第144話 ベタ褒め

 まず初めにやらされたのは、素振りだった。

 いや、確かに重要な訓練かもしれないけど、私には必要のないことだった。


 完璧に模写した動きは騎士達にも引け劣らない。


「ほう、さすがだな」


「さすがです!」


「すごいですね!」


 ………………あれ?


 ここは天国かな?


 こんなに何度も褒められることなんて滅多にない。


(私、将来騎士になろうかしら?)


 まあ、さすがに冗談だけれどもね。

 とにかく、嬉しかった。


 そのせいで気合が入って、素振りの速度が速くなる。

 それによって、なぜかつける式の尻尾が上方向に動いた。


 忘れていたが、このつける式尻尾は、『魔道具』なのだ。

 魔道具とは、簡単に言ってしまえば、魔法を込めた道具である。


 魔力という動力源を通すことで、稼働する。

 この尻尾や耳は一度魔力を通せば、込めた魔力が切れるまで稼働し続け、筋力強化などの効力も持っている。


 流石お金持ちことターニャのおすすめだ。

 そんなことを思いながら、尻尾を止める。


 喜んでいるのがばれてしまうかも!

 と思ったからである。


 実際に、(え、かわいい……)と騎士たちに思われていることを彼女が知る由もない。


「おい!お前ら妹君をじろじろ見るな!ちゃんと動けや!」


「「「はい!」」」


 え、見られてたの?

 とか思いつつも、私は素振りを続けた。


 それが、数分間にわたって続き、


「よし!素振りは終わりだ!今度は二体一での攻防戦!」


「「「はい!」」」


「攻防戦って?」


「お?そうか、君はわからなかったな。簡単に説明すると、訓練の一環で、攻撃が一人、防衛が二人で戦うんだ。見ていなさい」


 言われた通り、三人の騎士たちが動き出す。

 盾を構える者と、剣を構えるのが二人。


 それぞれに剣持ちが一人はいる。


 そこで行われるのは、攻城戦のような戦いだった。

 攻撃側は、盾をすり抜けようと動く。


 それを防ぐ、盾。

 それでも守り切れない場合は、後ろに隠れていた剣持ちが迎撃。


 それを繰り返し、攻撃側がすり抜けてしまったら防衛側の負け。

 逆に時間内に隙を見て入り込めなかったら、攻撃側の負け。


「よし!そこまでだ!」


 勝負はつき、防衛側の勝利となった。


「あの二人は騎士団メンバーの中でも相性が良くてな、かなり優秀なんだ」


「それはすごいですね」


「そうだろう?」


 部下を褒められて上機嫌になっている様子のカイラスさん。

 そういうところはやっぱり感情が出るようで、尻尾が揺れる。


 ただし、騎士だというのもあるのか、その感情はすぐさま抑え込まれて、表情だけがにこやかになる。


「どうだ、君もやってみないか?」


「わ、私が!?」


「そうと決まったら、早速剣を貸そう」


 そう言って渡されたのは、真剣だった。


 あれ?


 真の剣って書いて真剣だよね?

 このピカピカ光ってるのって真剣って意味だよね?


 子供になんてもん持たせてんだ!


「さあ、まずは攻撃側からやってみようか。コンビネーションをとるのは難しいだろうからね」


「あ、もうやるのは決定なんですね……」


 私はあきらめて、先ほど勝利した騎士さんを防衛側にあて、訓練を始めるのだった。


 ただ、私だって頭が悪いわけではない。

 簡単に横からすり抜けても意味がない。


 つまり、どうするのか?


 そんなの決まっている。

 攻城戦ではどう戦うのか考えればいい。


 攻城戦では、大門を破壊し、中に侵入するだろう?

 つまりはそういうことだ。


 わからなかった人もいるだろうし、実践といこう。


 私は二人に向かって走り出す。

 そして、右側に向かうとフェイントをかける。


 ただ、そんな簡単に引っかかるほど騎士たちもばかではない。

 後ろの騎士さんが逆に左に移動するのが見えた。


 私は、それを見てから方向を変えて、盾持ちの騎士さんの目の前に向かう。


「な!?」


 私は、盾をくぐり、また下からスライディングをかます。

 もちろん、後ろの剣持ちもそれに反応できずに呆然としている。


「そこまで!」


 カイラスさんのそんな声が聞こえてきた。


 それと同時に、


「す、すごいじゃないか!」


「まさか、俺たちが負けるとは思わなかったよ!」


「え、そうですか?」


「こう見えてもコンビネーションには自信があったんだが……小柄な少女に負けるとはな!」


「才能あるんじゃないか?」


 べた褒めの嵐。

 ああ、私、ここで死んでもいいかも……!


 そんなことを考えているときだった。


「何をしている?」


 私も聞いたことがある声。

 それは駐屯地入り口のほうから聞こえた。


 まっすぐ歩いてくる足音にその場にいた全員が振り返る。


「ラディ!」


 そこに現れたのは、ラディこと、この騎士団の副団長様だった。


「何をしているんだと聞いている」


「実は、副団長の妹さんが来ていて」


「は?俺の妹だと?」


「こちらです!」


 そう言って、私が前に押し出される。


「「……………」」


 お互い見つめあい、ラディが何やら口を開く。


「こいつは俺の妹じゃ……」


「兄さん黙って!」


「?」


 そう言って、背後に回る。

 そして耳元でささやく。


(ちょっと、話合わせてよ)


(何を言う。お前こそ、さっさと出ていけ)


(いいから、合わせなさい!)


 ちょっとばかり、獣人特有の毛並みを引っ張る。

 ただし、少し本気で……


「っ!?」


 いたそうに表情を若干曇らせる。

 可哀想だけど、しょうがないのだよ……。


「ね?」


 その言葉に私の感情すべてを乗せた。


(いいから、言うことを聞け)


 と……。


「っち、邪魔するんじゃないぞ」


「はい!」


 そう言って、なんとか説得(脅す)することで、その場はいったん落ち着く。


 そして、私は騎士団に来た目的、『伯爵さんの娘さんの居場所を探す』ということを果たすために、行動を始めるのだった。

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