第23話 黒鎧武者


 煙玉が50銭も値上がりするほど12層で金策をしていたら、花ケ崎がバケーションから帰ってきた。

 屋上に呼び出されて、ゼニスゴーレムリングと、ついでに落札してもらった石切丸という刀を受け取った。

 俺の支払いは4万4000円である。



ゼニスゴーレムリング(A)

 耐久+120 ダメージ軽減+19

 物理防御だけならSレアと同等。

 敵によっては効果を発揮するが、特定の階層でしか使えない。


石切丸(B)

 防御力無視30% 追加ダメージ+150

 防御力が高く、エンチャント武器もきかないような相手に適した武器。



 魔眼のリングは花ケ崎が装備することになったようだが、どうにも顔色がさえなかった。

 機械的なやり取りのみで、花ケ崎はすぐにふらふらとどこかへ行ってしまった。

 刀の方に関してだが、本当は水属性のエンチャント武器が欲しかったが、とても買えるような値段じゃなかったために、こちらを買うことになった。


 やっと装備が揃ったので、これで14層のゴーレムに挑むことができる。

 このゴーレムは付加効果付きの刀を落としてくれるので、しばらくは刀狩りをして、今後の狩りに使えそうものを集める予定だ。

 それにゴーレムのコインを集めて召喚契約すれば何かと役に立つ。


 ゴーレムは意外に厄介で、攻撃を受けただけで麻痺の状態異常を食らう可能性がある。

 だから耐久力の高いリングと、水属性か防御力無視の武器が欲しかった。

 授業が終わって放課後になったが、なんだか今日はつけられているような気がする。

 どうも嫌な感じなので、ダンジョンに入ったらテレポートの指輪を使い、速攻で10階層へと飛んだ。


 そのまま一直線に14層を目指した。

 14層は、天井が発光して深い森の中にいるようなマップだった。

 深く苔むして、石のようになっている大木が生えている。


 14階層についたら、ゴーレムしか出ない手前側を回り始める。

 ここで奥まで行ってしまうとトロルが出てしまって非常に厄介となる。

 さっそくゴーレムの攻撃を受けてみるが、刀でガードしたはずなのにビリビリと電気を流されたように痺れて、本当に動けなくなってしまった。


 なるほど、これは強敵だ。

 攻撃を受けたら擦り潰されるような感じがする。

 しかし動きは遅いから、攻撃は非常に入れやすい。

 むしろ安心感を感じるくらいやりやすいと言ってもいい。


 ゴーレムの方はどうやらなんとかなりそうだと、俺は一安心した。

 新しくそろえたリングも武器もちゃんと機能している。

 この狩場が使えるなら、まだまだレベルをあげられるし、武器も揃えられる。

 そんなふうに考えていたら、それどころではない事態になった。


 最初に出会った人物が最悪で、六文銭の家紋、槍持ち、単騎、そして俺よりもゴーレムを倒すのが早いという、悪夢みたいな要素が揃った漆黒の鎧武者だ。

 もともと縄張り争いが激しい階層で、一番出くわしたくないような相手だった。

 俺の方に敵が現れたが、瞬時にツバメ返しを使わない戦い方に切り替える。

 もちろん相手が侍のクラスを開放している可能性を考えたからだ。


「新入りか」


 戦っている俺の後ろにまわってきて、そんなことを言ってくる。

 背中から威圧感を感じて、呼吸すら重たく感じられるほどの圧に吐きそうだ。

 まるで生きた心地がしない。

 さて、どんな風に答えるべきだろうか。

 顔を隠してくるべきだったが、俺が何者かまではまだわかっていないはずだ。

 いろいろ考えて、俺はハッタリを利かせつつ自然体で返すことにした。


「なんの新入りだよ」


「この狩場のだ」


 新顔に気が付くという事は、それだけ長くやっているという事だろうけど、なぜこの階層にそこまで長期間とどまっているのかわからない。

 威圧感から言っても、レベルだけならもっと上の階層に行けるほど高いはずだ。


「そうらしいね」


「まあいい。俺の邪魔はするなよ」


 それだけ言って、男はいつの間にかいなくなっていた。

 マジで、おっかないんですけど。

 人の一人や二人くらいは殺しているのだろうかと、そんな考えが頭をよぎる。

 般若のような黒仮面を付けていたので、その顔すら見ることはできなかった。


 俺は攻略本に書かれたゴーレムゾーンのすみに移動する。

 なるべくあんなのとはダンジョン内で鉢合わせしたくない。

 困ったことにツバメ返しを使わないと、俺の通常攻撃の打点が低すぎてダメージがほぼ通らなかった。

 面倒事になったらその時はその時だと、俺はツバメ返しを使いながらやることにした。


 ゴーレムは炎も電撃も通さないが、ヒールは簡単に使わせてくれる。

 慣れるまでにハイヒールが必要で、マナポーションを二本ほど消費した。

 ハイポーションを使うような場面はなかったので、やはり戦いやすい階層だろう。

 黒武者とは何度か鉢合わせたが、ツバメ返しについて言ってくることはなかった。

 黒武者以外にも3人組のパーティが二ついて、前衛は斧と大剣だ。


 どうもトロルを処理できるようにならないと、やはり効率はよくない

 トロルは毒か回復阻害があれば行けるらしいが、どちらの付加効果が付いた武器もかなり高価なのがネックである。

 なんとか方法はないかと休憩中に攻略本を眺めて、ディスペルの魔法が入るなら行けるとの記述を見つけた。


 ならば行けるではないかと、トニー師匠のビルドに感謝する。

 あんな気味の悪い黒武者と同じ場所でやるのは嫌だったので、残りの時間はそっちでやろうと、俺はすぐにゴーレムゾーンを離れた。

 トロルは3回唱えれば、だいたいディスペルの魔法が入る。


 わりとキツイMP消費だが、黒武者から離れられるだけでありがたい。

 トロルとゴーレムの混合ゾーンに入ると、うそのように周りから人が消えて思い切りやれるようになった。

 6時間ほど経過したところで、俺はテレポートリングで1階層にもどる。

 このテレポートリングは行きよりもむしろ帰りの方がありがたいくらいである。




 ゴーレムから出た槍は、翌日に鑑定してもらうと、いきなりHP回復上昇という高額レアだった。

 探索者はもうかる商売だと今さらながらに思う。


「おめでとうございます。3万円くらいにはなると思いますよ。オークションに出されますか」


「そうしてくれ」


 俺は笑顔でそう答えた。

 槍は西園寺に渡し、俺は臨時収入も入ったことだしと、学食ではなく一般の食堂に入る。

 弁当が売っていたので、アイテムボックスに入れておこうと複数を買い求めた。

 そして空いている席に座ったら、やたらと高いとんかつ定食を注文する。

 注文を終えてから、ああやっぱり俺って馬鹿なんだなと、自分の愚かさを呪った。


 さっき会ったばかりの西園寺や花ケ崎は別にしても、竜崎、狭間、近藤、芹沢、金髪カールと、俺の嫌いな奴らがまわりに勢ぞろいしている。


「チッ、ここはいつから庶民が来るようになったんだ」


 さっそく狭間が鬱陶しいことを言いだした。

 せっかく奮発したというのに、こんな奴らに囲まれていたら飯がまずくなるったらない。

 しかも高いだけで、もとからしてそんな大した味でもないときた。

 まさに踏んだり蹴ったりである。


 まわりからの視線が痛くてしょうがないから、俺はかき込むようにして食べ、食べ終わったら花ケ崎に声をかけるのもためらわれたので、さっさと席を後にしようとした。


「おいおい、まさかこんなところで会うとはな。少しが話したい。時間はあるか」


 不意に知らない男から話しかけられる。

 とたんに周りが静かになったような気がした。

 また厄介ごとの方からやってきたのかと、暗たんたる気分になる。

 しかも、この男からは腹になまりでも流し込まれたかのような気分にさせる威圧感が発せられていた。


「あんたは」


「昨日、俺の邪魔はするなって、お前に言ったやつだよ。覚えてないか」


 吸い込む空気すら重く感じられる、この粘りつくような感じには覚えがあった。

 見れば真田の家紋付きのピンバッチをジャケットにつけている。

 どうやら昨日の黒武者であるらしい。

 たしかに一般の奴だって、ここの食堂を利用することはあるだろう。

 想定してしかるべき事態だった。

 今後は狩場で正体を隠す必要があるようだ。

 俺はため息をついた。


「時計台の下で待ってる。支払いが済んだら来てくれ」


 男は一方的にそう言って立ち去った。

 なにを言われるのかと恐れたが、どうやらマナーは心得ているらしい。

 しかも六文銭の色から察するに下部組織などではなく、真田家の直臣ではないか。


「おいおい、どうして貴様が根津さんに声をかけられてるんだ」


 騒いでいる近藤を無視して、俺は西園寺と花ケ崎がいる方に聞いてみる。


「あれは誰だ」


「根津陣八さんは、十勇士といわれる真田家直臣の一人です。所属する六文銭は、日本のギルドランク1位ですよ」


 名前以外は俺でも知っているような情報だった。

 西園寺はまるで俺たちが同じ狩場にいたのを知っていたかのような物言いだ。

 あの黒武者は長いことあそこでやっているような感じだったから、西園寺がそれを知っていたとしても不思議ではない。

 こいつはやたらと顔が広いみたいだしな。


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