金の薔薇はノアに咲く

「娘を救出してくださり感謝致します、そして本当に申し訳ない……」

「いえ、アルヴァさん。そんなにかしこまらないでください。昔のようにまた気軽に『こら、ノアクル殿下!』とでも叱ってください」


 アルヴァ宰相は会うなり、即座に感謝と謝罪をしてきた。

 一国の宰相が、処刑されたはずの王子にできる対応ではない。

 これが国にバレたら国民からのバッシングや、処分を受けてもおかしくないはずだ。

 以前から付き合いがある個人としての感情が強いのだろう。


「ノアクル殿下は本当にお変わりにならない……。変わってしまったのは、アルケイン王国の方ですな……」

「アルヴァさん?」

「出所が不審な資源で豊かになり、さらに国が大きくなって宰相でも把握できないところが増えてきたのです……。王やその側近たちも人が変わったようになり、あげくにノアクル殿下を利用して……」


 アルヴァ宰相は立場的なものでがんじがらめになり、必要以上にノアクルに干渉できなくて心苦しかったのだろう。

 大切な家族や、養う部下もいる。

 ノアクルもそれをわかっていた。


「アルヴァさんが気に病む必要は――」

「いいえ、これらはすべて大人たちの責任です。このアルケイン王国は腐っています。そこで……どうか娘を……ローズをそちらで勉強させて頂けないでしょうか?」

「それは願ってもない申し出だが……いいのか?」

「はい。ノアクル様が急遽、処刑決定されたときも止める間もなく妙に手際よく実行されていました……。そんな国にローズを置いておくわけにはいきません」

「そうか、ローズは大切に預からせてもら――」

「いえいえ、またいつものように喧嘩をしたりしながら仲良くやってください。まだ成長過程にある、たった十一歳の子どもなのですから」


 アルヴァ宰相は優しい親の表情をしていた。


「そうか。それならそうさせてもらう。ローズは使えるゴミだからな!」

「ハハハハ! ノアクル殿下、いつも思うのですが、人の親に対してそういう発言はラインを越えていますぞ! さすがに!」

「ま、待て! 目が怖い、目が怖いぞ!」


 その後、アルヴァ宰相はノアクルたちを取り逃がしたことにして、娘であるローズと何やら話していた。

 ローズは深くお辞儀をして、アルヴァ宰相と別れを告げる。

 アルヴァ宰相とその部下たちは、ゴルドーたちを拘束して王都へと戻っていった。




 ***




「ノアクル様~。あの黄金ゴーレムはどうしますかにゃ~?」

「ジーニャス……お前には作戦に関して色々と言いたいことが……」

「にゃっ!?」

「――言いたいことがあったが、そのあとに良い働きをしたからチャラだ。よくやった」

「……ほっ」

「それであのクソデカ黄金ゴーレムはスキル【リサイクル】で運びやすい形状にしておくから、あとで海賊を使って運んでおいてくれ。かなり往復の力作業になると思うが……」

「アーイ、了解ですにゃー!」


 ジーニャスは早速、港に泊めてあるゴールデン・リンクスへと向かった。


(そういえば、あの船もゴールデン……金か。ゴルドーを思い出すな……アイツは獣人の命まで金に見えていたのだろうか……。人間とは恐ろしいものだな)


 そんなことを考えていると、丁度聞き慣れた獣人の声がした。


「よう、兄弟! 人手を探しているのかい?」

「お、トラキアじゃないか。俺の国へ来てくれるのか?」

「へへ……オレ様だけじゃないぜ!」


 そこには大勢の獣人たちが詰めかけていた。

 全員が地下闘技場で見たことある元奴隷だ。


「アタシのことも覚えてるかしら?」

「ああ、もちろんだ。レティアリウス。お前がいてくれれば心強い」


 そして、それらを率いているのはスパルタクスだった。


「スパルタクスも、もちろん来てくれるよな?」

「い、いや……僕は……」

「ん? どうした?」

「僕がゴルドーにトドメを刺さなかったから、こんなゴーレムが動き出して……」


 どうやらつまらないことを気にしているようだ。

 ここはバシッと、王子として気合いを入れてやろうと思ったが――その必要はなさそうだ。

 ヒョコッとローズがやってきていた。


「いいえ、逆に大手柄ですわ、スパルタクス!」

「ローズ様……?」

「だって、ゴルドーがこれを持ってきてくれたおかげでかなりの資金になりますもの! それに……」

「それに……?」

「スパルタクスがした決断、格好良いじゃない! ね、殿下!」


 ローズが話を振ってきたが、言いたいことが大体取られてしまっている。

 思わせぶりに笑みを浮かべる程度しか、王子らしいことができない。


「ニヤッ」

「そこまで考えて僕の行動を見逃していて……。ノアクル……さすがだな……」

「そうよ、ノアクルはついでにこうも思っているわ! スパルタクスは、海上国家ノアに絶対必要な人材だってね!」


 ノアクルは腕組みをして威厳を保つことにした。

 なんかテキトーに頷いていればそれっぽく見えるはずだ。


「コクコク」

「ふっ、ノアクルほどの男に求められては仕方がない……。今後ともよろしく頼むぞ、超新星ノアクル」

「いや、さすがにその名前は恥ずかしいから止めろ……!」

「え~、わたくしも似合っていると思いますわ~。全裸を晒した謎のマスクマン闘士、超新星ノアクル~」


 頭が痛くなるような黒歴史は増えてしまったが、海上国家ノアとしては様々な面が強化された。

 色々なことがあったが、ラストベガ島の件はこれにて一件落着だ。

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