ハイオーク討伐

「よし、着いたな」


「はあはあ……天宮さん速すぎだよぉ……」


「はあはあ……本当に……速い……はあはあ……」


「……もう……無理」


「いや、ごめん。つい楽しくなっちゃって」


 久しぶりにあんなになにも考えずに走ったから気持ち良くなってしまった。

 まあ……


「とりあえず休憩するか」


「うん……」


「さ、賛成……です……」


「……」


 三人とも相当体力を消耗してしまっているようで地面に座り込んでしまう。


 ……俺の走る速度には追いついていなかったとはいえ、あれだけ俺に追いつこうと走ったんだから、ステータスが上がってても息切れはするか。


 まあ、原因は俺なんだけど、後悔も反省もありません!楽しかったです!


「はい、水」


 俺はアイテムボックスの中から水の入ったペットボトルを取り出して、三人に手渡す。


「あ、ありがとう……」


「ありがとうございます」


「感謝。喉カラッカラ。いただきます」


 三人は水を勢いよくグビッグビッと飲んでいく。


 かなり喉が乾いていたんだろう。ペットボトルの中に入っていた水はあっという間に無くなった。


「ふぅー、生き返ったよぉ……」


「はい……とても美味しかったです」


「砂漠の中のオアシス。美味しかった」


 座り込んで水を飲んだ三人は元気を取り戻したのか、笑顔を浮かべている。


「それじゃあ、少し休んでからハイオークに挑むぞ。今のうちに聞きたいことがあったら聞いといてくれよ」


「う~ん……あ!天宮さんってさ、今レベルどれぐらいなの!?」


 凛が突然立ち上がり俺に向かって聞いてくる。

 そういえば言ってなかったっけ?


 まあ--


「な・い・しょ♪」


 --教えないんだけど。


 だってこの前まで、この巌窟のダンジョンに潜ってたのに、今のとんでもなくレベルアップしてるんだから絶対におかしいって思われてしまう。



「えー!?」


「まあ、みんなにはユニークスキルを教えてもらったし、俺のユニークスキルについて教えてあげるよ」


 まあ、ユニークスキルについてなら良いだろ。

 というか教えてあげないと俺だけユニークスキルを聞き出して、逆に俺は教えないクズ野郎になっちゃう。


 それに、先に俺が【魔法矢】について教えれば、勝手に三人ともユニークスキルは一つだけって勘違いしてくれるだろうしな。


 そうすれば俺がユニークスキルを二つ持っているなんて思いもしない。

 ……クックックッ。我ながら完璧な計画だ。


「え!?ユニークスキル!?天宮さんも持ってたの!?」


「これが驚きなことに実は持ってるんだよ」


「き、気になります」


「教えて」


 俺がユニークスキルについて教えると言ったら、三人は目を輝かせて俺に迫ってきた。


 お、おう……そこまで期待されるとちょっと恥ずかしい。

 そして、同時に誤魔化すためにユニークスキルを教えようとしたことに罪悪感が……


「お、おう。俺のユニークスキルは、【魔法矢】って言って、MPを消費して魔法の矢を出現させるスキルだよ。ちなみに、作った矢の攻撃力は精神力のステータスによって変わるんだ」


 俺がそういうと、三人は驚いた表情をして固まってしまった。


「どうした?」


「ちょ、ちょっと待ってください!矢ですか!?天宮さんって短剣を使ってましたよね!?」


「そ、それなのに矢ってことは弓も使うんですか?」


「ぶっ壊れてる」


 次々と俺の【魔法矢】についての感想や質問が俺にとんでくる。


「いやまあ確かに、弓は使う。というか弓がメインだな。短剣はサブ武器だよ近づかれた時のためのな」


 まあ、最近は近づかれることはないから単純に近接戦闘用の武器になってるけど。


「はえ~やっぱりレベルが高いといろんなことができるようになるんですね~」


「まあな。でも三人ならすぐ同じようなことができるさ」


 これは本心で思っていることだ。


 レベルさえ上げればすぐにできるようになるはず。

 今の時点でも三人は技術は高いからな。

 これにスキルとレベルが追いついたらかなり強くなるはずだ。


「う~!よし!休憩終わり!莉奈!杏樹!天宮さん!早く行こう!」


「う、うん!」


「了解」


「ほいよ」


 こうして休憩を終えた俺たち四人は、ハイオークを倒すためボス部屋へと入る。


 その頃には凛達三人は、休憩は充分とばかりに元気を取り戻していた。


 ……回復早くない?


 そして、最後尾の俺がボス部屋に入ると、いつも通りボス部屋の扉が閉まる。

 そして、白くもなんともない、いつも通りの普通のハイオークが部屋の中央に姿を現した。


「グオオォォオ!!」


 ハイオークは雄叫びを上げて俺達を睨みつける。


「よし!行くよ!」


「はい!」


「オーケー」


 ハイオークは、一番最初に攻撃を仕掛けてきた凛にターゲットを絞ったようで、棍棒を構えて凛に向かって突進していく。


「はあぁぁあああ!!!」


 凛はハイオークの攻撃に対して、腰を落として片手剣を横薙ぎに振るう。

 ハイオークはその攻撃を棍棒で受け止め、攻撃の威力を殺すように斜め後ろへ跳ぶ。

 凛の攻撃を受け止めたハイオークは、少し後ろに下がっただけでダメージはほとんど無いように見える。


「ここ」


 そして、その隙をついて杏樹が、ハイオークの背後に回り込み、短剣を逆手に持って、心臓部に向かって突きを放つ。


 しかし、ハイオークはそれに気づいていたのか、一歩動いて短剣を避ける。


「グルアァァア!!」


 そして、そのまま遠心力を利用して、裏拳のようなものを杏樹に放つ。


「くっ……!」


 杏樹は自分で吹き飛ばされる方に飛んだらしく、何回か空中で回転して勢いを殺して地面に着地する。


「杏樹ちゃん!」


 そこにすかさず莉奈から光が杏樹に向かって飛んでいき、杏樹に当たると杏樹の体が淡く光り始めた。


「ん。莉奈ありがとう」


「気にしないで!私は今回、回復に専念するから攻撃はよろしくね!」


「任せて」


 そんな会話をしているうちに、今度はハイオークが凛に向けて棍棒を振り下ろす。


「せいっ!!」


 それに対して凛は、振り下ろされた棍棒を避けて、ハイオークの腕を切りつける。

 だけど、できた傷は浅く、あまり大きな傷ではない。


「あー!もう固すぎ!」


 凛がそう叫ぶと、いつの間にか背後に移動していた杏樹が、短剣で何度もハイオークの背中を突き刺していた。


「えい」


 そして、杏樹が短剣を引き抜くと、そこから血が溢れ出てくる。


「グ、グアァ……」


 それでやっと痛みを感じたらしく、ハイオークは苦悶の声を上げる。

 だが、【鑑定】でハイオークのHPを見ても、ここまでの戦闘で、HP2000ある中の60しか削れていなかった。


「……ダメ、全然効いてない」


「でも一応効いてるよね?だったら攻めきるだけだよ!」


 凛はそういうと、いつもと違う突きに特化したような構えを見せる。

 お?ついに使うか?ユニークスキルを。


「いくよ!神速!」


 凛がそういうと、凛の身体中が薄く発光し、次の瞬間にはハイオークの背後まで移動していた。

 速いな。


「はあっ!!」


 そして、先ほどと同じように剣を振るう。


 その剣を振る速度とハイオークまで近づいた速さは今までの比にならないくらい速く、ハイオークは反応すらできずに背中に傷を作り、横っ腹に傷をつけられる。


「グ、ガァッ……」


「まだまだ!!」


 凛はさらに動き回りながら剣を振るい続け、どんどんハイオークの体に切り傷が増えていく。


 それに対して、ハイオークはなんとか反撃しようと、棍棒で攻撃するが、それも難なくリンは避ける。


「私も忘れないで」


 そして、その隙に杏樹がまた短剣でハイオークを斬りつけた。

 斬りつけた場所は足の腱。


 足の腱を斬られたハイオークはバランスを崩してしまい、膝をつく。


「あそこまで凛に翻弄ほんろうされてたなら、私でも簡単にあなたの弱点を狙える」


 確かに杏樹が言う通り、ハイオークは完全に翻弄されていて、凛と杏樹が交互にハイオークを攻撃していた。


 そして、とうとうハイオークが立っていることが出来なくなり、四つん這いになる。


「これで終わりだぁ!!!」


 凛はハイオークの後ろに一瞬にして回り込んで、剣を両手に握り直して背中から思いっきり剣をハイオークに突き刺す。


「グ…………ァ」


 そして、剣を突き刺されたハイオークは、小さく声を上げた後、前のめりに倒れてそのまま動かなくなった。


「~ッ!やったー!勝った!勝ったよ!莉奈!杏樹!」


 凛はハイオークの体から剣を抜き取ると、嬉しそうにその場で飛び跳ねる。


「や、やったね杏樹ちゃん!」


「ん。お疲れ様」


 莉奈と杏樹はハイタッチをして喜んでいる。


 うん、本当によく頑張ったな。


 それにしても、ハイオーク相手にここまで圧倒するか。

 やっぱりユニークスキルっていうのは俺のも含めてだけどぶっ壊れてるな。


 だけど、これで凛達がEランクダンジョンを攻略できることがわかった。

 だから俺はまたレベル上げの日々に戻る。少し寂しくもあるけどこれまでも同じような経験をしたんだ。我慢するさ。


 あとは地上に帰って凛達がEランクダンジョンの攻略を成功させたことのお祝いでもしよう。


「だから……なんのようかな?彼女達はボスを討伐したばかりで疲れてるんだ用件があるなら手短に頼むよ。お三方?」


 開いた扉の方を向きながら、扉から入ってきた三人に問いかける。


 その三人は男性で、二人は一週間前にもこのダンジョンで見た全身黒ずくめの怪しい二人組。


 この二人はまだマナー違反なだけだ。

 ボス討伐してたパーティーがいるなか、出てくるのを待たずに入ってくるのは、気づかずに入ってきてしまうこともあるし仕方ない。


 だけど、最後の一人。そこが問題だった。


 最後の一人は、魔犬のダンジョンの監視者オブザーバーで現在も謹慎中のはずの男。

 多賀谷だった。

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