第127話 久しぶりの再会

 とある春の日。

 私、ベアトリスは九歳になった。


 そして、もう数ヶ月で十歳の誕生日となる。

 ここんところ一年間は至って平和に過ごしている。


 獣人君の件に関して言えば、なぜかすんなりオッケーをもらえた。

 それよりも重要なことがあるのだろうか?


 思い詰めて表情を一瞬のぞかせたのを覚えている。

 そんなの私の気にするところではない!


 というわけで、私は獣人君と一緒に暮らすようにした。

 流石に、フォーマも追加でばらしちゃうわけにはいかない。


 彼女だけはこの一年間ばれずに過ごしてきたのだから。

 だからいまだに人がきたら隠れている。


 さすが化け物。

 誰にも悟られることないのだ、この少し狭い部屋でも。


 え?


 貴族の家なんだから、広いだろって?


 ちっちっち……。

 なんと、私の部屋……。


 獣人君と共同で使っているのだよ!

 何が言いたいかと言えば、空いている部屋がないんだよね。


 ってことで、私の部屋に泊まるしかないんだよね。


「なんでですか!?」


 と、本人は嫌そうにしていた。

 泣きそうになったのはいうまでもない。


 そんなに嫌なのか!?と思ったが、そこは違ったらしい。

 うん、まあ思春期入りかけてんのね……。


 私ってば、精神年齢大人もいいところだから見られて恥ずかしいとかそういう感情一切ないのよねー。


 所詮は子供。

 意識することなんてない。


 だから、私は堂々と着替えもできるし、なんならお風呂に一緒に入ることだってできる。


 まあ獣人君はそんなわけにはいかないと、別で入っているのだが……。

 ミサリーは獣人君に激甘で、いつも甘やかしている。


 そんなに好きなのか?

 私の扱いはただのお友達みたいな感じなのに、そんなに獣人が好きなのか?


 命の恩人らしいし、そんぐらい当然と自分を納得させて過ごす日々だった。


 相変わらず、ユーリとフォーマは喧嘩ばっかだし、ミサリーは毎度のように突撃してくるようになり、かなり賑やかだ。


(ここにメアリ母様がいたらな……)


 ううん、違う違う。

 いつかそれを叶えるんだ!


 私は諦めの悪い女だからね。


 というわけで日々模索を続ける日々。

 それと相まって、学院の移動……増設の件と帝国の遠征の件の調査……さらには国王陛下へ報告書を書いたりと、いろいろ忙しかった。


 なので、ターニャに会う時間が作れなかったのだ。


「久々に行くかなー」


 怒ってないといいんだけど……。

 あの『おいら』っ娘はそんな短気な性格をしていないけど、流石に一年以上顔を出さないのはまずいよね。


「ってことで、一緒にきなさい、獣人君」


「どうして僕が!?」


 嘘っぱちなんじゃないかって思うほど驚いた様子を見せる獣人君。


「いいじゃない、減るもんじゃないし」


「いや、確かにそうかもですけど……」


 行くかいかないか迷っている様子。


 だってさ、別に一人で行っても良いんだよ?

 でも、なんていうか久しぶりに来たくせに手土産というか、そういうものがないと相手がなんで思うか、ねー?


 ターニャってば友達少ないらしいし、紹介してあげようと思った次第である。

 ただ、ユーリは連れて行かない。


 フォーマと一緒にいる方が安全だしね。

 獣王国の治安と、フォーマ……どちらを信じるかと言えば、フォーマに決まってるでしょ?


 そういうことである。

 

 というわけで……。 


「いいじゃん!一緒にいこ?ね?」


 しょうがないので、ちょっとぶりっこして、どうにか……!


「うぐ……」


 上目遣いを存分に使い、納得させるのだ!

 私は目つきだけ直せばそれなりに整った顔をしているはずだ。


 自信はないが、目を丸く開いて維持する。


「……わかりましたよ」


「本当?やった!」


 お供、ゲットだぜ!


「いやー!もしこれでもいかないとか言ったら獣人君に嫌がらせしているところだったわー!」


「嫌がらせって……どんな?」


「お風呂入っているところに、私が突撃したり、背中洗いっことか——」


「早く行きましょうか!ね!」


 照れ隠しなのか、早口になる獣人君。

 もちろんそんなことする気はなかったので、これはこれで面白い。


(獣人君はからかいがいがあっていいな)


 今度からは存分にからかうとしよう。

 そう思い、私は転移していくのだった。



 ♦︎♢♦︎♢♦︎



「よし、てんいかんりょ——」


 その瞬間、体に衝撃が走る。


「待ってたぞー!」


 そう言って体が、空中に浮き上がる。

 何が起きた!?


 と思った次の瞬間には地面へ落下した衝撃が伝わる。

 地面と言っても屋・根・だけどね。


「ちょ!?止まって止まってー!」


「お?ごめんごめん!」


 キィィという音がたち、屋根の上から転げ落ちる私の体が減速する。


「あ……止まったぁ……」


「待ってたぞ、ベアトリス!」


 そう言って天を仰いている私の顔を覗き込むのは、私が会いに来た人物だった。


「ターニャ……」


「そうだぞ!遅いから待ちくたびれた!」


「ちょっと、一旦離れてもらっていい?」


 屋根の上、しかもかなり端っこの方で押し倒されている状況。

 側から見たら、ターニャが私を突き落とそうとしているような絵面に見える。


「わかった!」


 そう言って離れるターニャ。

 その後ろから覗くぶっ壊れてしまった屋根のレンガ……。


(誰の家か知らないけど、ごめんなさい!弁償はしないけど……!)


 私は立ち上がり土埃を払い除ける。


「改めて……久しぶりね、ターニャ」


「やっと来た!もうおいらのこと忘れているのかと思ってたんだ」


「そんなわけないじゃない」


 心外である。

 私はそんなひどい女じゃ……。



 〜前世の記憶回想中〜



 ……………。

 なんとも言えない……。


「とにかく今日会えてよかった!一年も待ち続けるのは流石に飽きてきたところだったんだ」


「え?」


「え?」


 もしや……。


「毎日ここにきてたの?私に会うために?」


「当然なのだ!初めてできた人間の“友達“だからな!」


 あ、本当にすみませんでした……。


 こんな良い子を一年も待たせる私は外道ですはい……。


「ごめん……」


「全然平気だよ!それより、早く遊びにいこ!」


 そう言って、私の手をとり、屋根の上に登ろうとする。

 そこで、


「あのー……」


 話しかけづらそうに、獣人君が呟いた。


「む?誰だ!」


 シャー!と警戒し、尻尾を逆立てる。


「あ!ちょっと待って!」


「なんだ?ベアトリス」


「その子、私の知り合いなのよ!」


「知り合い?」


 知り合い知り合い……。

 そう何度も呟きながらバツが悪そうな獣人君と、私の顔を何度も見比べる。


 そして、一度この街の風景を見渡した後、再度私の方に振り返り……。

 何か納得したような声をあげた。


「なるほど、ベアトリスの番つがいってわけね!」


「「断じて違う!」」


 思わずそろって声をあげてしまった。

 ターニャと獣人君の初対面。


 出だしは上々……なのか?

 兎にも角にも、一安心する私だった。

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