第26話 呪いと宣言
さて、今日はいよいよ最終目的地、カンカレラ到着する予定だ。
カースサイダの街を出発して山道を行くと、
ほどなくハンヴィーの進路に小さな村が見えて来た。
村の人々もハンヴィーを見て騒いでいるようだ。
今迄は絶対やらなかったが、今回だけは別だ
ハンヴィのまま村の入り口に乗り付けて運転席から高圧的な態度で声を掛ける
「僕は冒険者ナオ、クラスAのドラゴンスレイヤーだ村長と話がしたい」
集団の中からムキムキのおっさんが現れた。
「俺が
僕は後ろの席を指さして
「ここに、この村出身のキーラがいる。今、僕所有の奴隷だ。
妹の方も僕がもらった。
二人に争われると面倒なんで掟を撤回してもらいに来た」
おっさんは、しばらく硬直していたが
「掟は絶対だ、たとえどのような理由であっても撤回はできない」
とハッキリ断言した。
僕は深々とため息と付いて
「ガライン村長、ひとつ確認したいのだが、
この村の掟はいつから変えられたのか?」
「何の事だ?」
「剛戦斧のタリアさんにも確認したが、
以前は成人するまで別々に育てられただけで、
こんな掟無かったらしいぞ」
「どういうことだ?」
【王都のオーガの饗宴での回想】
「それで、明日出発でカルストキアに行くんだって?」
「はい、最終的にはカンカレラに行きます」
「随分、遠くまで行くんだね」
「タリアルモイラ、ちょっと聞きたいのじゃが?」
「なんですかミラセアクアラ様?」
「いや、獣人の子に赤と白の髪が生まれた時に、
以前は別々に育てる風習が有ったんじゃが」
「はい、今もありますね」
「今は、どちらか一人しか生き残れない様な話になっておるのだが、
何か聞いておらぬかな?」
「なんで、そんな話になっているんですか?
確か赤い髪は火の精霊の子で、白い髪は氷の精霊の子だから
互いの精霊が相手に悪さをしないように分けて育てるだけですよ」
「それが、双子だと違うらしい」
「いえ、一緒ですよ。確か500年ほど前に赤い髪と白い髪の双子の出産に
私も立ち会いましたから」
「まことか?」
「ええ、私はその時に、当時の長から別々に育てる理由を聞きました。
その2人も15歳で成人したら迎えに行ってましたから間違いないですよ」
「やっぱりそうか。そんなバカな話を説得しにちょっとカンカレラに行って来る」
「それなら、カンカレラの村長をぶん殴ってきてください」
「なんだ、知り合いかの?」
「私も手紙を書きますので持って行ってください。
カンカレラの村長はガライン、うちの元メンバーです」
【以上、回想終わり】
タリアさんの名前を聞いて動揺したおっさんだったが
「疑ってすまないが、その話は本当なのか?」
タリアさんから預かった手紙を渡す。
「ああ、本当じゃよ。いったいいつからこんな掟に変わったのかの?」
「と
「呪姫様ですか?」
ミラセアの方を見ておっさんが固まっている
「わらわも初めて聞いたのでな、念の為タリアルモイラにも確認したら
500年前に実際に赤と白の双子の出産に立ち会って、
当時の村長に引き離す理由も聞いていた。それが一人しか生き残れないなどと
いつから、そんな話になったのか?」
「申し訳ありませんが、村長の引継ぎ書に書かれているんです」
口伝じゃなく文献で残されているのか・・・やっかいだな。
「すみませんが、その引継ぎ書、僕に見せて貰ってもいいですか?」
「わかった、すまないが一緒に来てくれ」
ガラインさんの家に入る。
この家は代々村長の家だったらしい
ガラインさんが、古くて分厚い本を持ってきた。
羊皮紙だろうか? 1ページが分厚いので、それほどページ数は
無いのかもしれない。
ガラインさんがページを捲る。
「ここだ、この部分に書かれている」
とあるページを見せてくれた。
そのページを見て、僕はある事に気が付く・・・
「ガラインさん、どうして、この部分だけ文字が濃いんですか? 」
ガラインさんは、他のページと見比べながら
「言われればそうだな。なんで色が違うんだ? インクでも変えたのか?」
ページを見るたびに、違和感を感じる
「すみません、そのページ、ちょっと触らせてもらってもいいですか?」
「村の大事なモノなので、丁寧に扱ってくれ」
「はい、触るだけです」
ページの色の違う部分を、そっと指で触ってみる。
闇色の文字が溶ける様に消えていく。
「やっぱり・・・この文字、インクじゃありません。呪いです」
白い髪と赤い髪、生き残れるのは1人、そんなバカな掟は
跡形も無く、そこから消えてしまっていた。
「どうやら、この500年の間に、村の引継ぎ書に
呪いで、このような事を書き込んだ者がおるようじゃな」
「呪姫様・・・呪いですか?」
「ああ、このわらわにかけられていたモノと同じような呪いじゃな」
「それでは、あの掟は?」
「誰か知らぬが、村に悪意を持った者の仕業やもしれぬ」
「そんな・・・・」
「ナオ、その本の他のページは大丈夫なのか?」
言われるままにページを捲るが・・・あった。
「あったよ。村の北西にある呪われた森への侵入禁止と
闇月の夜、北の泉に行ってはならない、この2つも色が違う」
「ガライン、この文字、触れて良いか?」
「ああ、お願いする」
僕が指で触れると、文字が溶ける様に消えていく。
しばらく、考えていたガラインさんだったが
「皆の前で撤回を宣言するので、一緒に来てもらえるだろうか」
「もちろんだ」
おっさんと周囲の人が大きな声で「広場に集まれ~」と声を掛けている。
広場に大勢の人が集まったのを確認して。おっさんは
「良く集まってくれた。皆に報告がある。
ここにキーラがいる。
そして、俺達の信じていた掟に間違いが見つかった」
口々に「どういう事だ」と聞こえる。
「赤い髪と白い髪の掟は500年前から今までの間に
村の引継ぎ書自体が改変されていた事が分かった。
それより以前は、成人するまで互いの守護精霊が悪さをせぬ様、
別々に育てる事だけだったんだ」
「俺は、この事を呪姫様より聞いた。
これは大恩ある剛戦斧のタリア殿からも言付があったらしい
また、引継ぎ書の書き換えの事実も確認した」
「たとえ、これまで
間違いは正さなければならない。
よってこの掟を撤回するとここに宣言する」
キーラがしがみついてきた。
顔を伏せて声を殺して泣いている様だ。
こうして、無事に説得は完了して僕たちはカンカレラを出発した。
呪われた森と、北の泉に関しては、協力を申し出たが
獣人たちが自分たちで調べたいらしい
次の目的地は、遥か遠く海洋国家マルザムだ。
今度こそミーラを迎えに行く。
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