第123話 増やす

「これ、いい。欲しい」


「ダメよ、この子はうちのなんだから」


「あの、なんの話ですか?」


 馬車の行き先は私もよく知るところだった。

 公爵領、私のお家である。


 まだ、私の存在は帝国にバレていなかったようで、残りは勇者に任せていいとのこと。


 実を言うと、今回はバリバリのショートカットをしたらしい。

 森の中をかき分け、馬を物凄いスピードで走らせたそうだ。


 それに加え、私と獣人君は約数日間眠りについていた。

 つまり、二週間もかからずに家に帰ることができた。


 で、獣人君に『この後どうするの?』と聞いたところ、『どうせお母さんは無事だろうから、ゆっくりと探しますよ』とのことらしい。


 メアリさんに対しての絶対の信頼感を感じれて、私は嬉しい。

 その後、とりあえず住む場所もないとのことだったので、私の家に連れてきたのだ。


 え?


 お持ち帰り?


 なんだそれ?


 んで、連れ帰ったはいいんだけど、色々とこの獣人君について説明しなくちゃいけない。


 とりあえずは父様に……。

 それと……ヘレナ……母様にも、ね。


 今更気づいた。

 なぜ、ヘレナという女性が私の母親として存在しているのだろうか?


 いや、普通に考えればメアリという女性がいなくなったことで、父様が新たに選んだ女性……言うなれば第二夫人?


 辻褄が会うだろう?

 記憶なくしてたっぽいし、多分そういうことだ。


 再婚相手とでも思えばいいのではないだろうか。

 だとしても、私を愛情深く育ててくれたことには感謝しなくてはならない。


 ありがとう!母様(二人目!)!


「あぅ!」


「もちもち……」


 おっと、現状の説明が遅くなってしまった……。

 連れ帰ったということは、私の家にいる人物とも接触する機会があるということ。


 私の家にはメイドたち使用人や、ヘレナ母様をはじめとする兄様や父様、家族たちがいる。


 もちろん、出会わないように中に入れたのだが、


「ちょっと、フォーマ……そろそろやめたら?」


「いや」


 さっきから隅っこにいるフォーマが獣人君を抱き抱えもちもちフワフワを堪能していやがるのです……。


 いや、別にいいんだ。

 ただし、私は一応傷心中なんだけど?


 その事情はもちろん説明した。

 一応、信頼を置いているフォーマには今回の件について話した。


 ヴェールさんには、冒険者組合に報告しないように口止めをして、この件を知っているのは勇者ことトーヤとオリビア、ヴェールさんパーティメンバーにフォーマ、そして獣人君と私だけである。


 ただ、この態度はおそらく理由あってのことだろう。

 レイナさんみたいに、わざとふざけて気を紛らわせてくれているのだと思う。


 ただ、獣人君には真実を一部話していないので、傷心でもなんでもないのだけれど……。


「いた!フォーマさん!僕の毛を抜かないでください!」


「こういうふさふさなのが欲しかった」


「ちょっとそこいい加減にしなさい!後、ユーリ?あんたも混ざりたいみたいな顔はしないで!」


 真面目に私は今後どうしようか悩んでいるというのに、この三匹といえば呑気なもんだ。


 今私が悩んでいるのは、このまま家出していいのかというもの。

 私が家出をするのは、貴族社会といういつ死んでもおかしくない空間にいるのが嫌だから逃げるというもの。


 そのために体も鍛えた。

 態度も改めて、心機一転して質素な暮らしを堪能する。


 その予定だったのに、色々やらなくちゃいけないことができた。


 どうでもいいような小さなことで言えば、最近ターニャの方に遊びに行けていないこと。


 重要度が高いのは、メアリをどうするかというもの。

 そして、このまま私が家出したとして、果たして安全なのかどうかという問題である。


 いつか真実を話さなくちゃならない時がくる、この獣人君に。

 そんなの嫌だ。


 こんなにも母様に尽くしてくれた、私よりも一緒にいた期間がはるかに長い獣人君に悲しい顔をして欲しくない。


 彼もまた私の認識では家族の一員なのだから。

 だから、私は一旦家で計画を中止することにした。


 そして目標を改める。


(復活魔法を作る!そして、もっともっと強くなってあの黒薔薇?とかいう組織をぶっ潰す!)


 簡単な話だ。

 私が新たな魔法を開発して、メアリさんを蘇らせればいいのだ。


 大賢者さんの本に書いてあった。

 あ、大賢者さんっていうのは、私の愛用している本な作者さんね?


 その大賢者さんによると、『現段階では存在しないが、理論上は可能』とのこと。


 つまり、私だってやれば作れるかもしれないということだ。

 可能性はまだある。


 そしたら、父様、兄様たち、ヘレナ母様、メアリ母様、ユーリに獣人君と私、ついでにフォーマ!


 大家族だ!

 これが理想系。


 貴族社会は確かに危険にいっぱい。

 だが、外の世界の方がもっと危険がいっぱいだと知った今ならわかること。


 家出はやめよう。


 そして、本を読み漁るのだ。

 方法を模索するために……!


「?ベアトリス、なぜ泣いている?」


「泣いてないわよ!」


 いけないいけない。

 メアリ母様のことを考えれば考えるほどに、涙が垂れてくる。


 あの時逃げていれば……と悲観的に考えてしまう。

 でも、そんなの私のキャラじゃないよね。


 絶対に救って見せるんだから。

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