39. 異世界帰りのVTuber?
「えらく溜まってるなぁ……」
Webブラウザで匿名ボックスの受信箱を開いたところで、思わずそんな呟きが漏れた。
大量のメッセージが届いているが、どれもがまともな内容かというとそういうわけでもない。罵詈雑言の類いは弾いてくれるが、そうでなければ意味不明な内容でも残るからだ。
匿名メッセージが急増している理由はわかっている。数日前にやったコラボ配信の影響だ。あの配信以来、中二病関連のメッセージがよく届くのだ。大抵は、俺が過去に残したとされる中二病台詞を擦ってくる内容。悪気があるのかないのか、それはわからないが、初めは少々精神に響いた。とはいえ、それだけ反応があるということは視聴数も伸びるということ。そう考えれば悪いことばかりでもない。それに配信コメントでもさんざんと煽られているので、かなり慣れた。どうやら、また新しい精神耐性を獲得してしまったようだ。
まあ、面白がって擦ってくる人達については理解できなくはないのだが、わからないのは自作の中二病台詞を送ってくる人達だ。どれも大作ばかりだが……これをどうしろというのか。まさか、配信中に使えとでも言うのだろうか。
そういえば、百鬼ナイトウォークのロールプレイ中はちょっと中二病の影がちらつくとかいうコメントをどこかで見たな。まさか、本当にそういう意図なのか……?
まあロールプレイは仕事だと思っているから、中二病台詞を使ってもそこまで恥ずかしくはない。どこかで使ってみるのもいいかもしれないな。
そんな中、ちょっとだけ異質なメッセージがあった。
『無理を承知でお願いします。百鬼司令は
こんなメッセージが届く理由はなんとなく想像がつく。
俺は配信上で、他のVTuberが困っていたり、おかしなことがあったら伝えてくれと言っている。実際、何度かコメントやメッセージを見て、配信中に通話でアドバイスを送ったりしているからな。とはいえ、それはインベーダーズ所属のVTuberに限っての話だ。
「さすがに余所のVTuberに干渉するわけにはいかんしなぁ。する理由もないし」
もちろん、メッセージの送信主も理解はしているはずだ。無理を承知でと前置きしているからな。
「聖刃ヒイロか。どんなVTuberだろうか。聞いたことはないけど……」
少し気になって調べてみると、結構有名な男性個人VTuberであることがわかった。チャンネル登録者数は20万人超。俺たちも突破は目前だが、個人勢でこの登録者数はすごい。
干渉する気はないが、そんな有名なVTuberに何があったのか。気になったので、少し調べてみることにした。
俺が知らなかっただけで、聖刃ヒイロの豹変はVTuber界隈で一時騒ぎになっていたらしい。豹変前後の様子とその理由を本人が語る切り抜き動画があったので、それを見てみることにした。
動画を見ればたしかに性格が激変している。元々は陽気なキャラクターだったのだが、ある時期を境に陰気な性格へと変わってしまったようだ。その理由は……なんと異世界転移らしい。転移した異世界で取り返しのつかない過ちをしてしまった、というのが彼の主張だ。
それに対しては『お前は元々異世界人という設定だろ』というコメントが多数つけられている。当然だが、妄言と見なされているようだ。
だが、果たして本当にそうだろうか。リーラさんのような異世界人もいるんだ。聖刃ヒイロが異世界帰りだとしても、おかしくはない。
ここまで調べて、俺は彼のことが気になり始めた。
当たり前だが、彼の精神ケアをしたいというわけじゃない。彼が犯した過ちというのがどんなものなのかは知らないが、それは自分で乗り越え償うべき問題だろう。
俺が考えているのはただ一つ。彼をインベーダーズにスカウトできないだろうか。異世界帰りというなら、少しくらい異形な姿を見たところで取り乱したりはしないだろう。まさに、インベーダーズにぴったりな人材だ。
もちろん、インベーダーズのタレントになってくれるなら、その精神ケアは俺の役割だ。何ができるかはわからないが、話し相手になってあげるくらいはできるだろう。
早速、コンタクトをとりたいところだが……交渉は相手のことを知っておいた方が有利だ。自分で調べるのもいいが、我が家にはVTuber好きがいるわけだし、まずは話を聞いてみようか。
翌朝、VTuber通の静奈に聞いてみる。
「静奈、聖刃ヒイロってVTuberについて、知ってるか?」
「うん、知ってるよ。最近性格が激変したって話題になってたよね……」
「詳しいのか?」
「詳しいっていうか……たぶん、私の高校の先輩なんだよね」
「……え?」
なんだか、思いもよらない展開になったぞ。
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