リキャップス(1)
星間宇宙暦1443年。民心につづき主権まで奪ってしまったエイドラ皇室は突如として牙を剥く。
主産業であったコンテンツ興行事業が真っ先に狙われる。重税は関連企業全体にダメージを与え、小さな企業などは一瞬で潰されるしかなかった。
元々が長期的計画を練って投資や発展などをする事業ではない。時流に乗って一発勝負といったきらいがある。なので体力があるとはお世辞にもいえない企業ばかりが集まっているので堪ったものではない。
「これは表現に対する弾圧である!」
「皇室は施策を撤回せよ!」
声だけは間違いなく大きな業界。即座に抵抗を始めるが揉みつぶされていく。武装警察隊の捜査が行われ、代表者が皇室叛逆罪で訴追され運営ができなくなる。得意の表現による抵抗運動は間をおかず萎縮していった。
代わって現れたのは武力抗争による運動である。職を追われて武器を取り、元の社会構造への回帰を謳って走りはじめる。
しかし、バラバラでは逃げ回るのが関の山。軍や武装警察の手で制圧されるのがオチであった。
そこで立ち上がったのが元大物プロデューサーのハイダナ・グワーシー。彼はあらゆるコネクションを利用して他国の援助を取り付けた。実績に期待する国々は軍事的援助を惜しまない。
エイドラの将来を懸念する技術者も巻き込み、解放運動に必要な機材の調達に走る。圧倒的な武力を有する皇室に反抗するには先端機材が必須。各国の頭脳と技術者の協力により独自のアームドスキンが生みだされた。
「それがこの『フェニストラ』ってわけ」
メカニックの男がステヴィアに教えてくれる。
「市販機の寄せ集めだったリキャップスにも独自機が導入されたのさ」
「でも、開発って大変だったんじゃないですか? 使われてる軍用機のほうが早かったんじゃ」
「いやいや、無理だって。軍用機なんて持ってこようもんなら、どこの国がうちのスポンサーなのかバレバレになっちゃうじゃん」
表立ってエイドラ皇室と事を構えるつもりはないのだ。
彼は
「いいんですか? そんな大事な機械をわたしみたいな素人に任せて」
適性があるとわかってからはパイロットとして扱われてしまっている。
「いいのいいの。ぶっちゃけみんな素人みたいなもん。特にパイロット適性がある人間なんて貴重なんだし」
「消耗が激しいって意味でも貴重なの。それはわかってて」
「うわ、アイオラ!」
やってきたのはアイオラ・ゼナン。コーディーの実妹らしい。彼女も元は技術屋で、ソフトウェア関連全般を務めていたという。今はシステムオペレーション、通称シスオペを務めている。
「誰にも死んでほしくない。でも、現実に帰ってこない人が多いの」
眉を悲痛に歪ませている。
「二十歳なんだってね。本当はあなたみたいに若い人を送りだすのは嫌。でも、背に腹は代えられないから全力を尽くすわ」
「はい、お願いします」
「言ったとおり
無線接続で中身を確認するとともにアバターも表示させる。どのくらい滑らかな動作をさせられるか観察された。
「動作蓄積は進んでる。十分とはいえないレベルだけど」
診断結果を告げる。
「とはいえ
「ここではあまり動かせませんものね」
「こんな倉庫じゃね。でも、リキャップスは隠れ場所を渡り歩くしかないの」
小さな反抗組織が集まって
『
ステヴィアはアームドスキン『フェニストラ』に接続する。途端に意識が拡大する感覚を味わう。
(なかなか慣れない、この感じ)
異様な感覚。
初めてアームドスキンに乗ったときから奇妙なものが見えるようになってしまった。それは人の額あたりに二重写しのように浮かぶ光。
普段は視界に入る程度の範囲しか見えないのだが、アームドスキンに乗ると数十倍、もしかすると数百倍にいたる範囲までもが見える。目では見えない広さで人がどこにいるか理解できてしまうのだ。
(しかも人だけじゃなかった)
実験してみると動物も感知可能。
(人との判別も感覚的にわかっちゃう。接する時間に合わせて誰かもわかるようになってきた)
そのことは誰にも話せていない。奇人扱いされそうで怖ろしいから。ステヴィア自身、どう扱えばいいかも理解できていないのに。
「そのままゆっくり」
アイオラの指示でフェニストラを立たせる。
「動かしてみて。そうね。私の真似できる?」
「はい」
「じゃあ始め」
彼女に合わせてストレッチ動作をトレースする。自分では見えていないが、膝下のコンソールパネルの投影でできていると確認。
「適性は半端じゃないのね。数度しか乗ったことないとは思えない」
評価は高い。
「なんだかわからないけど感覚的にできちゃうんです。変ですか?」
「うーん。元々そういう操縦系なんだから当たり前っていえばそうなんだけど」
「普通は慣熟するのに時間を要するものよ」
インカムを使ってテストを続ける。二人からかなり高い評価をもらった。
「あとは実機シミュレーターで戦闘に関する訓練をみっちりやってもらうしかなさそう」
シスオペの指導の範囲を超える。
「だね。俺っちもそっちは素人だからさー」
「頑張ってみます。設定だけ教えてください」
「じゃあ一回しゃがんで」
(アームドスキン同士も
ステヴィアは時間の許すかぎり訓練に没頭した。
◇ ◇ ◇
「リフトトレーラーまわすから通路確保!」
「急げ! 包囲される!」
「いつまでももたないって!」
ピヒモイでの戦闘は突然起こった。どこからか情報がもれたか、
詰めてくる警察のアームドスキンに、慌ててフェニストラを起動させて対応するも後手を掴まされている。退路確保をしないと壊滅させられそうだ。
「いけます。どこに向かいますか?」
自機を起こしたステヴィアは指示を待つ。
「倉庫出てすぐ左。もう来てる」
「わかりました。開けてください」
「そんな悠長にしてられない。
初陣の彼女では勝手がわからない。アイオラのナビを受けながらでないと役に立ちそうになかった。そのシスオペはフェニストラ搬送用のリフトトレーラーの運転台の住人。
「道を作って。後ろついてく」
「了解です」
シャッター枠に合わせてブレードを入れる。下まで斬り落とすと外に倒れていった。頭をのぞかせると警察機の銃口と鉢合わせになる。
「ひゃっ!」
即座に引っ込めるとビームバルカンの光が薙いでいく。
(どうしよう。どうせ壊しちゃったし、もうここは使えないはずだから)
集中すると、不思議な光の距離感もつかめてきた。倉庫外のアームドスキンが扉へと向かってくるのも見えている。
(あそこがコクピットということは、この高さが太腿くらい?)
壁沿いに移動してブレードを突き入れる。すぐ外にいる警察機の大腿部を貫いたはず。前のめりに倒れた機体は上半身をバタバタとさせている。
「なにしたの?」
「これ、どうすれば?」
質問が交錯する。
ステヴィアはアイオラの指示で背中の制御部を破壊した。
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