第152話 迫る闇(レオ視点)

 最近は日課になりつつある出来事。

 それが魔物の討伐だ。


 同じく、それを日課としているのは、アレンとレイという少年少女。

 そして僕。


 最近、ベアトリスがなにかを考えこむことが多くなった。

 いや、前からあったことなのだけれど、話しかけていいのかどうかわからず、会話すらままならなくなっている。


 そんな時に、レイに出会い、そして続けざまにアレンと出会った。

 それから、なんやかんやあって一緒に魔物を討伐しようという話になり、それが今では日課となっているわけだ。


 森の中に入り、魔物を狩る。

 普通の子供ならば、そんなことが出来るはずもなく、決して生きて帰れるということはない。


 だが、そこはこの二人。


「おらぁ!」


「あれ?死んでなかった……」


 アレンは激しいキックやパンチでボコボコにし、レイに至っては笑顔で手に持っている杖を振り上げて撲殺する始末。


 二人とも強すぎて僕が圧倒されるというのが、流れであった。

 それについていける僕も大概だけどね。


 それでも、二人は異常だ。

 僕は、人生のすべてが戦いのすぐそばだったため、少し大きくなってからは、鍛えるだけ鍛えて、狩るだけ狩っていた。


 強くなるのも当然である。

 だが、二人は魔物との戦闘なんてほとんどしたことないだろうに、どうしてこんなに手馴れているのだ?


 確かに、ここ最近は日課によって連携もうまくなってきたようだが、最初から実力は半端なかった。


 それでも、ベアトリスに勝てる気がしないのは何でだろうか?

 人外というか、彼女自身がおかしいのか。


 どんな鍛え方したら、あんな風に強くなるのだろうか?


 一度聞いてみたことがあったが、「大したことはしてないわ」としか言わなかった。


 なお、ベアトリスはその「大したことない訓練」によって何度も骨が折れたり、病気にかかったかは数え知れない。


 もちろん、それを知ることはない、レオだった。


「今日のところはひとまずこのくらいにして、帰ろうか」


 二人に話しかける。

 器用なことに、返り血を一切浴びていない彼らの服は、多少汚れた程度で、まさか魔物と戦ってたなんて、信じる大人もいないだろう。


「はーい!」


 元気よく返事をするレイ。

 オリジナルの魔法をたくさん使えてうれしいようだ。


 その魔法の効果は雷のような強力な電気を流し込んで、体内から破壊する効果だった。


 つまり、一度当たれば、神経が切断される魔法、「即死魔法」といったほうがいいだろうか?


 何が一番恐ろしいかって、最初に僕を実験台に使用しようとしたことである。


 とんだサイコパスだ。


 アレンとレイが僕の元まで戻り、街まで戻る。

 思った以上に森の中に入りすぎてしまい、数分はかかるだろう。


 レイは、魔法の練習と称してぷかぷか浮きながら……アレンは何やらあたりを観察している。


 彼には何が見えているのか?

 それはわからない。


 だが、


「なんか臭わない?」


「「?」」


 僕の獣人としての嗅覚が変な焦げ臭さを訴えかけてきた。

 それは、前方から。


 すなわち、


「早く街に帰ろう!」


「え、あ、うん」


 二人とも、いきなり僕が本気で走り出したことに驚いていたが、すぐについてくる。


 そして、街に近づくにつれて、二人も異変を感じ始めたのだろう、顔がゆがんできた。


 森を抜ける。


 そして、少しの平原の先に街が見えた。

 しかし、それは街と呼んでいいのかわからない状態になっていた。


「うそ……街が」


 燃えていた。



 ♦︎♢♦︎♢♦︎



 すぐに中に入る。

 何が起こっているのかはわからないが、アレンは家族の元へとかけていく。


 そして、レイは困っている人の救助に、ということだ。


 街は木造建築の建物が多く、それは一度家が燃えると、あたりにまで拡散するということだ。


 街の中は真っ赤になっており、あたりから火がこちらに迫ってくる。

 そして、逃げ惑う人たちもちらほらいた。


 そんな人たちも、服に火が付き、次第にそれも燃え広がって……という人もいた。


 ダメだ。

 僕には助けられない。


 魔法を使えない僕は、水を出すことが出来ず、ただ見ていることしかできなかった。


 僕のことを心配して、君も逃げろ、という人もいた。

 だが、それを無視して僕は街の中、屋敷に向かっていく。


 遠目からでも、屋敷は燃えていないのが見えた。


 その代わりに、家は半壊、全焼、跡形もなくなっているものが多く、建物が崩れてきて、僕にあたりそうにもなった。


(なんで、こんなことに……)


 悲鳴が街の中をこだまして、僕の心を締め付ける。


 あの人たちを助けたほうがいいのではないか?

 と。


 それでも、僕は走った。

 一番お世話になったベアトリスたちを助けてからだ。


 騎士も時には冷酷にならないといけない。


 そして屋敷にたどり着く。


「フォーマさん!」


 真っ先に僕よりも強いであろう人の名前を呼ぶ。

 初めて会ったときよりもなぜこの人がベアトリスの家にいるのだ?という印象が強かった。


 そんなフォーマさんの強さは僕もよく知っている。

 そして、


「呼んだ?」


 屋敷の中に入ると同時に、転移で玄関までやってくる。

 この緊急事態だ。


 もはや、隠れる云々言っている暇はないと判断したのだろう。


「これはいったい……」


「奴が来た」


「奴?」


 何やら、知っているような口ぶりのフォーマさん。

 いつも余裕の表情(真顔)でいる彼女の額からは少し汗がたれ、口元がゆがんでいた。


「誰が来たんですか!?」


「歩く厄災」


 それ以上の情報は必要ないと言いたげに、フォーマさんが言葉を切る。

 ベアトリスはというと、今もどこかに出かけているそうだ。


 一年間いつも忙しそうにいしている彼女だが、果たしてこのことは知っているのだろうか?


 知っているのであれば、すぐさま戻ってきてほしい。


「急用ができた」


「は?」


「行く。あとは任せた」


 そう言ってフォーマさんも転移していく。

 せめて向かう先くらいは教えてくれてもよかったのに……。


「あら?ベアトリスじゃないのね」


「!?」


 次に聞こえてきた言葉は、とても残念そうで、僕は聞いたことがない人の声だった。


「誰ですか?」


 声がした方向を見ると、いつからいたのか、浮いている。


 空中に浮かんでいる、僕と同い年くらいの少女。

 だが、たたずまいは猛者のそれだった。


 堂々たる仁王立ちで、ゆっくりと地面に着地して、僕のほうに近づく。

 近づかれるにつれて、嫌悪感や、恐怖感が増していくのがわかる。


「ほう、逃げ出さないのね」


 感心したわ、と笑う目の前の少女。


「お前が、公爵領を燃やしたのか?」


 僕がそう聞くと、より一層の笑みを作って、


「そうよ」


「!」


 その瞬間、僕のお腹に痛みが走る。

 鈍い痛み、殴られたのだ。


 お腹の中から出血をし、食道をのぼって口から吐き出される。


「あらぁ?あなた人じゃないのね?」


「な!?」


「殴った感触、獣人ね」


 得体のしれない少女は不敵に笑うと、僕の首根っこを掴んで階段のほうまで吹き飛ばす。


 目では見えた。

 だが、体は反応することすらできないかった。


「すごいじゃない、その歳で私の攻撃を目で追えるなんて」


「お前には言われたくない」


 僕は反撃に出ようと立ち上がる。


「遅いわ」


「ぐっ!?」


 背中から骨が折れる音がした。


「骨の強度は不十分ね。獣人なら合気道とか学ばなかったのかしら?」


「ぼ、僕は騎士だから、ね!」


 痛みに苦悶の表情を浮かべつつ、後ろを向いて殴り掛かる。

 しかし、すでにそこには少女の姿はなかった。


「まあ、遊び相手にもならないわね」


「……」


 耳元で声がした。

 気づいた時にはもう遅かった。


「じゃあね」


 もはや痛みすら感じないほどの早業で、お腹をえぐられる。

 ぐちゃりという音が耳に届き、急速に眠気が増した。


「案外あっけないのね」


「ぼ、僕は……まだ……」


 こんなところで、死ぬわけにはいかない!


 そう願った時だ。


「な!?」


 狭くなりつつある視界の中で、得体のしれない少女が誰かに吹き飛ばされた。


「お待たせ、獣人君……いや、レオ君だっけ?」


「……!」


 そこに立っていたのは、


「待っていたわ、ベアトリス!」


「誰か知らないけど、死んでくれる?」


 アナトレス公爵家長女、ベアトリス・フォン・アナトレスだった。

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