第10話 ワイバーン

「いたよ、ワイバーン」


正確にはギルドに討伐依頼があったんですが・・・



ワイバーン討伐依頼

報酬 金貨50枚

冒険者ランクC 10人以上を推奨

ウドバイン村

ワイバーンによる家畜被害

追加報酬、ウドバイン往復の馬車費用




どうやら、長い間受ける人間もおらず、今回、報酬に馬車費用が追加されたらしい


勝手に村に行ってもいいけど、とりあえず話をしておこうか

受け付けに並ぶ、もちろんカークさんの所だ


「カークさん、ちょっと相談があるんですが・・・良いですか?」


カークさんは、他の職員を呼んで受け付けを代わりの人に任せて、

僕たちを2階の応接室に連れて行ってくれた。




「それでナオさん、今度は何をやったんですか?」


「カークさん、何もやっていませんよ」


「ということは、何かするんですね?」

目元を手で押さえて眉間に皺を寄せている。


「黙ってか、カークさんに話してからかを考えたんですが、

 とりあえず、先に話位はなしくらいはしておこうと思いまして」


「する事は決めてらっしゃるんですね」


「ダメなら逃げるだけなので、気にしないでください」


「それで、何をするつもりだったんですか?」


「カークさん、倒しちゃダメですか?」


「・・・ナオさん、今何を言いました?」


「いえ、割と簡単に倒す方法を見つけたので、ワイバーン倒しちゃだめですか?」


「・・・ワイバーンってCランクですよ」


「でも、誰も受けませんよね、割にあわないから」


「ナオさん、簡単に倒せるんですか?」


「いえ、いい方法があるんですが、実際、やってみないと分かりません」


「もし・・・ギルドが止めたら?」


「ウドバイン村に遊びに行って、ついでに襲われた振りをして

 倒そうかと思ってます」


「他の冒険者の応援は必要ですか?」


「いえ、我々だけで十分ですよ」


 カークさんがため息をついた

「分かりました、私の名前で特別指名依頼にしますから行ってきて下さって結構です

 安全第一で必ず無事に帰ってきてくださいね」


「ありがとうございます、流石はカークさん」


「馬車を用意しますから、出発日が決まったら教えてください」


「差支えなければ明日でも出発しますよ」


「では、明日の朝、馬車を準備しておきます。

 ウドバイン村の被害が大きいのは確かなのでギルドとしても

 何かの対策は取らないといけなかったんですよ」


「では、受付票をお願いしますね」


ただ、カークさんが少し悩むような表情で教えてくれた。


「ナオさん、これは不確定情報なんですが、目撃されたワイバーンの大きさが

 少し違う気がします。複数の可能性もありますから気を付けてください」


「カークさん、分かりました、行ってきます」





翌朝、ギルドが用意してくれた御者さんが操る馬車で

ウドバイン村に向けて出発した。


向こうに大きな山が見える、これから3日間、あの山に向かって移動するのか

それまで何をしようか?


「キーラ、文字の勉強をしようか?」

「やる」

「ミラセアはその間、警戒を頼むね」

「もちろんじゃ」


キーラの集中力が切れるまで、勉強した。

もう読む方はほとんど問題無いまでになっている


「それで、ナオ、ワイバーンはどうやって倒すんじゃ?」


「今回はアレを使うから、

 こちらが攻撃する時にワイバーンが地上にいる必要が無いからね。

 どの辺を通るか分かったら大体1000歩500m離れた所で待ち伏せして、

 1000歩500m以内に入ったら叩き落す」


「1000歩離れて落とせるのか?」


「多分もっと離れても大丈夫なんだけど、撃つ僕が素人だからね、

 大分余裕取ってあるよ」


「1発で落ちるのか?」


「問題は落ちる時に高さが低くて生き残られると困るな、

都合よく落ちたワイバーンが見える所があればいいけど」


「落ちても死なんのか?」


「ああいう生き物は確か身体が軽く出来ているからね、

 だから確実に死んだと確認できるまで近くに行ったらダメだよ、キーラ」


「わかった」


順調に馬車の旅は続き、予定通りなら明日にはウドバイン村に到着する

もっとも、あまりも聞いてしまったが・・・


「だいぶ、山が近づいてきているな」

「ナオ、あれ見えるか ワイバーンじゃ」


ミラセアが山の方を指さしている、

山を背景に青灰色の蝙蝠の様な生き物が飛んでいるのが見える。


「あれがそうか」

何か掴んでいるな、家畜か? ワイバーンは山陰に消えて行った。





翌日の昼前に、我々はようやくウドバイン村に到着した。


依頼を出した村長の家を教えてもらい、尋ねて行って中に入れてもらう。


村長は40代の太った大男だ、濃い茶色の巻き毛に伸び放題の髭

癖なのか、斜めに睨みつけるようにこっちを見ている。

村長に椅子を進められる

「こんにちは、冒険者ギルドから来たナオ冒険者クラスはFです、

こっちはミラセアとキーラ、クラスはG」


「村長のジメルだ。せっかく来てもらってなんだが、

 こちらは散々さんざんたされたあげくに来たのは3人、

 それもクラスFとGとはどういう事かな」


「もっともな話です、ワイバーン相手に依頼を受ける冒険者は居ませんでした。

 僕たちの武器や能力がワイバーンに有効らしいので、

 今回は特別に依頼を受ける形になりました」


「あんたらが信用出来ないから帰ってもらうと言ったら?」


ここに来るまでに聞いた話がなければ、切羽詰まったとも考えるけど、

これは、単なる値きり交渉の手口だな。


「構いません、時間の無駄でした。別の所でワイバーンを倒してますので

 僕達のクラスが上がってから呼んで下さい」


「その間に、どれだけ被害が出ると思う。あんたらに人の情は無いのか?」


 村長は苛立っているように


「あなたたちは情に厚い人間らしいですね」


「どういう事だ?」


「すみません、妙な事を聞きますが、ワイバーンは1体ですか?」


「なに?」


「ここに来る途中で聞いたんですが、ワイバーン」


 もう、カークさんの話が気になって隣の町で聞いたらワイン1杯で教えてくれた、

 つがいのワイバーンを見たって。


「どこで?」


「よかったですよ、情に厚い冒険者なら確実に死んでましたね」


「仕方無いじゃろう、村にもう金は無い」


「仕方無いでしょう、情報が事実と違うんですから」


「ならば、どうすれば良かったのか?」


「当たり前の事ですが、正確な情報を送って

 ギルドでも国でも頼ればよかったんですよ。

 おそらく今まで冒険者が受けなかったのは

 情報が違うのを知って避けてたんでしょう」


「何?」


「正確な情報も無しに仲間を集めて、

 準備しても行けば実際は違うと分かっていれば誰も来ませんよ」


「こないのか?」


「当然でしょう、ワイバーンが1体なら

 最低でも10人の腕利きと馬車3台分の罠や道具が必要です。

 2体なら単純に倍ですよ。

 村に来て、まずは調査して2体だった。

 さてもう10人と馬車の装備を集めろ・・・それだけで最低1ヶ月掛かりますね」


「・・・・・」


「その間の費用は? 冒険者のリーダーに負担なんかできませんよ、

 これは断言できますが、10人の腕利きの報酬を1月支払える

 そんな貯えを持ったCクラス冒険者は居ません」


「・・・・・」


「依頼は失敗、違約金が発生して、ギルドの調査が入る、

 結果は村がギルドへの支払いを逃れるために嘘の申告をしていた」


「・・・・・・」


「さてギルドと国の対応はどうでしょうか?

 国はともかく、まずギルドは村への協力を止めますね」


「・・・・・・・」


「この村に来る商人に今後護衛はつかないでしょう、

 そうなれば物流は止まります、村が消えておわりです」


「・・・・・・・」


「さて、村長、僕もう帰ってもいいですか?」


「待ってくれ」


「ですから・・正確な情報も無しには無理なんですよ」


「教える、なんでも教える」




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