11. 謎の四人目
インベーダーズに入社して一月が経過した。VTuberデビューの計画は一応は進んでいる。モデルの納品は終わったし、近々、第一陣のビジュアルを公開するという話だ。WonderTubeへのチャンネル登録は終わっているし、情報発信用にSNSの「ツイツイ」のアカウントも作った。
今日の仕事は事務作業だ。作業中、机に置きっ放しにしていたスマホが鳴った。ちらりと視線をやると、メッセージアプリの通知だ。業務用に預かっているスマホなので、仕事関連の連絡だろう。
アプリを立ち上げて確認する。メッセージの送り主はシャオさんだ。まあ、美嶋さんからの業務連絡を除けば、今のところメッセージアプリでやり取りをするのはほとんどシャオさんだけなんだが。技術班として出社しているリーラさんとは用事があれば直接話すし、ミュゼさんからの連絡はあいかわらず蝙蝠君が頑張ってくれているから。
シャオさんからのメッセージは絵文字で飾られているものの、内容自体はシンプル。簡潔にまとめれば、「これから一緒にがんばりましょう」という内容だった。
……え、今更?
初対面から一ヶ月が経過しているし、事務所で何度か会っている。メッセージアプリでのやり取りだって、それなりにあった。それなのに、このタイミングで?
よくわからず、「そうですね。よろしくお願いします」と無難に返事をした。
マネージャー業務はタレントの事情に合わせて勤務時間が大きく変動するので、俺は裁量労働制という形で雇われている。すごくざっくりした説明をするなら、勤務時間によらず給料が一定という業務形態だ。長時間働いても残業代は出ない。逆に言えば、サボっていても給料は出るわけだが、まあ普通はクビになるな。
今日は特に急ぎの仕事もない。午後五時ごろ退社しようとしたところで、偶然にもリーラさんと遭遇した。
「ああ、柿崎さん。もう見たか?」
「え? 何をです?」
「……その様子ではまだみたいだな。まあ、
リーラさんは意味深長な言葉を吐いて去って行った。わけがわからず首を捻るが……考えても答えは出ない。大事なことなら濁さずに伝えるだろうと思い、とりあえず帰宅することにした。
残業もなく帰宅できたので、夕食は静奈と一緒に食べる。
「あ、そうだ。ついにビジュアルが公開されたんだね?」
「ん? 何の話だ?」
「インベーダーズの第一陣のビジュアルだよ!」
「お? そうなのか?」
近々とは聞いていたが、今日だったか。後で確認しておこう。
「悪の組織の四人グループなんだね~」
「そうそう……え?」
第一陣のコンセプトは悪の組織。悪魔とヴァンパイアはともかく、魔法少女は悪の組織の一味としてふさわしいかどうかちょっと疑問なんだが……まあ、そういうことになった。だが、メンバーが四人という話は聞いていない。残りの一人はどこから来た?
「四人? 三人じゃなくて?」
「そうだよ。何で兄さんが知らないの?」
それは俺が知りたい。とりあえず、暢気に食べている場合ではなくなったので、夕食中に行儀は悪いがスマホで確認させてもらう。
「ほらね、四人でしょ?」
「ああ……」
静奈に教えてもらったウェブページには、インベーダーズ第一陣として四人のVTuberのビジュアルが公開されていた。悪魔の
最後の一人は、鋼の精神を持つ悪の司令――
……誰だ?
ビジュアルは、軍服を着た鬼族の青年将校といったところだ。事務所の方針からいえば、演じるタレントも鬼だと思うが。少なくとも、俺の知り合いに鬼はいない。鬼以外なら男性の知り合いは数人できたが、誰も第一陣でデビューするなんて話はしていなかったはずだ。
そんなとき、業務用のスマホが鳴った。音からすると、メッセージアプリの通知だな。送信者はなんと……ミュゼさん!
ついにミュゼさんもスマホアプリを使いこなせるようになったのか、とちょっと感動してしまうな。タイムラインを覗くと「みたぞ」とひらがな三文字のあとにスタンプ連打だ。スタンプは「うれしい!」と「よろしく!」のニュアンスだろうか。
んー?
「みたぞ」はおそらく「見たぞ」だと思うんだが、何を見たんだ。もしかして、ビジュアル公開のウェブページか? そういえばリーラさんも「もう見たか?」と聞いていたな。あれも、このことだろうか。
考えていると、さらに新着メッセージが届いた。今度の送信者は美嶋さんだ。ビジュアル公開の連絡かと思って開くと、その推測は概ね間違いではなかった。最後の一文を除いては。
メッセージの末尾にはこう記されていたのだ。「なお、百鬼ナイトウォークに関しては柿崎さんに演じてもらいますので」と。
なるほど、俺が謎の四人目というわけだ。昼間のシャオさんからのメッセージの意味もなんとなく理解した。「これからも(同じ演者として)一緒にがんばりましょう!」という意味だったわけだ。
だが――
「聞いてないんですけど!?」
「えっ、どうしたの?」
完全に寝耳に水だったので、大きな声を上げてしまった。驚いた静奈が目を丸くしている。
「いや、なんでもないんだ」
まだ、本決まりじゃない。というか、俺は承諾した覚えがない。ひとまず明日出社したら社長室に直行だ。
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