第145話 味方をつける

「さあ、私に協力して頂戴な!」


「は?やだよ」


「………………」


「………………」


 まあ、そうなるよね……。

 テントの一つに入って、ラディと私の二人きりになる。


 カイラスさんは訓練を見ているため、少なくとも私たちの話を聞くことはないだろう。


「うーむ、じゃあどうしたら私のために動いてくれる?」


「何されたって動くわけねーだろ。自惚れんな、お前はただの見知らぬガキなんだよ」


「ほんと失礼なやつ」


 ただ、言っていることは正しいので、なんとも言えない……。

 私は騎士団の面々にラディの妹と嘘をついて、ちょっと仲良くなったかもだけど、こいつはそれが嘘だってわかってるんだ。


 だから、私がどうにかこいつに、信用できる奴というレッテルを貼らなくてはならない。


 でも、どうすればいいのか?

 ラディのいうとおり、私はただのどこの馬の骨かも知らないガキンチョ(女)に過ぎないのだ。


「まあ強いていうなら……」


 そう何かを言いかけるラディ。

 私は、それに耳を傾ける。


「この腐った貴族の争いを止めてくれるならな。まあ、お前にはできるわけねーだろうが——」


「わかったわ」


「は?」


「だから、『わかった』って言ったの」


 私の言葉を聞いて唖然としているラディ。


(あれ?何か変なこと言った?)


 それをしたら協力してくれるんでしょう?

 これは私にとって最も都合のいい提案だった。


 伯爵さんの娘を取り戻すという目的があり、「貴族の争いを止める」通過点に過ぎない。


 つまり!


 私が侯爵から伯爵さんの娘を救い出して……あ。


 そこで思い出した。

 侯爵はターニャの父親。


 もし、伯爵さんのもとに娘が戻って来たら、確実に侯爵を陥れることだろう。

 そうなれば、野生は派閥が崩壊して、結果的には争いは起こらなくなるんだが……。


 それではターニャはどうなるのだ?

 私は迷った。


 ターニャという友人の父親の手を取る?

 それとも、伯爵さんの娘を助けるという『約束』を守る?


 私にはどちらの気持ちもわかる。


 家族を失う辛さだ。


 どちらも、親を失うか、子を失うか……それが迫られている状況だ。

 私は知っている。


 家族をなくす気持ちを……。

 目の前で救えなかったし。


 それで悲しんで、立ち止まるほど、私の心は弱くない。

 だが、伯爵さんもターニャも私と同じような人ではない。


 だったら、私はどっちを選択する?

 私は迷っていた。


 だが、その答えは自ずと出てきた。


(答えは、『どちらも救う』よ)


 簡単な話だ。

 伯爵さんの娘さんを救った後に、どうにか伯爵と公爵の間を私が取り持って、双方痛み分けという形でどうにか派閥を霧散させるしかない。


 夢物語だ。

 そんなことできるわけない。


 それでも私はやる必要がある。


 物語の主人公のようにうまくはいかないだろうけどね。


(はあ〜。いつになったら私は自由を得られるのかしら?)


 ただの令嬢として、平穏にすごせる日はいつくるのだろうか。


「おい!聞いているのか?」


「あ、ごめんごめん。つい……」


「それで、お前にはそれができるのか?」


「まあ一応できなくはないかな」


 ここはそう言っておくしかない。


「まじかよ」


「うん、大マジ!」


「ちっ、わーったよ。協力してやろう……」


「ほんと!?」


「ああ、騎士に二言はない」


 とりあえず、強い味方を手に入れたってことでいいかな?

 これで情報の入手もしやすくなった。


 ひとまず、中立の立場にあり、なおかつそこそこの地位の男を手に入れたことで少しばかりこの派閥という問題について聞けた。


 まとめると——


 理性派

 野生派

 中立派


 三つの派閥があり、


 理性派が三割

 野生派が五割

 中立派が二割(ほとんどが騎士)


 という状況らしい。

 理性派の考え方は至って今まで通り。


 野生派、自分勝手に好きに過ごすというもの。


 己の欲望通りにお金も地位も名誉、女性もなんでも手に入れてやる!


 って、夢物語なわけね。


 ちなみに、理性派の方が人数が少ないのに、なんとか対抗できているのが、『国王』の影響が大きい。


 国王もまた、理性派の一人。

 それは当然と言える。


 まあ、理性派は「ここで国王の信頼を勝ち取る!」という狙いのものが多く、野生派は「ここで国王を潰して新たな社会を!」というやつら。


 全く、呆れてしまう。


 そこで、私が何をすべきか。


 ひとまずは、中立立場のラディを利用して、伯爵家娘さんの捜索範囲を広げる。


 私自身は、今後「獣人社会に忍び込む」というのを目標にして活動しようと思うのだ。


 何が言いたいかと言えば、獣人の政治である。


 元々、国王の発言力といえば、絶対のもので、それを破ると処刑される……そんな厳しい政治体制だった。


 だが、国王はなぜか甘んじて野生派を見逃している。


 それには何か理由があるはずだ。

 その根本を叩けば、この問題は解決する。


 それまでに、娘さんを見つけてもらう。

 万事解決だ。


 ただし、相変わらず身分は隠し続ける。

 当たり前だ。


 隣国の公爵家の公女がこんなことに首を突っ込んでいると知れたら、国際問題になりかねない。


 私はただ、ターニャのためにやっているだけに過ぎない。

 友達のために、奮起しているだけだ。


 だからこそ、そんな国際問題なんて望んでもいない。

 穏便に済ませる。


 それが第一だ。


 獣人で私の正体を知っているのは、ターニャと獣人君だけ。

 それ以外にバレた時点で、私は強硬手段を取るしかなくなるのだ。


 避けなければならない……。


(私も、人を手にかけるのは趣味じゃなくなったしね)


 ラディから聞いた話、それらを信じて私は獣人達の貴族社会に入り込むこととなった。

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