ノクターン
性欲は愛なのか(真剣です)
琴音が好きです。
何を今更、と思われそうだけど。琴音が好きです。
琴音が大好きです。らぶゆーの対象なわけです。
それを前提にして、話したいことが一つあります。
今は金曜の夜。
ただ。私はベッドに転がり、天井を見上げている。
琴音は今、お風呂に入っているらしい。だからラインは休憩中だ。
ちな、あれ以降。神坂さんとは特に音沙汰は無い。
メアドは交換していない訳だから、それは当然だろうと思う。
いやいや。今それは置いといて。
はい閑話休題、閑話休題。
話したいこととは。アレだ。日曜関連のことだ。
日曜関連とは何かって。アレだ。えっちだ、えっち。
そう。唐突に決まってしまったそれ。えっちっすよ。えっち。
冷静になれずに考えても、それはもうとんでもないことが決まってしまったと分かる。分かってしまう。
そして今。私は、日曜のことを考えて悶々として、若干の興奮をしてしまっている……!
そこで疑問が一つ、ぽんと頭上に浮かび上がってしまった。
それは最早、若干の恐怖とも言えてしまうだろう。
私は今、とてもソワソワしてる訳だけど。なんというか、デート行く前とかよりもヤバいテンションになっている。
だから私は思った。思ってしまった。──性欲は愛なのか、と。
デート前とかよりも、こんなにソワソワしてしまっている、というのは。ねぇ。ねぇ!
変なのか。変じゃないのか。これを琴音に問おうにも、聞きづらい。
琴音は意外と辛辣な節があるので『いや。普通にキモいです』とかって返されるかもしれない。
この疑問が解決されない限り、私は自分を薄情な人間だと思い続けてしまいそうだった。
そこで。私は一つ、思い付いたことがあった。
「ヘイSiri。性欲は愛ですか?」
機械頼みだった。
何やってんだって自分でも思った。
無機質な返答がすぐにやってくる。
『面白い質問ですね』
まじか。
てっきり『すみません。よく分かりません』ってくると思ってた。
「はい!」
『そうだろうと思いました』
「まじすか!?」
『シリアスですよ。Siriですからね』
「ご冗談もお上手!」
『すみません。よく分かりません』
電源を落とした。
いやしかし。機械に哲学的問いは少々難しい気もする。
やはりここは生身の人間の意見の方が説得力はある。
もう琴音に聞いて引かれることしか、今の私には無いのだろうか。
と。そう悩んでいた時。意外にも近くに、頼れる人物がいることを思い出した。
消したスマホの電源を今一度入れ直し、ラインを開く。
『楓花! 性欲は愛ですか!?』
そう楓花だ。
楓花なら色々と経験豊富……だろうし。主に藤崎さんとの。
この問いの答えも。既に発見しているかもしれない。
既読はすぐに付き。返信もすぐにやってきた。
『うーん。まぁそれは人それぞれだと思うけど。性欲が愛かって言われると、少し難しいよね』
『なるほど……』
『ただ性欲があるからこそ、相手のことがより好きになるのかなってところはあるかも。なら愛なのか。……というか、なんで急にそんな質問を?』
『いやー。今、色々と悩んでいまして。ともかくありがとう!』
『あ。それだけ?』
『うん。それだけ! また明日!』
ラインを閉じた。
楓花はそう言ったから愛なのだろうか。
個人の価値観によって大きく変化しそうな気がした。
結局、よく分からなかった。
※
「琴音! 性欲は愛ですか!」
このモヤモヤを解消するのは、やはり本人に確認すること。それしかなかった。
風呂から上がった琴音に『電話してもいい!?』と食い気味にラインを送り。
それで今、許諾を貰ったので声量大きくスマホに声を向けたところだ。
『えぇ! 急にどうしたの? なんでいきなり?』
困惑をあらわにした琴音の声。
それが耳に届き、自分の言ってることの可笑しさを痛感する。
「不意に気になってしまいまして……」
『もうちょっと具体的に』
「えーっと、ほら。日曜って、えっちするじゃん。それで、今はもう、待てないくらいにドキドキしてて。……なんかこれって、愛よりも性欲が勝ってるんじゃ無いかーって、少し不安になったというか、なんというか」
引かれるかなって不安になりながら、めっちゃ早口に告げた。
しかし、スマホの向こうから返ってきたのは、刹那の沈黙と。琴音の笑い声だった。
それも『あははっ』と、とても気持ちの良い笑い声。
『あーそういう』
笑いを抑え、呼吸を整える琴音に。私は思わず食いかかる。
「ちょっと!? な、何がおかしかった!?」
『日菜子らしい悩みだなって』
「それはつまり変態的な悩みってこと!?」
『うん。そうだよ』
「無慈悲!」
『まぁまぁ。……とりあえず、質問の答えのその前に。日菜子は私のこと、好き?』
「うん。大好きだよ?」
『どれくらい好き?』
「えー。難しいけど。うーん。……めちゃめちゃ。めっちゃめちゃ。めーっちゃめっちゃ。めちゃめーっちゃ──」
『はーい伝わったー。ありがとー』
切り上げられた。
なんとなくの切なさに、私は少し沈黙。
琴音は『ごめんなさい』と若干申し訳なさそうに、話の本来の道筋に戻っていった。
『えっと。うん。だから。私のこと愛してるなら。全部、愛なんだよ』
「なるほど……? これまた難しいけど」
『うん。というか、私に対する感情の全てが愛になるの』
「ふむふむ。……まぁ、なんと無く理解できる、かな」
琴音に対する感情は。確かに全て、愛が由来したものなのかもしれない。
一緒にご飯を食べたい、とか。ラインがしたい、とか。かっこいいところを見せたいとか。
それこそ、えっちをしたいっていうのも。私が琴音を愛しているからで。
そう考えると。納得ができる気がしてきた。
「じゃあ愛ってことで! 万事解決! さんくす!」
琴音にそう言って貰えたのなら。少なくともこの気持ちは愛なのだ。
これでもう心置きなく、えっちのことについてドキドキできる。
しかしまぁ、そのドキドキが日曜までの待ち遠しさを更に加速させるわけで。
まだ今日は金曜で、明日を経由しないといけないのに、気持ちが先走りすぎだ。
明後日は。一年後くらいにやってきそうだった。矛盾。
こういうのって相対性理論って言うんだっけ。本当にもどかしい。
アインシュタインが生きていたら、手紙の一つでも送りつけて文句を言いたい。
今の気分は、そういうものだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます