第142話 巡る出会い(獣人君視点)

 どうしてこうなった。


 そう声を大にして言いたい。


「早くきてー!」


「ちょっと……待って……」


 現在の状況を説明しよう。

 僕はさっきまでレイという少女と話をしていたと……。


 それで、なぜか僕が暇つぶし相手に認定されたらしいと……。


 なぜだ?


 元々レイさんはベアトリスさんに会いにきて、オリジナル魔法とやらを見せたかったらしい。


 転移(ちょっとだけ失敗)して、僕の上に落ちてきたわけだがね!


 それはいいとして、ベアトリスがいなかったから何もすることがなくなったなー。


 どうしようかなー。


 あ!


 ここにサンドバック(僕)があるじゃん!


 というわけで、試し打ちできる場所を探しているというわけです。


 あれ?

 僕ってかなりかわいそうな境遇?


 街中に下されて、現在彼女を追いかけている。


 ただし、


「獣人の見た目だと、目立つと思うから、変身魔法かけておくね!」


 と言われ、人間の男の子の見た目に変えられた。

 正直、美男子だったので、ちょっと嬉しい。


 どうしてそんなすごい魔法が使えるの?

 と、聞いたところ、


「ベアトリスに叩き込まれたんだ!」


 と言っていた。

 何やら、空中で落とされたりされたらしい。


 そのおかげもあったか、覚えられたそうだ。


 ベアトリス、なんて恐ろしい子!


 街中を疾走する彼女。

 もちろんのことながら、街中、公爵領の中には人もいるわけで、僕たちの走る姿を『風』だと認識しているようで、「今日は風が強いわね」とか言っている。


 ほんとすみません!


「あれー?ちゃんとついてきてるー?」


「ギリギリ……」


「あはは!頑張ってー!」


 そんな会話をしている最中だった。


「いた!」


「街中をそんな速度で走るな!」


 僕の目に、道の脇から男の子が飛び出してくるのが見えた。

 その子は通り過ぎようとしていたレイさんの頭をチョップする。


「そこのお前もだぞ!」


「あ、すみません!」


 解せぬ。


「もう!痛いじゃない!」


「知るか、周りの迷惑考えろよな。俺ん家だって、洗濯物が飛ばされて困ってんだぞ?」


「うぇ?そうなの?」


「そうだ!だから、もうちょっとゆっくり走れ」


「うぅ、ごめんなさい……」


 レイさんがペコリとお辞儀をする。

 それに倣って僕もお辞儀。


「わかればいいんだ!……そう言えば、お前らどこに住んでるんだ?見かけないけど……」


「あ!私は違う領に住んでるんだ!レイナっていうの!レイって呼んでね?」


「そうか、俺はアレンだ!よろしくな!」


 そう自己紹介をする。

 そして、アレン君がこっちを向き、


(あ、なんて言おうかな?)


 名前を持っていない僕にとって、ここは非常に答えづらい。

 過去の名前を使うか?


 そうすれば……いやいや!でも、なんて言えばいんだ!


 そんな葛藤をしている中で思いついた答えは……


「あ、好きに呼んでください」


「好きに呼ぶ?まあ、名前を教えたくないんだったらいいんだけど……」


 ああ!ごめん!

 僕に名前がないだけなんだ!


 だからそんなに落ち込まないでくれ!

 気強そうな見た目とは裏腹に落ち込んでしまったアレン君を見ていると、こっちが申し訳ない気持ちにさせられる。


 心は大人の騎士。

 子供の泣きそうな顔を見るのは少々心にくるのだ。


「じゃ、じゃあ『レオ』でいいか?」


「へ?なんでレオなの?」


「俺の飼ってる犬の名前」


「はあ!?」


「いやぁ〜だって、お前、どこかしら犬っぽいというか、狼っぽいっていうか?」


 ギクッ!


 なぜバレる?


 なんでだよ!

 そんなにわかりやすいのか!?


 余談だが、


(なんか魔力が一切見えないんだよな〜まるで獣人みたい……)


 という、しっかりした根拠のもと、アレンが名前をつけたとは知らない『レオ』

 だった。


「わ、わかった。それでいいよ……」


「お、ほんとか?じゃあレオ、よろしく!」


「うん……」


 そこでお互いの自己紹介も終わり、道を歩きながら、会話をすることにした。


「で、お前らはなんであんなに大急ぎで走ってたんだ?」


「うん!私の魔法の試し——」


 そう言いかけるレイさんの口を封じて、代わりに僕が答える。


「公爵領には初めてきたものだから、ついはしゃいじゃって!ね!」


「お、おう」


 僕の圧力に若干後退りしながらも、アレンは納得してくれたようだった。


「それにしても、お前らすごい強そうだな!」


「え?ほんと!?ありがとー!」


 レイさんは飛び跳ねて喜ぶ。

 そんなに嬉しいのだろうか?


「あんなに早く走れる奴なんて、俺が見た中じゃ、ベアトリス以来だぜ?」


 ここでも聞かれるベアトリスの名前。

 そんなに有名なのだろうか?


 長らく、山奥の森で暮らしていた僕にとっては新鮮な話題だった。


「ベアトリスさんはそんなに有名なの?」


「あったりめーだ!公爵家長女……公女ベアトリス。王家の血縁者にして、『神童』の二つ名を冠する最年少の英雄!とでも、思っていてくれ」


 なんか予想以上の回答が来てしまった。


(え!?あの人そんなにすごい人だったの!?)


 偉い貴族様の娘なんだろうな、というのはわかっていた。

 だって、屋敷に住んでいたから。


 だけど、王家の血縁って……。

 めちゃめちゃ偉いやん!


 なんで、各地で遊びまわっているわけ!?


「なんで『神童』が定着したかと言えば、やっぱり功績だよな!」


「うんうん!」


 と、友人を褒められて上機嫌になっているレイさん。

 僕はと言えば、未だ理解が追いつかないのだった。


「誘拐事件の解決、犯罪組織の撲滅に、第一王子の暗殺を阻止し、勇者と戦って引き分けて、さらにはスタンピードの解決と、学院の安全移転計画を進める。さっすがベアちゃん!」


 随分とまあ、詳しいようで……。

 それよりもあんなのほほんとした可愛らしい少女がそんなすごそうなことをしていたなんて……。


「俺とも友達になってくれるほど、優しいし、強いしで、俺が一番憧れてんだ!」


「ええ!?ベアちゃんの知り合い……友達だったの!?」


「ああ!俺の唯一自慢できるところだ!」


「私もなんだよ!」


「まじか!とんだ偶然だな!」


 会話が盛り上がりを見せて、その流れで「僕も友達です……」と言ったことで、それはさらなる流れを見せる。


「おお!まじかよ。だったらさ!この三人で魔物狩りに行こうぜ!」


「いいね!」


「どうしてそうなるの!?」


「だって、ベアトリスの強さを間近で見たことあんだろ?だったら、少なからず、真似して体を鍛えるぐらいしたことあるだろ?」


「うぐ……」


 否定しきれないのが否めない。

 ベアトリスのように強くなりたいという思いも確かにあるのだけど……。


 それを認めてしまったら、後で本人にからかわれそうな予感がする……。


「それに、お前らは十分強そうだから、大丈夫だって」


 確かに、アレン君もそんなスピードで走っていたレイさんをチョップしているし、強いのは間違いない。


「よし!そうと決まったら、早速行こうぜ!」


「私も、私もー!」


「あ、ちょっと待ってくださいよ!」


 こうして、僕たちは森の中へ勝手に行くことになったのである。 





















 ——この時は考えてすらいなかった。

 あの場所であんな事件が起こるなんて……。

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