第225話 再現記憶
ドォン、という轟音が響き、私が立っていた地面は大きく揺れた。
「なに!?」
「えーなんてー?」
轟音で声がかき消されて、うまく声が聞こえないっぽい。
ったく、憤怒さん心読めるんだからそんなわけないはずなのにねー。
「ちっ、つまんないの」
やっぱそうだった。
「もう目を開けていいぞ」
そう言われて、私も目を開ける。
すると、さっきまでの眩しい光はなく、代わりに変な灰色の壁が視界に入る。
「戻ってきたの?ほんとに?」
私が声を上げて喜ぼうとしたときだった。
「いや、違うね。ここは今の城ではない」
「ど、どういうこと?」
「簡単だよ。この世界は私の記憶と誰かの記憶をもとに作られている世界。封印は色欲だけど、大部分を支配しているのは私なの。だから、それを再現しただけ」
「え?じゃあ、状況は何も変わってないんじゃ……」
結局は再現しただけで、状況はなにも変化していない。
ただ、封印の中で記憶を投影しただけに過ぎないはずだ。
だが、いつの間にか現れた憤怒さんはとびっきりの悪そうな笑顔で言った。
「いや、変わってはないが、変えることはできる」
「つまり……?」
「ここは記憶を再現している空間だ。そして、ここには時間という概念があまり関係しない。つまり、未来人の記憶を再現して、それを改変すればいいんだよ」
「はい?」
ちょっと何言ってるかわからない。
憤怒さん、封印のされすぎで頭おかしくなったのだろうか?
「ちげーよ!だから、ここは記憶を再現する場所だから、一人の記憶を改ざんすれば、歴史も変えられるの!」
「えぇと?まだ理解できないんですけど……」
「一人の記憶を改ざんすれば、世界の防衛本能的なものが発動するってこと。この世界は記憶を食い違いからなる次元の歪みを修正するために、歴史を勝手に変えてくれるってわけ」
言いたいことは分かるようなわからないような……。
つまり、この世界の未来人の記憶を再現して、私たちの封印が解除されるように仕向けて?
そうすれば、世界が勝手に次元の歪みを修正しようと、歴史の改ざんをしてくれるということ?
「そういうことだ」
「無理じゃない?」
「無理じゃない、理論上は可能だ」
そんなこと言って、成功している人見たためしがないのだけれど……。
「まあ、まずはは試してみようじゃん?」
まあいいんですけど……。
ようやく話が一歩前進した気がする。
でも、やっぱり憤怒さんをサクッと殺すのが一番てっとっり早いのだけれど。
実力差は理解しているので、やるつもりはない。
どうせ返りうちだろうしね。
「で、ハズレなわけだけど……」
「ハズレってどういうことですか?それに、今の城じゃないって?」
「考えてもみろ。未来人の記憶が簡単に見つかるわけないだろ?だから、この記憶は誰かの過去の記憶なんだ。だからこの城の中もこんなにきれいだ」
確かに周りを見てみれば、確かに若干だがきれいだ。
若干だけどね!!!
「それで?ハズレを引いたなら、次の記憶を再現した方がいいんじゃないの?」
「そうなんだけど……まずはこの記憶の中の人物に干渉できるか試してみたいんだ」
記憶の中のものに触れることはできても、誰かに触れることが出来たりするか、話すことが出来るかはまた別な話になるようだ。
「ねえ、ここで封印を作った張本人を殺せたら、万事解決なんじゃない?」
こっちのほうが効率いいと思うのだけど?
だけど、憤怒さんは真顔で首を横に振った。
「ダメだ。そうなると、あんたがここに来る理由がなくなるだろう?」
「え?」
「あんた、色欲が探していたから、見つかって連れてこられたにすぎない。だから、その色欲を殺してしまうと、あんたが私と一緒に封印に入り込むという歴史がなくなっちまうだろ?そうなると、色欲を私たちが殺した歴史が上書きされるけど、あんたは私と会わなかったことになる……歴史がごっちゃになっちまうんだよ」
色欲を過去で殺せば、憤怒さんの封印は解けて、私は外に出れるけど、連れてこられる理由はないので、出会わなかったことになって……結果どうなる?
「というか、なんで憤怒さんが私が連れてこられた事情知ってるのよ!」
考えるのを諦めてそう文句を言うと、
「外に出れなくても聞き耳はたてておくものだろ?」
とか抜かしてきた。
やっぱりチートだよ、罪人さんたちは……。
「いったんここを出るぞ。今がいつの時代なのか調べないと」
「はーい……」
♦♢♦♢♦
外に出るには転移を必要とした。
どうやらこの城は現実の空間とは隔離されている場所にあるらしい。
つまり吸血鬼の国に罪人は一人もいない!
強欲は例外だけれどね。
エルフの森と同じ感じである。
森がどこにあるのか、私にはわからない。
けど、出口を吸血鬼の国の前にしてくれたのは、精霊さんの心遣いなのだろう。
王国の公爵領にも近いし、ミサリーを探しやすいようにと手配してくれたのだろう。
そして、外に出てみれば、そこはシーンと静まり返った空間がー……なんてことはなく、ドッカンドッカンあたりで大爆発が起こっていた。
「ちょっと、何が起きてるの?」
私はそこまで歳をとっていないため、これがいつの出来事なのかわからない。
だけど、憤怒さんはなんとなく察せたようだ。
「こりゃあ、まずいな。戦争だ」
「あ、ちょっとどこ行くの!?」
気づけば憤怒さんは走り出していた。
私もそれの後に続く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます