第3話 地雷系後輩ハルちゃん

私の名前は稲村ハル。

世界一不器用で無価値な人間、だから先輩は私に見向きもしてくれなかったのです。

「なんで私、あんなこと言っちゃたんだろ」

昨日の巴瑞季先輩との食事、完全にやってしまった。

後悔してもしきれない。

「もう無理じゃん。終わったよー私の恋、終わっちゃったよー」

ベッドの上で足をバタバタさせながら私は未練たらしくも先輩に連絡しようかと考えていた。


昨日はごめんなさい


感情的になっちゃって


でも先輩だって悪いんだからね


私だって傷ついた


もっとちゃんと私を見てよ


ねぇなんでそんなにその娘のこと好きなの


私どこが足りない?


もしかして私なんか元から眼中にないのかな?


私が新入生の時、優しくしてくれたのも全部嘘だった?


それとも遊びだった?


私、もてあそばれてたんだね。


メッセージを打つ手を止め自分が送ろうとしていた文章を見直した。

なんだこのメンヘラインは!

我ながら驚きである。

「やっぱり送るの止めとこっ……!」

そっとアプリを閉じて私はおっきいクロミちゃん枕に顔を埋めた。

「あぁ、死にたいっ!死にたいっ!!」


部屋で一人病んでいると急にお姉ちゃんが入ってきた。

どうやら今日は仕事が休みでずっと家にいたようだ。

「あなた、また死にたいとか言ってたでしょ。どうしたの?男にフラれた?」

「私もうダメ。巴瑞季先輩に酷いこと言っちゃたぁ」

「酷いって、どんな?」

「お姉ちゃぁん……!どうしよっ!どうしたら仲直りできるかなぁ……!?」

姉の顔を見ているとなんだか急に悲しくなってきた。

「もう、大学生がそんな事で泣くんじゃないわよ。お姉ちゃんが相談のってあげるから、ねっ?機嫌直して」

「ありがと」

今度はなんだか急に嬉しくて泣きついてしまった。

「もうっ!泣きながらくっつくな!」

本当に面倒見がよくて頼りがいがある姉だと思う。私はそんなお姉ちゃんが大好き!

「じゃあ今日は夜ご飯一緒に行こっか。昨日給料日だったから今日は特別に奢ってあげる」

「ええっーいいのっ!」

いやお姉ちゃんそれは神すぎる。

テンション上がってきた私はすぐに準備を始め二人で家を出た。

「母さーん、今日は私たち晩御飯いらないからー」

こうして二人で外食するのはいつ以来だろうか。

お姉ちゃんは最近仕事が忙しかったみたいで中々時間が取れなかったみたいだ。

「ハルは何食べたい?」

「うーん何でもいいー」

「じゃああれだね」

「あれ?」

お姉ちゃんにくっついて電車に乗ること数駅、向かった先は焼き肉店であった。

「うわぁー焼き肉だぁ!」

私、焼き肉大好き!意外と肉食なんだよ。

「たまに来るんだよね、この店」

子供みたいに喜ぶ私を見てお姉ちゃんはにっこり笑っていた。

店に入ってみてわかったことが一つある。

この店、かなりお高いっ!!


上カルビ一人前 3000円

上ハラミ一人前 2500円

ロース 一人前 1500円

タン  一人前 1000円

……


「めっちゃ高いじゃん、この店。大丈夫なの?」

「良いよ気にしなくても。社会人の経済力は最強なんだから」

心配そうにする私を他所にお姉ちゃんは店員さんを呼んだ。

「すいませーん、注文いいですか?」

「えっとータン塩二人前と上ハラミ二人前、あとミスジとハート一人前ずつそれと旨塩キャベツと枝豆も」

「あっ最後に生中二つ」

「えっ私も飲むの……!」

「ハル、アルコール強いでしょ。いつもストゼロばっかり飲んでるんだし」

「まあいいけどさ……というかあんなに頼んで大丈夫?」

「いいの、いいの。私も今ちょっと落ち込んでてさ。飲まなきゃやってられないんだ」

お姉ちゃんが私に落ち込んでいるなんて言うのは始めてだ。

「なんかあった?」

「一週間位前の話なんだけど私が担当してた患者さん、亡くなったんだよ……」

「そっか……」

何時になく悲しそうな顔をしていた。

「その人ほんとに面白い人でさ、どれだけ辛くてもいつも笑ってるの」

「彼と喋ってると元気になれたんだ。仕事の疲れとか嫌な事とか少しだけ忘れられるの」

「でもね、彼の瞳の奥には何時も私じゃない人が映ってた、結局最後までね……」

言い淀んでお姉ちゃんは申し訳なさそうに私を見た。

「ごめんね、ハルの話聞いてあげるって言ってたのに私が愚痴っちゃった」

「それって私と同じ」

「えっ?」

「好きな人は何時も私以外を見てる」

「それ巴瑞季先輩のこと?」

「そう、巴瑞季先輩。あの人好きな娘がいるみたいなんだ」

「その娘と付き合ってるの?」

うーんと私は小首を傾げる。

「わかんないけど……多分付き合ってはいない……と思う」

「なら諦める必要ないじゃん」

きっぱりとお姉ちゃんは言う。

「たしかに今は脈なし、恋愛対象外かもしれない」

「だよね……私もう終わりだよ」

「好きって気持ちがあるかぎり終わりなんてないよ」

「巴瑞季君とあなたの恋物語はまだ始まったばかり、私は今後の貴方たちの物語が凄く楽しみだよ。たがら……」


「ハル、全力で恋愛を楽しみなさい」


少し未来の話をしようか。

この時のお姉ちゃんの言葉が一杯、勇気をくれたから私は最後の一歩を踏み出せた。

「--------------、あなたが好きです!私と付き合ってください」

どんな結果だろうと絶対後悔なんてしない。

だってこの恋は最高に楽しかったんだから!

夜の帳が降りた遊園地、私は初めての告白をした。


私が紡いだ私だけの恋物語を私が結ぶ 


なんて素敵なことだろう。



第三話 終







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ウサウサとユキ 鳴海京玄 @Putamaru

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