第213話 似ている
ナインは私を連れて屋外へと出た。
特にすることもないだろうに……それに、勝手にチェックアウトを延長させた理由もわからない。
彼女の権限?で、延長されたわけだけど、ナインも貴族なのか?
まあ、そうだとしても、嫌がらせしているであろう貴族は誰であろうと、潰しちゃうけどね。
ナインは不気味だから、是非とも違っていて欲しいものだ。
この吸血鬼の国にきてから数日が経った。
エルフの森の時はもう少し平和な生活が送れたが、こっちではそうもいかないらしい。
まず、街の住人はかなり貧困だ。
これは、二ヶ月ほど前に起きた人間狩りのせいである。
人間を生捕りにして、連れて来た者に多大な報酬が贈られるという人間狩りは、無論、人手を多く確保している富裕層がかっさらっていった。
元々裕福な家系がさらに富を得て、一般市民との格差は広がったようだ。
そのせいで、ローブの少年みたいな子が増えたのだろうか?
私に友好的に接してくれた数少ない吸血鬼の一人である彼のような孤児は、できるだけ増やしたくないものだ。
そして、わかったことといえば、この国には明確な『王』がいないということ。
この国に国王、もしくは女王はいない。
その理由は知らないけど、メアルが言っていた『罪人』という人たちが実質的な権力を持っている。
私の予想では、第二次聖戦の生き残りがその称号?を冠しているのではと思う。
第二次聖戦といえば、吸血鬼は敗北している戦いである。
その生き残りが指導者となっていても不思議ではない。
それに、権力を握るくらいなのだから、何か特別なものがあるのだろう。
エルフの森ではなかったが、大体の国一つ一つには二つ名持ちのとっても強い『ネームド』がいる。
帝国だったら勇者、王国だったら私の母様だったり。
実はエルフの森でいうと、『ハイエルフ』がそうだったりする。
だから、『罪人』というのもこの国でのトップの強さを誇るに違いない。
警戒しておいて損はない相手だ。
現にここにいるナインはまだ私の中では不気味な存在なのである。
闇が深そうだからあんまり触れたくないけど……。
ナインの顔を見ていると、ナインもこちらの視線に気付いて、顔を向けた。
「なにか?」
「なんでもないわよ……で、なんで外でたの?」
「特に意味はない。私は空が好きだからだよ」
「理由になってないわね」
ナインは相変わらず真顔で、空を眺めている。
感情が全く乗っていない喋り方も今となっては慣れてきた。
フォーマは感情がなさそうに見えて、実はバリバリ感情があるからね。
いたずらが大好きなフォーマにはよく困らされたものである。
ナインは上を見るのをやめて、私に聞いてきた。
「どこか行きたい場所はある?」
「行きたい場所?」
唐突に聞かれたものだから、私はとっさに、
「明星宿」
と言った。
ネルネがたった一人で運営している宿である。
まあ、食料支給がストップされて、カツカツなわけだけど。
「明星宿?へー、じゃあ、そこに連れて行ってよ」
「わかったけど……ネルネ、起こしてくるわね」
私は一度部屋に戻るのだった。
♦︎♢♦︎♢♦︎↓ナイン(?)視点↓
特にしたいことはない。
毎日が平凡だからかはわからないけど、今となっては空を見ている時が一番気持ちが落ち着く。
暗い夜に灯ったあの明るい炎。
あれとは真逆の空の光。
素晴らしい。
明星宿?
そんな場所があるなど、私は知らない。
だが、行ってみる。
興味がなくてもだ。
長い時を生きる者の宿命、それは暇。
私も長らく生きてきた。
第二次聖戦が終わって、そこから私は罪人へなった。
九人目の罪人である私に、名などない。
いや、元々はあったが、望めば私は不幸になる。
実際にそれは経験済み。
可能な限り、天に願うことなどしない。
この世に神はいないんだよ。
フードを常にかぶるベアトリスがいう明星宿というのは小さい。
見た目もボロボロで、私の住んでいたお屋敷も、今泊まっている宿のどちらにも似ても似つかない。
「ここよ」
「ふーん」
案内されるがまま、中に入る。
面白いほどに、そこにはなにもなかった。
うざったいほどまとわりついてくる貴族がいないのは幾分かまし。
あいつらが、政権を取り戻す日は来ないというのに、かわいそうな話だ。
同僚が現在は女王を担っている。
その同僚は私よりも後から罪人になった新米で、第二次聖戦時の生き残りは何名かいたはずだ。
彼女は百年ほど前になったのだったか?
時間の間隔は覚えていないが、彼女は当初から変わったやつだった。
男漁りが趣味で、貴族どもに命令し、男を集めては喰・っ・て・い・た・。
彼女は罪人の中ではまともな部類であり、私もその部類に入るだろう。
そして、罪人の宿命である『過去』……もちろん彼女も経験しているだろう。
なのに、平気そうにしているのは何故だろう?
私には理解ができない。
少なからず、心に傷を負っているはずなのに、よくもまあ食事を要求できるもんだ。
明星宿の中を一通り回ったあたりで、ネルネが経営している宿だということを知った。
「まあ、生活カツカツなんですけどね!」
笑ってごまかすネルネとベアトリスに連れられて、最後の部屋までやってきた。
ベアトリスたちが元々泊まっていたらしいこの宿には顔を出しただけで、すぐにあの豪華な宿に戻るらしい。
私としてもそっちの方がありがたい。
同僚のお願いだから、断れなかったし。
「ただいま〜」
ベアトリスが扉を開けば、そこには三人の子供がいた。
二人は獣人、一人は……。
獣人たちがベアトリスが帰ってきて喜んでいるところを尻目に私は部屋の中にズカズカと入り込んだ。
「え?」
その小さい吸血鬼と思われる子供。
「お前は誰だ?」
「え?」
「ちょ、ちょっと待ってよナイン!」
私はその子供から引き剥がされた。
「もう!びっくりしてんじゃん!」
「……ああ、ごめんなさいね」
白髪の髪、赤い瞳。
(似てる)
少年は似ていた。
「とりあえず、自己紹介してよね!」
「……わかったよ」
私は自己紹介をしたのだった。
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