四十六話


 猫に質問。


「スキル? 制限は無いはずですよ。 スキルレベルが上がるほど習得は難しくなりますね。 ふむ、スキル購入は聞いたことがありませんから、確実ではないですがね」


 猫髭をしごきながら説明してくれる。

 万屋には他の客はいない。 売り上げ大丈夫か?


「スキルも魔法も存在しない世界ですか。 黒の魔皇帝が無理矢理改変したのでしょうねぇ。 え、闇属性の魔法しかない? 魔法は個人の適性に影響されますからねぇ。 他に敵性がないのかもしれません」


 なんだと……。

 全属性無双はダメなのか。 

炎と氷を極めて究極魔法とか、光の騎士とか……。

 

「ポーションを各三つ。 それにワイルドジャーキーのお買い上げですね。 しめて100クレジットです」


 もうクレジットが半分に。

 ポーションは重要。 ワイルドジャーキーは硬くて食べ応えがある。

 でもがっつり米が食べたい。 俺は腹の燃費が悪いのだ。


 残りのクレジットは木実ちゃんたち用に取っておこう。


「クフフ。 またのご来店をお待ちしておりますよ」


 

 帽子を被った猫に見送られつつ万屋を後にする。

 まだ時刻は昼過ぎ。

 ジャーキーを食べながら周囲を警戒するが、周りに敵はいない。

 夜の方が活発のようだ。


「ふむ」


 ちょっと買い物に行くか。

 カセットコンロは防災倉庫にあったけど、BBQ用の道具はなかった。

食料の配給も満足には程遠い。 足りない分は自分で調達しないとな。

 ママノエのみだと不安だし……。


「こっちか」


 俺は道を進んでいく。

 目的地はホームセンターとコンビニ。

 やってるかな?



◇◆◇



 終わった。


「あぁ……リーダー、どうしたらいいですか……?」


 俺たちが必死に作ったバリケードを、死神は簡単に飛び越え悠然と歩いてくる。 怪物の襲撃をなんども乗り切ったバリケードも、空を飛ばれれば無力か……。


「……諦めるな」


「しかし、リーダー!」


 俺は、とある大手ホームセンターのバイトリーダー。

 日用品はもちろん食料や酒も。 DIY用品の取り扱いにもすぐれ、園芸館では色鮮やかな植物たちも取り扱われている。 


「社員どもがくるまで持ちこたえる。 それが俺たちの仕事だ!」


 勤続九年。

 未だバイトな俺は、バイトリーダーとして朝の品出しの責任者を仰せつかっている。 大型トラックで運び込まれた商品の検品や搬入指示。

商品の陳列に内装のチェック。 広告に不備は無いか、バイトの求人はどうするのか。 学生の学校イベント中のシフトはどうすればいいのか。 全てはバイトリーダーである俺にゆだねられている。


 他の店舗で聞いた話では、これは正社員の仕事らしいがな。 


「うああああああ」


「だ、ダメだ! 殺されるッッ!?」


「落ち着け!」


 乙四持ちバイト木下君が混乱し持ち場から逃げた。

 人妻好きバイト大森君も錯乱して最終兵器を使おうとしている。

 それは最終兵器だから、使っちゃダメ絶対!


「敵は一人だ。 いいか? 全員で力を合わせれば勝てる! 俺たちなら、絶対勝てる!!」


「「リーダー!!」」


 安全靴にヘルメット。 作業服にスコップを装備した俺は、死神と対峙する。 スズメバチ用スプレーや高枝切狭を装備した仲間たちも続いてくれる。 機械類が無事ならばもっとましな武装ができたんだが。 フォークリフト免許も役に立たんものよ……。


 俺は覚悟を決め死神に叫んだ。


「お客様。 営業は10時からとなっております! お帰りください!!」


 何の意味もないだろう。

しかし自分を鼓舞するため、俺は全力で叫んだ。


「……」


 やはりお帰り頂けないか。

 槍を肩に担いでいた死神は構えなおす。

向かってくるかと、こちらは息を呑んだ。 しかし死神に向かってくる様子はない。

 何か探しているようだが……。


「……何時?」


「は?」


 死神が何かボソッと呟いた。


「今……何時?」


 どうやらタキシードを着た死神はお客様らしい。 



◇◆◇



 BBQ用の道具を買おうと思ったけど、意外と高い。

 そもそもガチャ代で浪費している俺の財布には、小銭しかない。


「世知辛い」


 万引き対策か。

 店員の方々が俺を監視している。 まぁこんな状況で来た客だからなぁ。 火事場泥棒だと思われても仕方ないか。 入ってくるときめちゃくちゃ武装して出迎えられたし。 ちなみに槍は傘立てにいれてきた。


「な、何かお探しですか……?」


「……」


 買い物中に店員に話しかけられたのは初めてだ。

 なんというプレッシャーかッ! 

 早く買って帰れ。 そんな圧力をヒシヒシと感じるぞ。

 これは……買わずには帰られないッッ!?


「……コレ」


「は、はい。 全部で九千八百円です……」


 全然足りない。


「ああ……た、タダで大丈夫ですよ! えぇ、ちょうど処分しようと思ってた商品なので廃棄です、は、はは、廃棄なのですよ!!」


 俺がちょっと困った顔をすると。

ヘルメットを被った店員は慌てて無料にしてくれた。

 

 うーん。 魂魄がエリートになった影響かな。 いつもよりすごい恐れられている……。 これじゃなんだか悪い人みたいで嫌だな。 なにより木実ちゃんに知られたら嫌われそう。


「……」


 コトリと。

 俺は金の代わりにポーションを置いていく。 各種一本ずつだ。

 『病気』『怪我』『体力』と説明しておいたが、理解してくれただろうか?

 ついでに近場の怪物も退治して、ヘルメットの店員さんに感謝しながらコンビニを目指す。




「助かった……」


「リーダーかっこよかったっす!」


 速攻で逃げた木下君が戻っていた。


「なんですかそれ?」


「わからん……」


 死神から貰った怪しい液体。

 病気や怪我と言っていたが、薬なんだろうか?


「毒……ですかね?」


「ん? わざわざ毒で殺す必要はないだろう……」


 その気になればいつでも……。

 死神を思い出し、ブルリと体が震えた。 

 

「ふぅ……。 バリケードを改良しよう。 あんなのがまた来ても立ち向かえるようにな!」


「「はい!!」」


 

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