第193話 森の外へ

 森はかなり広かった。

 十時間以上走ってもなかなか出口にはつかない。


 だが、それは急に見えた。


 森の奥から眩しい明かりが見えたのだ。

 そこに着き、眩しく思いながらも目を開けると、


「出れたぁ!」


 長い時間走り続けて、ようやく森を抜けた。

 森を抜けた奥は平原だった。


 森よりも気温は低く、大草原が広がっている。

 崖が多く、山と崖でかなりゴツゴツした平原だ。


 それに違和感を感じながらも、ようやく森を抜けたことに感激する。

 走っていて、そろそろ体力が限界だったのだ。


 息は上がっていて、レオ君もそれは同じであり、ゼエハア言っている。

 ユーリは顔色一つ変えていないが、私がちらりと見ると、わざとらしく息切れしている。


 息を整え、改めて平原を見渡すが、人はいなかった。


「どっかで見たことあるような景色なんだよね〜……」


 こんな感じの景色を昔に見た気がする。

 どっかにあった……見たことがあるようなないような……。


「とりあえず行ってみようよ」


 レオ君に提案され、ひとまずその平原を進むことにした。

 動物もおらず、人の姿も見えず、ある意味では平和的な風景が続いていた。


 逆に言えば殺風景すぎるが……。

 平原はいつしか終わりを迎え、崖になっていた。


 三人で顔を見合わせてから落下する。

 私たち三人は崖程度で怪我することもないので、平然とジャンプ!


 来ていたローブやら、スカート……ドレスやらがめくれたが不可抗力である。


 そう思って気づいた。


 前にもこういうことあったような……。

 ちょうど崖から降りて……こんな感じに……。


 うーん、まだ思い出せないな。


 崖の下にスタッっと着地すると再び平原が広がっていた。

 疑問に思いつつも、手掛かりもないので前へと進む。


 平原なので、探知魔法を起動する必要もないだろう。

 視界が開けているので、誰か来たらすぐわかるし。


 そう思って、進んでいくとまたまた崖だ。


「なんかおかしくない?」


「こんなに崖ってあるものだっけ……」


 疑問に思っているのは私だけではなく、全員がそうだった。

 ただ、私はなんとなく来たことがあるような気もしている。


 どこだっけ?


 思い出せ……思い出すんだ……。


『なんかやばそうな城だね』


 不意に今代勇者……トーヤのそんな言葉を思い出した。


「あー!」


「うわ!急に叫ばないでよご主人様!」


 耳を塞ぐ二人。

 だが、私はそんなこと気にしていなかった。


「『解除』!」


 昔は魔法であるキャンセレーションというものを使ったが、今では言葉は発するだけで、それを行使できる。


 話術師は便利だ。


 そして、私が『解除』の一言を発したときには、世界が一変していた。

 平原に見えたそこは霧だらけになった。


 視界が遮られ、あたりは真っ白な世界に包まれた。

 それは同様に、ユーリとレオ君も変わったようで……。


 いきなり霧が現れて、中空に威嚇をしている二人。


 可愛い。


 それは置いておくとして、


「やっぱりこの景色、見たことある!」


 私は数年前にこの景色を見た。

 トーヤと初めてあって、その時に私がトーヤから逃げまくっていた。


 逃げる最中にたおりついたこの場所。


「吸血鬼……」


 数年前はここがどこかわからず、不気味な場所というだけの認識だったが、時期に分かった。


 ここは吸血鬼一族が暮らす領地のような場所で、私の母親であるメアリがこの地まで吸血鬼を追いやった。


 この不気味な景色を人間が怖がったりしないよう、メアリがこの場所に来たものに、幻覚を見せるようにした。


 死んでもなお残り続けるその魔法は、永続的に発動し、今現在も私たちの視界を眩ませていた。


 ユーリこと魔王をも、欺く魔法……さすがメアリだ。


「吸血鬼?あ、そっか。そんな奴らもいたね」


 忘れてたよー!と、私の呟きを聞いたユーリが威嚇をやめる。


「なら、僕がいるからきっと中に入れるよ!」


 魔王……魔族と吸血鬼族は協力関係にあった。

 つまり、吸血鬼も魔王には頭が上がらなかったりするのだろう。


 だけど、


「その可愛い見た目で何を言っているのやら……」


「は、はあ!別に可愛くないし!僕、かっこいいし!」


 そう言って拗ねるユーリだが、自分で言っていたことだ。


 ある日、弱っているところに呪いを受けて、魔力を封じられ、キツネのような見た目にさせられてしまった。


 そして、私の魔力を大量に注ぎ込んで、なんとか人の形をとることができたというのが今の段階。


 だからと言って、呪いが完全に解けたわけではなく、いまだに魔王らしい威厳のある元の姿には戻れないようで、キツネ獣人のままである。


 魔力がたりず、いまだに獣人……キツネの名残が残っている。


 え?


 また魔力を注いてあげればいいだろって?


 え、だって可愛いからこれでいいでしょ?

 それに、魔力を戻しすぎると、問題もある。


 この人、加減ができないんです。

 地面をぶん殴ったりしたら、そのまま地面真っ二つよ?


 かろうじて、弱体化してるから、物とか壊さないけど、逆に不便になること間違いなしなんだよ。


 これ、本人が言っていたことですからね?


「とりあえず、吸血鬼に会うのはやめておいた方が良さそうね」


「でも、ここもいずれいかなくちゃいけないんでしょ?だったら、今行ったほうがいいんじゃない?」


「うぐっ……!」


 昔はこの景色が怖くて逃げ出してしまった。

 当時の私にとっては何よりも恐ろしく感じていた。


 今となっては、それよりも恐ろしい景色を見てきた。

 だから、何も感じない。


 今なら、怖くない……!


「行ってみよう」


 私は決心する。

 が、


「ただし、隠密行動で!」


「「……………」」


 私たちは霧の中を進んでいくのだった。

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