52. 異能なんて必要なかった

 疑いをかけられたからといって、動揺してはいけない。ただ、鎌を掛けているだけかもしれないからな。


「どういう理由で俺を人狼だと思ったんだ? もちろん、俺は人狼じゃないが」

「いつも言ってるけど、兄さんはわかりやすいんだよ。声を聞けば何を考えているか、だいたい分かるよ。ロッテが歌を歌ったときも自分に効果がなかったから魔歌なのか判断できなかったでしょ? そのせいで、ミュゼ様たちへと疑いを向けるのがちょっと遅れたよね。自分が村人だったら、そんなことないだろうから、兄さんは人狼だね。あと、そのときにヒイロ君の名前も挙げなかったから、ヒイロ君も怪しいかな」


 冷静に理由を問うたら、早口で解説されてしまった。しかも、かなり鋭い。


 まさか心を読まれたのか?


 さすがにネット越しで心を読むことはできないらしいが、配信部屋は別々といえども、同じ家に住んでいるのだ。こっそりと扉を開けて俺を盗み見ることもできなくはないだろう。不安になって、振り返ってみるものの、扉は閉まったままだった。


「兄さん、今、振り返ったでしょ? 本当に、兄さんはわかりやすいね」


 完全に読まれている……!


 静奈の読心能力を知ってから、あいつの洞察力は能力由来のものだと思っていたのだが、そうではなかったようだ。

 そういえば、静奈は九鬼君の「誰かの助けになりたい」という考えも読んでいた。だが、九鬼君は魔王に匹敵する強さの持ち主。本人の自己申告ではあるが、静奈の読心が通用しない相手なのだ。つまり、静奈は超常的な能力に頼らずとも、十分な洞察力があるということ。その洞察力が、今、遺憾なく発揮されているわけだ。


 だからといって、素直に認めるわけもないのだが。静奈の洞察力が本物だったとしても、その主張が本物かどうかはまた別の話だからな。


「そういって俺を人狼に仕立て上げようとしているのか? むしろ、シズクが怪しいな。人狼か、さもなくば狂人だろう」

「まあ兄さんの立場だとそう言うよね。だから、私と兄さんの両方を処刑すればいいよ。今回は人狼が二人だから、一人減ったら村人側が断然有利になるから」


 さて、困ったことになった。静奈の言うとおり、村人一人と引き替えに人狼を葬りされるのならかなり有利なのだ。だからといって、逃げ出すのはまずい。静奈の言葉の信憑性を高めてしまう。そうなれば、九鬼君までが人狼認定されてしまうだろう。


「なるほど、二人の主張はわかった。だが、どちらも主観でしかない。もし、どちらも村人だったら村人陣営には痛手だ。ここでの処刑はやめておいた方がいいと思うが、みんなはどう思う?」


 どう立ち回るか悩んでいたところに、リーラさんの提案があった。


「うーん。たしかにルリカちゃんの言うとおりかな? シズクちゃんの言葉には説得力があったけど、客観的な証拠はないんだしね」

「そうね。私も賛成。ただ、二人は人狼の疑いが掛けられているわけだから、魔物退治は別の人でやるってことでどう?」

「……いいと思います!」


 パック君、キリカさん、シャオさんも同意する。この提案のおかげで、どうにか生きながらえることができそうだ。だが、状況は依然として不利。俺は人狼として疑われているので迂闊には動けない。


「……さすがに、司令は人狼じゃないよね? じゃないと、私の歌、パックとキリカにしか通用しないってことになっちゃうんだけど……」


 ロッテさんだけは願望混じりで、俺を村人寄りに見ているようだが……さすがに厳しいだろうな。幸いなことに、九鬼君はそれほどマークされていないので、彼に頑張ってもらうことになる。


 その後も、人狼側には厳しい展開が続いた。夜間の間は比較的自由に動けるとはいえ、俺がほとんど身動きがとれなかったのが痛い。九鬼君がこっそりと完成させた人狼武器で夜間に奇襲を掛けてミュゼさんとパック君を暗殺したが、人狼側の活躍はそれくらいだった。


 ちなみに狂人はリーラさんだったらしい。彼女はさりげなく九鬼君を援助していたようだが、形勢を覆すには至らず、村の強化が最終段階に至ったことで人狼の敗北が決まった。




「シズクちゃん、強すぎるよ!」

「百鬼司令の判別率が100%だからな」

「兄さんに関してはデータも十分だからね。複雑な内容ならともかく、人狼か村人かの二択なら、かなりの確率で当てられると思うよ」

「……後半は司令以外も言い当ててましたよ」

「しかも、魔法ではないから、ブラフだとしても魔力で判別ができないですからね」


 その後も数ゲームしたが、静奈が圧倒的な強さを発揮した。俺が人狼の場合、確実に静奈に言い当てられてしまう。後半は他のメンバーの癖も掴んできたのか、俺以外に対してもかなり精度の高い人狼判別ができるようになっていた。まさに無双状態だ。


「うぅ……私が大活躍する予定だったのに……」


 人狼判別に関してはほぼ下位互換となってしまったロッテさんは悔しがっていた。俺からすればどちらもとんでもない能力なんだがなぁ。


 何にせよ、人狼村コラボは波乱がありながらも終了した。ちょっと視聴者の反応を確認するのが怖い気もするが、登録者が伸び悩んでいた静奈が活躍する展開となったのは、個人的にはよかったと思っている。


 ただ、ちょっと気になることもあった。今回のコラボではミュゼさんの口数が少なかったのだ。話を振れば普通に受け答えはするし、特に不機嫌そうな様子もなかった。とはいえ、いつもに比べると大人しめだった印象は否めない。


 今回は大人数用のゲームということで、あまり選択肢がなかったが、ミュゼさん向けのゲームでなかったのは確かだ。人数が増えるとメンバー全員に合わせるというのは難しいが、もうちょっとみんなで楽しめる企画を考える必要があるかもしれないなぁ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る