第59話 恥ずか死ぬ

「暇だ!」


 勇者がきてから私の行動範囲がだいぶ狭まった。

 あの男に見つかれば途端に行動が著しく制限される。


 でも、勇者に見つからないようにすると、今度は街に降りられなくなる。

 そして、家の中にいても特にすることがない。


 だから外に出たいのだが、最大の娯楽が揃ってる街には行くことができないため、今現在こういう状況でベットに寝っ転がっているというわけだ。


 不幸中の幸いか、試合は一週間後となっている。

 今から、訓練したところでどうにかなるわけでもないのでね。


 これが、諦めの境地か……。


「森行く?」


 でもそれだけじゃ味気ないよね。

 だったら、どこに行くかな?


 どうせなら行ったことないような、場所に行きたいよね。

 こないだみたいに吸血鬼の国には行きたくない。


 あそこは純粋に怖いから……。

 ってなわけで、選択肢は二つになったのである!


 西の獣王国


 東の帝国(かなり遠い)


 南は普通に王都方面なので、除外するとして、このどっちに行くかだよね。

 獣王国めっちゃ行ってみたい!


 だって、あれだよ?

 人化した動物さんたちがたくさんいるんだよ?


 それ、なんていう天国なの?

 もふもふやないかい!


 ユーリだけでは物足りないのだ!

 っていうか、そもそもユーリは体が小さいから抱きついても触れ合い度合い足らないよね。


 ね!?


 んで、東の帝国に行けば、偵察にはなるかな。

 将来的に敵対する可能性がある国に出向くというのはある意味ではお国のためになるのだ。


 だが、国交という問題があるので、私が王国の人間だとわかれば、不法侵入で捕まってしまう……。


「ってなわけで、私は獣王国にゆく!」


 いや、普通そうするでしょ?

 だって、わざわざ特に興味のない国に行くよりも、天国へ向かう方がいいでしょ?


 きっとみんなも天国へ行け!と思ってるはずだ!


「知らんけど!」



 ♦︎♢♦︎♢♦︎



 私は近くの森まで転移してきた。

 前回ユーリと出会ったときに座標は計算してあったので、普通に割り出せた。


「ようし!早く見に行くんだ!」


 一応見つかるとアレなので、不可視化の魔法をかけておく。

 森を抜けて、その先に見えたのは王国の王都のようにきれいな宮だった。


「これはまあ、予想通りだよね」


 重要なのはそこじゃないんだよ!

 外観とかは説明しない!


 多分誰も求めてないから!

 だから、私は説明せずに速攻で駆けていく。


「おらぁ!」


 気合を込めて門を飛び越える。

 その中には当たり前だが、街が広がっている。


 それよりも私の目を引いたのはいうまでもなくそこの住人だった。


「ふおぉぉぉ!」


 絶対に他人が見たら、私の目はキラキラと輝いているだろう。

 もしかしたらハート型になってるかも?


「きゃあぁぁ!可愛いぃぃ!」


 いや、あのね?

 悪くたんびに尻尾揺れてて可愛いのなんのって話よね。


 今見ていたのって、普通に一般人だよね。

 仕事何をしているのかとっても気になる体躯をしていた。


(獣人って、みんな体が大きいのかな?)


 でも、中には普通の人間とそう変わらないような標準的な体の人もいた。


「こんなに可愛いのに、前世では滅亡したなんて……」


 今日、今この瞬間から私、吸血鬼が嫌いになったわ。


(服装もだいぶ違うけど、尻尾だしスタイルはみんな一緒なんだ)


 ありがたや〜ありがたや。


「んもう、まじかわなんだが?」


 もはや、ケモノの時代だよね。


 私と同い年くらいの子供なんかはしゃぎまくってて愛らしいよね。

 私ってば中身おばさん(十代)だから、どうしても優しい目で見守る精神が抜けきれない。


「眼福ってこういうことを言うんだね」


 耳可愛いし、全体像がキュート!


(今思ったんだけど、獣人にも種類があるのね)


 全身が毛に覆われている人もいれば、人間の見た目に、耳と尻尾が生えただけのような人もいる。

 そこで、思い出したのは前世の記憶。


「そう言えば、前世で反乱があったような……」


 思い出すは、“野生派“と“理性派“と言う派閥の対立で起こった反乱だ。

 結果としては理性派は負け、それを支持していた獣王……今世で現在も王を務めている方が亡くなられたっけ。


 私がそんな呟きをしたときだった。


「前世ってなに?」


「!?」


 屋根の上に鎮座していたせいか、いきなり後ろを振り返ろうとするとこけてしまった。


「あ……」


「大丈夫!?」


 屋根の上で、何かが私の腕を掴む。


「あ、うん」


「それはよかった!」


 みるとそこには、同じ歳くらいの女の子?がいた。


「人間を見るの、おいら初めてだよ!」


「お、おい?」


 私もおいらって言う人初めて見たわ。

 でも、今は気にしてる場合じゃない。


(これって、もしかしてまずい状況?)


「あの、なんで私が見えるの?」


「なんでって?普通に見えるよ?猫は目がいいんだ!」


「猫は目がいいって……アレンみたいな感じか……」


 アレンって魔力の流れが読み取れるんだよね。

 それと似たような感じで、猫は魔力が目で視えるってことかな?


 それなら、私の体を覆う、不可視の魔力も透き通っているように見えるってことだと思う。


「で、で!何をしていたんだ、人間!」


「人間じゃないわ、ベアトリスよ」


「なんだか、上品そうな喋り方だなぁ、おいらそう言うの難しいと苦手なんだ」


「これが通常運転なんだが?」


「そっち喋り方の方がいい!」


「だからどっちも一緒だって!」


 助けてくれた人に対して逆ギレしてるのは、自分でもちょっとどうかと思うけど、そこはどうか目を瞑って欲しい……。


「別に何かしていたってわけじゃないよ」


「ウッソだぁ!街ゆく人をすごい目で見てたじゃん!」


「な!?見てたの!?」


「当たり前だな!おいらはずっとベアトリスを観察していたからな!」


 く!


 一生の不覚とはまさにこのこと。


「こう言うときは逃げ切るが勝ち!」


「えぇ〜!もっと話そうよ〜!」


「じゃあ、またきてあげるから!………名前なんだっけ」


「ターニャ!」


「そ、ターニャも私のあの顔は忘れてね!?」


「そんなこと?全然いいよ!これで話し相手ができたぞ!わーい!」


 元気がいいなこの子は……。


「と、とりあえず!私は帰るから、もし、会いたかったら、ここにいなさい!」


「オッケー!明日もここにいようかな!」


「あ、明日!?まあ、いいけど」


 そう言って私は転移する。


 もちろん、行き先はベットの中。


「………。あぁ、死にたい」


 誰か私を殺してくれ……。


 いっそのこと、殿下でいいから私を殺してくれ……。

 その日、一日はずっとベットの中で過ごすことになったのは言うまでもない。

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