13. 人材不足

 自分のVTuberデビューについてはある程度納得した。収益に釣られたとも言う。


 とはいえ、問題がないわけではない。やはり、どうしても人手が足りなくなるだろう。これは俺がVTuber活動を始めなかったとしても、だ。もうじき、第一陣がデビューする。そうなれば雑務は今の比ではないほど増えるだろう。ゲーム配信をするにしても、権利関係の調査があったりと意外と大変なのだ。


「やはり、従業員はもう少し増やした方がいいと思います。社長がその姿で面接をすれば、多少は入社希望者が増えるのでは?」


 いきなり三ツ目と対面するインパクトはデカいからな。他の――例えばシャオさんあたりなら、そこまで恐ろしさを感じないはず。少しずつ慣らしていけば、インベーダーズでも問題なく働けるだろう。


 そう思っての提案だったが、山本社長は首を横に振る。


「いやいや。我が面接は、いわばふるいなのだ。我が社で働く以上、様々な種族と会うことになるだろう。その中には繊細な心の持ち主もいる。万一不埒者を雇い入れて、その者らを傷つけることになるのは避けたい」


 たしかになぁ。目の前で化け物扱いされれば傷つく人もいるはず。そういう意味では必要なことなのかもしれない。


「ですが、面接した全員が入社を決めるわけではないですよね? 面接で落ちた人は会社の秘密を知ってしまうことになりますが」


 インベーダーズは給与面でいえば間違いなく優良企業だ。社員になった人なら、待遇を維持するためにも会社の秘密を積極的に流すことはないはず。うん、誰だってそうだ。俺が金に釣られやすいだけじゃないよね?


 まあ、それはともかく。好待遇が多少の抑止力になるのは間違いないだろう。だが、面接に落ちた人間が会社の存続なんて気にはしないはず。むしろ、自分の恐怖体験を積極的に流布する可能性がある。それについてはどう考えているのか。


「なに心配いらない。ここで見たものは全て忘れてもらっているのでね。彼らは、ただ当たり障りのない面接の結果、不採用になったと認識していることだろう」


 そう言ながら山本社長が視線を余所に向けた。釣られてそちらを見ると、その先にいるのは美嶋さん。俺の視線に気がつくと、彼女はニコリと微笑んだ。


「こちらの世界には、柿崎さんほど精神抵抗が高い方は滅多にいませんので」


 ……なるほど、ここでも美嶋さんの暗示か。強めに掛ければ記憶のねつ造もできるとは。


「いやあ、しかし想定が甘かったね。もう少しくらい入社してくれる者がいると思ったのだが……。数十人と面接して、入社してくれたのは君くらいだからね」

「そうなんですか?」


 たしかに面食らったし、最初は断って帰ろうと思った。だが、その考えをくつがえすほど給与面が魅力的だったのだ。それに、話してみれば悪い人たちではないことはすぐにわかる。もちろん、社長の姿をどうしても受けられない人間はいるだろう。それにしても、俺以外が全滅とは。 


「納得がいかないかね? 君は、自分で思っている以上に特異な人間だということだ。何せ、面接を受けにきた者のほとんどは、目が合うなり気絶したり、ガタガタと震えて話ができなかったからな」

「ええ、本当に大変でしたね……」


 二人して遠い目をしている。何十人と面接して、話すらできなかったら、徒労感が凄いだろうからな。


「柿崎君がきっぱりと断りの言葉を口にしたときに、我は思ったよ。こいつは逃がすな、と」

「私もあれほど強固に扉封じの魔法を使ったのは初めてかもしれません」


 な、なるほど。最初に断った時点で完全にロックオンされてたわけか。というか、合格基準が『入社を断れること』って、どんな面接だよ。


「まあ、そんなわけで君には期待しているんだ。追加の人員はしばらく確保できそうにないから、なおさらね」


 ……あ、そうか!

 これからも同じ面接を続けるのなら、数十人に一人しか合格者が出ない可能性がある。つまり、人手不足はいつまで立っても解消されないってことだ。


「いや、さすがに困りますよ! 俺がVTuber配信まですることになれば、どうやったって人手が足りません」

「あっはっは……。まあ善処はしよう」


 なんてこった。人材不足で立ち上げに失敗すれば、最悪の場合、会社を畳むことになる。そうなれば俺の給料もパァだ。なんとしても、人材を見つけてもらわなければ!


「心当たりはないんですか?」

「精神抵抗の高い方は、その親族も同様の傾向が見られるらしいですよ」

「そういえば、柿崎君には妹がいたのではないかね?」

「……ええ、いますね。大学に進学するでしょうから、まだまだ就職は早いですけど。話は戻しますが、すぐに働ける・・・・・・人材が欲しいですよね」


 さすがに魑魅魍魎が跋扈するVTuber事務所に静奈を巻き込むつもりはない。露骨な話題逸らしに山本社長は苦笑いを浮かべたが、これ以上追及してくることはなさそうだ。


「まあ、いいさ。その分、君に働いてもらうからね。追加の人員は……そうだな。タレントとしての活動が決まっていない者の中から、事務作業の適性があるものを探すか。……いただろうか?」

「どうでしょうね……」


 一応は、インベーダーズ所属の人員を事務作業に回してくれるようだ。パソさんみたいな逸材がいればいいんだが……社長たちの反応を見ると望み薄だなぁ。

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