
じゃあ何で顔を歪ませたのか……。
「なんとなく予想はつくよね」
レオ君は純粋な獣人ではなく、獣人と吸血鬼のハーフ。お肉でも生きれるだけの栄養は取れるけど、人間の血を飲まないと、十全な力や成長がない。
(人間の血……)
当たり前だが、生徒たちから採血するわけにはいかない。
怪しまれるに決まってるし、できれば巻き込みたくはないからね。
「と言っても、アネットは魔人だし、ユーリはダメだし……やはり私が……」
吸血鬼の異常な回復力がアネットに攻撃を受けた際、見られなかったので、そろそろ限界に近いかもしれない。
死んだりするわけではないが、気にしておくに損はないだろう。
と、そこで――
チャイムが鳴った。
学院のチャイムの音はうるさいくらいによく響くので、これで生徒たちは討伐証明部位片手に全員戻ってくるだろう。
「さて、今日の仕事を終わらせましょうかね!」
♦♢♦♢♦
授業解散
そう告げると、休み時間がなくなっちまう!と、駆け足で教室へと向かう生徒たち。
結局、討伐証明部位を一番多く持ってきたのはヤンキーのグループではなかった。
というか、ナナが急いで走ったせいでほとんどの証明部位を落としてしまっていたらしい。
よって、ダントツの最下位だった。
ちょっとだけ可哀そうだけど、これも運命ってやつよ。いや、でもアネットを見つけられたのはあの子たちのおかげだから、なにかした方がいいのだろうか?
なにかやるにしても、隠密にやらないとな。
今度、どこかに連れていくとするか。
「さて、そろそろ行きますかね」
広いこの校庭に一人突っ立ってるわけにもいかないので、とりあえず歩き出す。
そして、学院の裏口から入ると、すぐに廊下が見えた。横には二階にいくための階段があるが、一年生が現在最高学年であるため、上には誰もいない。
強いて言うなら、この上の階の更に上に理事長室があるわけだ。
(報告が先かな)
ちゃっちゃと報告を済ませてしまおうと、私は階段を上るのだった。
♦♢♦♢♦
すぐに終わるだろう、あの理事長のことだし。
そう思っていた時期が私にもありました。
「黒薔薇の元メンバーだと!?しかも魔人!?幹部候補クラスか!」
「えっ~……」
ものすごい勢いで顔を近づけてくる理事長。
「教えてくれ!一体何があったんだ!そうだな、軽く一時間は!」
「そんなには無理です!死にますから私!」
「逆に何でベアトリス君は冷静なんだ!」
君付けすんなし!
冷静だね、と言われても、黒薔薇は私にとってなじみ深い組織なわけで……。
そのことをうまく説明するのには、どうすればいいのだろうか?
「えっと……昔から知ってる組織だから?」
「それは一体どういう意味なんだぁー!」
余計に混乱した理事長の咆哮が部屋の外にまで飛び出して聞こえる。が、幸いこの廊下には誰もいない無人であったため、理事長の尊厳は守られるのであった。
「それで……一から説明してもらおうか」
急に冷静になった理事長は椅子から立ち上がり、目の前のソファへと移動し、私に座るように促した。
正面に向き直って座っては見たが、私はその表情から最初というのが「昔から知ってる」という理由から語れと言われてるのを察してしまったのが、運の尽きだったのだろう。
「わかりました……」
渋々長くなるであろう会話に身を投じるのであった。
そして――
話すこと、約一時間。
「なんて言うことだ!そんなことがあったなんて……!」
いつもの口調はどこへやら、目の前で号泣する理事長。あまりの泣きっぷりに貸したハンカチもビショビショである。
「五歳のころから命を狙われるなんて……というよりも、よくもまあ五歳で追い返せたな!?」
「あー……ちょっと誕生日会を邪魔されてムカついてましたのでね、ハハハ」
大事な部分は隠しつつ、命をたくさん狙われたよ☆という部分だけ伝える。
すると、なんか知らないけど、私が悲劇の運命を歩んできた可哀そうな人みたいな認定が、理事長の中でどうやらされてしまったようである。
「あの、もういいですか?悲劇の運命を歩んできた可哀そうな人の大切な時間を奪わないでいただきたく……」
「ああ……話はまた後日といこう」
「そういえば、なんですが……入学試験って次はいつあるのですか?」
思わず無理やり話を切ってしまったが、そもそも私が人影の正体究明に協力した理由を忘れるところだった。
私は新たなクラブを設立するために、理事長に三つの課題を渡されていたのだった。
一つ目は終わり、二つ目として人影の調査も終了した。
よって、残り一つ……入学試験の監督官をやってほしいというお願いだけとなったわけだ。
この大学院は新たに建設されたばかりで入学試験という春に行われる行事が、特例で何度か開催されることとなった。
部門別ではあるが。
部門別というか、年齢別と言った方がいいだろう。
例えば、来月の試験は十八歳限定……再来月はニ十歳限定みたいな?
それで、次の入学試験は一体いつになるのか。
理事長の答えは、
「明日です☆」
「わかりました、では私はこれ……はい?」
私は思った。
いつも思っていたことが頭の中に思い浮かぶ。
ホントにこいつは理事長なのか?無計画にも甚だしいのではないか?と……。
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