第三章 その娘、金の薔薇にて

海上都市の拡張

「さて、それじゃあ始めるか」


 かなり広くなったイカダの上でノアクルは気合いを入れていた。

 これから海賊村を海上で再現するのだ。

 普通に考えれば無茶だが、ノアクルのスキル【リサイクル】や、アスピの大地の加護があれば可能である。


「まずは家か……」


 人間、衣食住がなければ話にならない。

 ノアクルのようにイカダの上で寝ても良いのだが、さすがに全員にそれを要求することはできないだろう。


「えーっと、この家の一家は……」

「はい、私とこの子です」

「お、海賊村で最初に助けた母子じゃないか」

「ノアクルさま~、やっほ~!」


 まだ出会って数日だが、海賊村の住人ともかなり打ち解けている。

 子どもとハイタッチをしてから、図面を確認しつつスキル【リサイクル】で家を造り始めた。


「うわー、どんどん家ができていく! すごーい!」

「こんな私たちのためにありがとうございます、ノアクル様」

「『こんな』とは何だ。二人は大切な国民だろう。少なくとも、俺が暇をしているときは何でも頼ってこい。聞けることなら聞いてやる」


 ノアクルは素の言葉として言ったのもあるが、母親の方が何か図面をチラチラ見ていたのもあって、要望を言い出しやすくするための発言でもある。


「で、本当にこの図面通りに造ればいいのか?」

「あ、できればキッチンをもう少し大きくして頂ければ……」

「了解、お安いご用だ」


 母親の要望で少しキッチンの鍋置き場や、かまどなどを大きくすることにした。

 一見すると図面から変更するのは全体に影響して大変そうだが、そこはスキル【リサイクル】で補正がかかる。

 それでもダメな場合はマッチョな男海賊たちに手直ししてもらうので、気負わずに作業をしていく。


「ぼくは部屋に、あのカッコイイ魔大砲が欲しい~!」

「それは無理だ。第一、何に使うんだ?」

「今度は家を……ママを守るため!」


 一度は海軍に家を焼かれたのだ。

 幼いながらも、そう思ってしまうのも無理はないだろう。

 無下に断りっぱなしというのも気が引けて、やれやれと言葉を続ける。


「ここにいる限り、俺が守ってやる。それでも足りないというのなら、お前自身が強くなってママを守れ。力だけではなく、日々の手伝いや、良い子にして心配をかけないようにしてな」

「うん、わかったよ!」

「家は完成した。何かあったらまた連絡してこい」

「本当に何から何まで、ありがとうございます!」


 スキル【リサイクル】で家を造るのより、母子へ王子っぽい振る舞いをする方が百倍気を遣った気がする。


「やはり、帝王学みたいなものはそこまで勉強してこなかったからなぁ……」


 そうぼやきつつ、次々と家を造っていくのであった。




 それから一日がかりで要望を聞きながら畑、水場、漁業関連の設備など、生活で必要なものを揃えていった。


「ノアクル様、私たちのためにお疲れ様です。みんなすごく感謝していますにゃ」

「あ、ああ……ジーニャスか……こんなの楽勝……だ……」


 ノアクルは息を切らして、大の字で寝そべっている。

 さすがに村一つを造る労力はノアクルであってもきつい。

 精神的な面でも、かなり限界に来ていた。

 心配そうに見てくるジーニャスに内心を吐露してしまう。


「スキル【リサイクル】は慣れてきたのか、成長したのかわからんが、かなりスムーズになってきた……。今なら何でもできそうな気分だ……。ただ、人心に寄り添うというのは、数が多すぎると意外と大変だな……」

「にゃはは……ノアクル様、そういうの慣れてなさげですよね」

「悔しいが反論できん……!」


 ぐったりしていると、そこへアスピとムルがやってきた。


「おい、ノアクル。税金や、海戦時の保証などはどうするかと皆が疑問に思っておるぞい」

「ノアクル~。これからの航路とか、交易はしていいのか? とかも聞かれている~」


 心身共にバテバテの状態で、さらに苦手分野の追撃を食らって耳を塞ぎたくなる。


「こういうジャンルはあいつ――ローズが口を酸っぱくして教えようとしてくれていたなぁ……ちゃんと聞いておけばよかった……」

「にゃ? ローズって、アルヴァ宰相様のご令嬢であるローズ・アルケイン様ですかにゃ?」

「なんだジーニャス、あいつのことを知っているのか? 俺の昔からの知り合いというか、腐れ縁の従姉妹いとこだ」

「はいですにゃ。海賊の横の繋がりで聞いたのですが、ちょっと前に近くのラストベガ島へお忍びで遊びに行って行方不明になったとか……」

「行方不明……?」


 随分と不穏な言葉に、ノアクルは眉をひそめてしまう。


「どうやら〝人買い領主〟と悪名高いゴルドーとギャンブルをして、負けて買われてしまったらしいですにゃ。まぁ、さすがに身分の高い方ですし、こんなのはただの噂だと思いますが」

「いや、昔から知っているが、マジでやりかねない……。だが、これは同時にチャンスだ」

「にゃ? お知り合いがこんな状態になっているらしいのに、チャンスですかにゃ?」


 ノアクルは今までの中で一番輝いた表情、それでいて悪い表情をしていた。


「ローズに貸しを作って、あいつに海上国家ノアの宰相を押しつける……!!」

「え~!?」

「進路、ラストベガ島へ! 出航ー!」

「よ、ヨーソローですにゃ~……?」


 ジーニャスだけではなく、アスピも唖然とするような視線を向けてきているが、ノアクルは気にしない。

 我が航路を進むだけだ。

 ちなみにムルは話の途中で眠たくなったのか、ハンモックに揺られていた。

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