第202話 食糧事情

「肩とか腕とか、どこでもいいから……」


「ちょ!脱がないで!」


 何となく、吸血鬼が噛みそうな場所を差し出したが、レオ君は慌てて手で隠した。


「レオ君も話聞いてたでしょ?」


「ああ……まあ、聞いてたけどさぁ……」


「だったら、納得してよ」


 死んじゃうかもしれないという可能性があるだけで、私は心配なのだ。


 レオ君の目をじっと見つめる。

 だが、すぐに目を逸らされた。


「でも、ベアトリスの血を飲むっていうのは……」


「私じゃ嫌なの?」


「あ、いや!そうじゃなくて……」


 煮え切らない様子でもじもじとしている。


 何だか、空気が気まずくなりつつあるところに、


「ねえ、ご主人様」


「ん、どうしたの?」


 後ろから、ひょっこりとユーリが顔を出して、提案をしてきたのだ。


「レオは人間の血を飲めばいいんでしょ?」


「そういうこと、だね」


「じゃあ、人間を探せばいいだけだよ!」


 それは……


「どういうこと?」


「だからさ、公爵領からの生き残りを探して、その人に血を分けて貰えばいいんだよ!」


「あ〜……」


 生き残りがいるかはわからないけど、探すつもりだったし、ちょうどいい、のかな?


 公爵領から逃げて、ここまでやってきた住人のみんな。

 もし、生き残りがいたら、絶対に助けなくちゃいけないし、レオ君のことも助けたい。


「ユーリもたまにはいいこと言うんだね」


「ちょっと!たまにじゃないよ、ご主人様!」


 私も少し考えすぎていたのかもしれない。

 何でもかんでも急いでことを進めなくてもいいのだ。


 レオ君だって、こないだ飲んだばっかりだし、今まで飲んだことないって言っていたくらいだから、きっと大丈夫。


「ごめんねレオ君……ちょっと焦っちゃって……」


 私は素直に謝った。


「ううん、大丈夫。心配してくれてありがとうね」


 そう言って笑って許してくれた。


「あ、でも、吸いたかったらいつでもいいからね?」


「え、あ、うん……」


 肩を少し出して、おふざけで見せたみた。

 すると、意外にもまたもや目線を逸らされた。


 可愛い……。


 顔を赤め、目を瞑ってプイっとそっぽを向いたレオ君がとても愛らしく見えた。


 もちろん、家族としてだよ?


 これが思春期かー。

 面白いから、今後も何回かやろう。


 こう見えて、私はからかうのが好きなのだ!


 え?


 知ってた?


 ……気にすんな!


「まあ、私たちもネルネにずっと血を提供してもらうわけにはいかかったし、頑張って探そうか」


「あ、そうでした!私も、血液の提供ができなくなるところだったんですよー!」


 私の声出しに反応して、ネルネがとんでもないことを言い出した。


「提供できないって?」


「あれ?言わなかったですか?私、血液の提供を受けてないから、もうないんですよー」


「それは聞いたけど!」


 何でその……提供が受けられないのか?

 と言う話である。


 さっきから、ツッコまずにいたが、ネルネは非常に優しい。

 なぜなら、私たちが寝ている間に、偉い人の元に私たちを連れて行ったりすれば、お金や血液も提供を受けられるはず。


 昨日は私のことを人間だと思ってなかったから、そうだったのかもしれないが、今放った一言でとても優しいと思ったのだ。


 私たちのことをあてにしていない……と言うか、考えていない様子。

 いつも通りニコニコしている。


 まだ出会ってから二日しか経過していないが、何となく彼女は、他の吸血鬼とは違うと思った。


 だから、そんな人には手助けしたくなるよね。


 提供が受けられない理由について、彼女に尋ねてみた。


「いやぁ、これに関しては競合他社のせいとしか……」


「競合他社?って、宿?」


「当たり前です!私の宿は由緒正しい宿なんですが、それでも、最新の設備を取り入れた宿に負けてしまうわけで……」


 そもそも従業員が彼女一人というのもおかしな話だが、あえてそこにはツッコミを入れないでおこう。


「でですね……私、『ボロい』『汚い』って馬鹿にされてて、とことん嫌われてるんです。だから、嫌がらせをよくされるんです。その一環に、食料提供禁止というのがありまして……」


 曰く、この国での貴族、政府にあたる人物たちが、吸血鬼一人一人に食料提供を行っている。


 それを食べ……飲んでみんな生活しているようだ。


 それは、ネルネも変わらないのだが……。

 それが止まり、提供もできないし、まともに血を飲むこともできなくなっているということだった。


 あれ?


 かなりのピンチじゃね?


 ネルネという命一つがかかったわりかし重要な案件じゃね?


「それって、まずくない?」


「とてもまずいです!死にそうです!」


 そんないい笑顔で言われると、私たちまで悲しくなってしまう……。


「多分、他の宿の方達はそんな私の様子を見てほくそ笑んでいることでしょうね……」


 潤んだ瞳で、こちらを見てくるネルネ。

 目が助けてくれと訴えている。


 嘘泣きだろうけどね。


「まあ、助けるわよ。だから、その嘘泣きやめなさい」


「えへ、バレちゃった!」


 ネルネの涙が一瞬にして消える。

 元気なやつだ。


「ひとまずは、ネルネの食料事情を何とかしないとね。それに、生き残りも探して、レオ君にも血を提供してもらって……」


 エルフの森の時よりやることが多いな……。

 まあ、その分、旅も終わりに近づくってもんだ!


 そう思えば、悪い話ではない。

 ローブの少年も協力すると言ってくれていたし、適当に使ってやろう。


 にししと笑う私を見て、少年はキョトンとする。


「まあ、何とかなるでしょ!」


 早速、その競合他社……相手の宿に向かうのだった。

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